戦士との再会
「あなた達には紹介と説明をしておくわ」
そう言ってルミエール様が連れてきたのは、かつて勇者パーティーにて一緒に旅をしていた仲間の1人、戦士様でした。
「お、そっちが噂の……新人冒険者達か?」
「「…」!!」
低くどこか安心感のある声と共に部屋へと現れたのは、神父服を纏った背の高い壮年の男性です。
白い衣に無精髭、手には何故かお酒の入ったカップを持っていました。
こちらを見るその顔には柔らかな笑みを浮かべています。
優しい眼差しの奥に鋭さが垣間見えるその顔に私は一瞬、目を奪われました。
私の胸に思わず懐かしさが広がります。
「……あ、お酒…?」
佐藤くんの呟きに私とルミエール様の視線が木製のカップに落とされました。
「…貴方、あの後まだ飲んでいたの…?」
…これは、なんだかとても懐かしいやり取りです。
…確かルミエール様も戦士様も旅の途中でよくお酒を楽しんでいらっしゃいました。その時はルミエール様も勇者様からお説教を受けていたものですが…
そんな風に懐かしく思い出していると…神父服をまとった――元戦士様は悪戯っ子のような表情で肩をすくめました。
「…あー、いやいや…あのルミエールとまた会って飲めるとは思わなくてな。…懐かしくなってついな…。…それに…酒を開けたのも、あの時以来だし…な…」
後半は小さな呟きだったので…聞こえていたのはルミエール様だけのようでした。
そして、彼が言う「あの時」が…魔王討伐が終わった直後、すべてが崩れてそれぞれが道を違えたあの日のことだと言うことも私は何も知らず……ルミエールの瞳に一瞬よぎった複雑な光を不思議そうに見ていたのです。
「…私は、あなたが神父になるなんて思ってなかったわ」
「はは、俺だって思ってなかったさ。説教より剣のほうが得意だったしな。でも、剣を手放して分かったんだ。……誰かのために祈るってのも、悪くないって」
私と佐藤くんはかつての戦士様を見つめます。
ルミエール様はそんな私達へと視線を向け直すと穏やかな顔で告げたのです。
「…実はね、私とこっちの神父…過去に魔王を討伐した勇者パーティーの仲間なのよ」
「…ま、そういう事だ」
「「…!」」
くるりとこっちを向いたルミエール様からのあまりに突然な告白に私も佐藤くんもビックリしてしまいました。
横では戦士様も悪戯っ子のようにニヤニヤと笑いながら頷いています。
あれ?ルミエール様…そんなに簡単に話ちゃって大丈夫なのでしょうか…?
てっきり、ルミエール様も黒い歴史を隠しているのだとばかり思っていたのですが…
私達の困惑を少し楽しげに見つつルミエール様は話を進めます。
「本来なら話すつもりはなかったんだけど…あなた達は魔王討伐のための勇者召喚にてこちらの世界へと来た…つまり、無関係ではないからこそ話す事を決めたの」
そう言って、ルミエール様と戦士様は自分達が勇者パーティーだった事を私たちに話始めたのです。
「ーーーーこうして、魔王討伐後には国から褒賞が出される筈だった。…けれど、生き残った私たちは全員がそれを辞退したの。…もちろん、王都からもすぐに去ったわ。…だから、王達は私たちの事を大々的に発表する事が出来なかったのよ…」
「…俺たちは帰還の報告に城へとは向かったけれど、祝賀パーティーには出なかった…褒賞を貰うこともなくそれぞれが自分の故郷だったり望む場所へと戻ったんだ…」
私の知らなかった魔王討伐後の話を聞き、私は茫然としてしまいました…
「……あ、あの、勇者様の居場所は…」
「…それは…私達もわからないわ…」
「…」
…なんということでしょう…
私は魔王討伐後は何の憂いもなく皆が幸せに過ごしているものだとばかり思っていたのです。
それが…
「……私たちは仲間を見殺しにしてしまった。あの子を犠牲にしてのうのうと幸せを享受するなんて…出来る筈がないわ…」
そんな事を当たり前のように話すルミエール様と、横で悲しみを含んだ優しい眼差しを向ける戦士様に私は我慢が出来ませんでした。
「…そんな……その聖女、様は…きっと大切な仲間達こそ幸せになって欲しかったのだと…思います」
前世の事に口を出すのは極力控えようと心に決めていたのです。…でも、これに関しては聞き流す事は出来ません。
私の泣きそうな…必死な様子にルミエール様たちは少し驚いた様子を見せました。
「…そう、ね…」
困ったように微笑むルミエール様に私は必死で言葉を伝えます。
「も、もちろん、他の人たちの幸せも大切だけど……最期に幸せを与えてくれた仲間達にこそ、一番大切で幸せになって欲しかった…だからこそ、わた…聖女…様、は笑顔で最期を迎えられた…の、だと思います。…それなのに、その仲間達が苦しんでいたら、そちらの方が死んでも死にきれない…と、思う…と、思います」
「「「…」」」
半泣きで必死に伝える私の様子にいつの間にかルミエール様も戦士様も佐藤くんもポカンとした顔で私を見つめていました。
「…あ」
…ちょっと感情的になり過ぎてしまいました…
でも、それだけとてもとても大事な事なのです。
「…あ、あの、これは…私だったら、と、いうか、そうなのではないかと…思った、だけなのですけど……えっと、…でも、間違ってないというか…えっと…………その、すいません…」
「「…」」
今の私にそんな事を言われても伝わる筈がないのに…それでも、そんな風に思われているのはどうしても許せません…
私は言葉に詰まり、下を向いて唇を噛み締めました。
「…」
「…」
「…っふ」
「っは」
……?
「…っふ、ふふふっ」
「…は、ははっ」
「…?」
「…そうね、あの子ならそう言うかもしれないわ。…ふふ」
「…はっ。そうだな、あいつは人のことを恨むような奴じゃなかった…」
「……」
今度は私がポカンと2人の顔を見上げます。
2人は何故か優しい笑顔で笑い声を上げています。
「……多分、山田さんの気持ちは伝わったと思うよ…」
優しい佐藤くんの言葉に半泣きだった私の瞳から涙が一粒溢れてしまいました。




