兄side
妹はとても可愛いが少し変わっている。
俺が小学生の時に産まれた妹は白くて小さくて甘いミルクの匂いがした。
それだけでも可愛かったのに素直でおっとりとした柔らかい雰囲気を持つ妹は、泣き叫んだり癇癪を起こしたり怒ったりしているところを見た事がない。
とても可愛くて良い子なのだけど、何処か浮世離れした空気をもっていた。
いつもニコニコと楽しそうにしているが天然で他人からの悪意に少し疎いところがある。
決して鈍いわけではないのに受け取り方が少し変なのだ。
それでもまぁ、そんな妹が可愛くて昔からよく連れ回していた。
そして、そんな妹を連れ回す俺に人生の汚点を残す事になるキッカケを与えた事件が起こるのだ。
俺が小学生くらいの頃、道路で危うく車に轢かれそうになった事があった。ギリギリのところで避けた為ぶつかる事はなかったが、勢いよく横にあった蓋のない側溝に足が嵌り思いっきり捻ったのだ。
余りの痛さに声も出ず、動けなくなってしまったところに妹が慌てた様子で駆けつけてきた。
そして、妹が怪我を治してくれたのだ。
…というより、その時の俺は妹が怪我を治してくれたと何故か思い込んでしまったのだ。
あまりよく覚えていないのだが、当時の俺は何故か酷い怪我だったと思いこみ、治ったのは妹が不思議な力で治したのだと思い込んでいた。
…一体何故そんな勘違いをしたのだろう…。
ひとまず帰って自分の状況を両親に話したところ、自分の話を大袈裟だと言われそんな反応に不貞腐ていた事を覚えている。
そして、そんな時にも俺の話を真剣に聞いてくれたのは妹だけだった。
今、思えば幼い妹は俺の言葉の意味もわからず、ただそのまま素直に相槌を打っていただけだろう。…まだ幼かったし。
それなのに、俺はそれをキッカケに妹が特別な存在に違いないと強く思い込んだ。
そして、そんな妹の兄である自分はもっとすごい存在なのだと考え始めてしまったのだ。
それからの俺はそのまま導かれるように厨ニ病に侵されていった…
それはもう、正統派のお手本通りのような厨ニ病患者となったのだ。
まだ、ギリ子供だったこともあり、なまじ素直だった為に親からの注意をちゃんと守り、秘められた力(魔眼)の存在を家族以外に話さなかった自分を褒めたい。
そして、混乱(魔王の存在を明らかにする事によって起こされる)を避ける為に左手の封印の事を無闇に友人達に話して回らない方が良いと助言をしてくれた両親には、ただただ感謝しかない。
…こうして両親の巧みな誘導により、俺の秘密(黒歴史)は家庭内のみで留めることができたのだ。
…俺の歴史は、ギリギリのところで守られたのだ。