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帰ります


 大きく開かれた王宮の広間には、暖かい色の西陽が差し込んでいました。


 かつての喧騒と怒号が嘘のように消え、広間には静かな空気が流れています。


 街の混乱も少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるという報告に皆の肩の力も少しだけ抜くことが出来たのでしょう。



 なんとなく、ぼんやりと広間の様子を見ていた私達のところへ、忙しそうに采配していたはずの第一王子様が歩み寄ってきました。


 彼の背後には、新しく重役に任命された者達も付いています。


 どうやら…多少の混乱はありますが、この国はまだ大丈夫そうですね。



「“大聖女”・ヤマダ殿」


「…え、あ、はい…?」


 …大聖女ではないのですが…


 何やら、第一王子様がきりりとした顔でこちらへと話し始めました。


「今回の事、深く感謝申し上げます。あなたの力がなければ、この国は本当に――…」


 こちらへと向き合った第一王子は自責の念と共に心からの感謝の気持ちを一生懸命伝えてくれました。



「…いえ、あの、とんでもないです。私は、ただ……無くなる必要の無かった命を戻しただけなので…

 …私が、そうしたかったから…しただけなので気にしないでください」


 私の言葉に第一王子様はわずかに目を細め静かに頷きます。


「…それでも、あなたが救ってくれた命と未来は、この国の責任において重要なものです」


 誠実な声でそう言うと、王子は一歩進み出ます。そして表情を引き締めて続けます。



「…今回の事で、王とその取り巻きに関しては国家反逆罪および重大な倫理違反として、これより厳正な審問と裁きを行います。

 …また、過去の魔王討伐の真実や、禁忌の召喚に関する全ての記録は、事実として保管・公開されます」


 隣にいた新たな重鎮のひとりが続きます。


「民の信頼を取り戻すためにも、この国はもう、隠し事はしません。魔王に対する認識も、正しく解いていくつもりです」


 決意も新たに何処かスッキリとした顔で話す彼等を見て、私は小さく息を吐きました。


 …きっと皆がこの国の歪さには気がついていたのでしょう。これをキッカケに良い方へと向かう事を願います。


 一緒にいる佐藤くんやルミエール様、戦士様も柔らかい顔で第一王子様の言葉に耳を傾けていました。





「……あの」


 そんな中、私は思い切って第一王子様へと声をかけます。


 第一王子様はすぐに応じて、こちらへと目を向けます。佐藤くんやルミエール様達も不思議そうな顔でこちらを見ました。


「どうされましたか、ヤマダ殿」


 私は困ったようにほんの少し視線を落とし、手を胸元に添えます。


「…あ、あの、“大聖女”の……スキルのことなんですが…」


 さりげなくこちらへと意識を向けていた人達の動きが一瞬止まったように感じました。


 広間が静まり返り、誰もがあの奇跡のような光景を思い出しているようです。


 失われた命が戻ったあの光景をーー



 …しかし、


「……できれば、あれは内緒にして貰いたいのですが…」


 ぽつりと告げた私の言葉に、皆が一瞬息を飲んだのがわかりました。


 そして、困惑の空気が広がります。


 いえ、これだけ沢山の人に知られたのに無理な事を言ってるのはわかっているのです。


 しかし…


 …私は…これ以上、黒歴史を増やしたくはないのです…


 悪あがきだとはわかっていましたが、藁にもすがる気持ちで第一王子様へと訴えてみました。


「…今の私は“聖女”ではありませんので…そんな私が突然私“大聖女スキルを使える”なんて混乱を招くだけです……」


「…いえ、…しかし…」


「それに!…わたし……あまり知られたくないというか……“聖女”と呼ばれたくないと言うか…」



 第一王子はその言葉を黙って聞いてくれていましたが、やがて深く頷きます。


「わかりました。…“奇跡が起きた”ということで処理いたしましょう」


「…!」


「…どんな理由があるかはわかりませんが、貴方が何かを望むのなら出来る範囲の事であれば叶えたいと思っています。

 …今回の件で“大聖女”スキルを使った事は知られてしまいましたが、“使った人物”についてはまだ正確に特定されていない筈です。

 王宮からの発表には貴方の名前は控えるように通達しましょう」


「…あ、ありがとうございます!」



 おお、言ってみるものですね!



「……貴方自らの希望という事であればきっと事実を知る者達も口を塞ぐでしょう…」



 王子様の言葉にこちらへと意識を向けていた人々が力強い目線で同意を表してくれているのがわかりました。


 少し、大袈裟な気もしますがとてもありがたいです!


 第一王子様と私の会話を聞いていたルミエール様が困ったように苦笑を漏らします。


「…まったく、相変わらず謙虚な聖女様ね」


「……本当に“聖女”は変わらないな」


 戦士様もうんうんと頷いています。


 そんな彼らの言葉に私は思わず慌てて否定をしました。


「…あ!…いえ…あの、私は“聖女”ではなくて…今はごくごく普通の一般的な1人の人間で…」


ルミエール様達に“聖女”だった事は伝えていない筈なので必死に弁明をしようとしました。



「わかってるわ。…私は…貴方が幸せなら“聖女”でも“ヤマダ”でもどっちでも良いのよ!」


「お前がそれでいいなら…俺も口を塞ぐさ…」


「…ルミエール様…戦士様…」



 きっと、2人は既に私の“前世”に気がついたのかもしれません…。


でも、私が望まないのに気がついたのか…それ以上の追求をする事はありませんでした。



「…ありがとうございます」


 その小さなお礼の言葉にまた皆の顔が少しだけ優しくなった気がしました。



 ふと、横を見れば佐藤くんも微笑んで頷いてくれています。


 その表情は“良かったね”とでも言うようでその何気ない変わらない笑顔に胸が少しだけ温かくなりました。




第一王子様達は暫く静かに優しい瞳で私達を見ていましたが、ふと姿勢を正します。


そして一歩後ろに佇む黒衣の男――魔王の方へと身体を向けました。


そんな第一王子様に対して、魔王は特に何も言う事もなく静かに佇んでいます。



「……あなたは、もはやこの国の脅威ではありません。あなたの力は――確かにこの国を救ってくれました。この真実を隠す事もありません」


王子の言葉に、魔王はほんの少しだけ視線を動かし、こちらへと視線を向けます。


 なんとなく目が合ったので魔王へ小さく微笑むと、何故か目を見張ったように見えました。


 少し驚いた様に見えた魔王はすぐに元に戻って王子の方へと視線を向け直します。


「……魔物は…俺が存在する限り消える事はない…

 …だが、意図的に人間の集落を襲う事は無くなる筈だ…」


 魔王は魔物達は魔王の気持ちに影響を受けると言っていました。…これはつまり、魔王は人間に対して既に悪意を持っていないという事を表しているのでしょう。


 第一王子様達もその事に気がついたのか目線を送り合って頷いています。


「…感謝いたします」


 第一王子様は魔王に対して深々と頭を下げました。




「……ヤマダ様」


 第一王子の隣に立っていた初老の重臣が一歩前に出てきました。


「大聖女、ヤマダ様。そして魔王殿。このたびは、この国をお救いいただき……国として、できる限りの礼を尽くしたいと考えております。もしよろしければ、今後はこの王宮にお残りいただき――」


「……止めろ」


「……王子殿下?」



 第一王子は静かでしたが、有無を言わせぬ声音で重臣の言葉を遮ります。


「そのような言葉は、彼女達をまた利用することに他ならない」


重臣は王子の言葉に口をつぐみました。


「…もし、彼女達を再び“国のために”と縛ろうとするのなら…きっとまた過ちを繰り返す事となる」


王子様の言葉に重臣は驚いて少しだけ目を見開いたあと、一歩後ろへと下がり頭を下げます。


これ以上は口を挟むつもりも余計な事を言う気もないと態度で示したようです。


私はその様子を見て思わず小さく微笑みました。


「……ありがとうございます、第一王子様。わたしの気持ちを、ちゃんと見てくれて」


「とんでもありません。…感謝すべきはこちらです。あなたと、魔王殿、そして皆さんがいてくれたから……我が国は滅びずに済んだ」


 彼は再び深々と頭を下げました。


「……この国の未来に、また手を差し伸べていただける日が来ることを願いつつ、今はどうか、ご自身の歩みを大切にしてください」


 その誠実な言葉に、穏やかにうなずき返します。



「…はい。この国はきっと私たちがいなくても大丈夫だと思います。…それに、私達もそろそろ元の世界に帰ろうと思ってますので…」



「…」




 何故かその場に沈黙が落ちました。



「……えっと…“帰る”…ですか…?」



「はい。元々私達はこの世界で生まれたわけでもないですし、自分達の世界に帰ります」



「「…」」



「?」



「…あ、あの、聖…“ヤマダ様。大変申し訳ないのですが…

“召喚の術”はありますが……“帰還の術”は存在しません」


「…?」


「…召喚は一方通行です。…それも禁止となった理由のひとつでして…」



「……え?…“帰還の術”はありますよ」



「「「………え?」」」



 キョトンとした顔で答えた私に対して他のみんなの表情は何故か固まってしまいました。



ふふふ、召喚できるのなら返還もセットなのに、皆は意外と気が付かないものなのですね。



「…え?…ちょ、ちょっと待って山田さん!」


「…?どうしたの?佐藤くん」


いつにない慌てた様子の佐藤くんに思わず顔を向けます。


「…僕たち帰れるの?」



何を当たり前の事を言い出すのでしょうか


「…召喚があるのならそりゃ帰還の魔法もありますよ。ね、ルミエール様」


私の言葉に驚いた者達の視線が一斉にルミエール様へと向かいました。


「…ま、まぁ、それはあるけれど…。ヤマダ、よく知っていたな…」


「…!!」


…つい、うっかりしていました。


「…る、ルミエール様はとてもすごい魔術師なので…城の魔術師達が出来る事くらいなら、余裕だと思っただけです……」


「…え、ルミエール様ってそんなにすごい魔術師だったの…?」



「…!!」



…佐藤くんの突っ込みが鋭くてとても困ります……


私が恨めしい顔で佐藤くんを睨んだのですが、本人はキョトンとしていました。


「…セ、ヤマダは帰還するのか…?」


突然、元勇者で現魔王が急に話に割り込んできました。



「…はい。出来れば召喚された時間へと戻して頂きたいのですが……」


「…それならば俺が戻してやろう」


突然の魔王の提案にみんなが目を丸くします。


「え?…でも…」


良いのでしょうか?


「…ルミエールの魔力では、元の世界には戻れても時間までは無理だ…」


「え…それは困ります…」


「…だから、俺が送ってやる」


…なんと。



元勇者様で現魔王様はやはり優しいですね。



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