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兄の秘められた力


暖かい日差しの中、明るい光に目を覚ますといつもより早い時間に目が覚めてしまいました。



朝はいつも少しバタバタしています。


兄の悠真は今年から“チュウガッコウ”という学舎に行かなければいけません。


そして、私ももうすぐ“ホイクエン”に行く時間です。


最初は教会のようなモノだと思っていた“ホイクエン”はどうやら幼児を預ける公的機関の名前でした。


“ガッコウ”は学ぶ場所だと知っているので兄は一足先に社会の勉強を始めているのでしょう。



母はいつも私達のためにご飯を用意すると“ガッコウ”や“ホイクエン”に持っていくための持ち物を確認したり、父と自分用のお弁当を作ったりと忙しそうにしています。



私もなるべく母に手間をかけさせないようにと寝室からキッチンのテーブルへと自分で向かって邪魔にならないように静かに食事をとるようにしています。


「おはよう、柚葉」


「おや、早いね柚葉。おはよう」



テーブルには既に起きていた兄が父と一緒に美味しそうに朝食を食べています。


「おはようごしゃいましゅ」


5歳の私の滑舌はまだ未熟なままです。


歯が抜ける事によって、たたちつてと、ささしすせそ、濁音などの発音が難しいのです。


せっかく言葉は上達していたのに…



いつも元気いっぱいにご飯を頬張る兄がこちらを見ると何かを思いついたような楽しそうな顔になりました。


そして、私の顔に自分の顔を近づけてきます。


お兄ちゃん、ほっぺたにいっぱいご飯が付いていますよ。


気持ち父から距離を取った兄はコッソリと内緒話のように私へと話しかけ始めました。


ただ、兄の内緒話は声が大きいので父には丸聞こえだと思います。


父はいつものことだとばかりに、自分の食事をとりながらも兄の机の上を片付けています。


「…内緒だぞ。お前にだけ教えてやるんだが……実は…俺の左腕には魔王が封印されているんだ…」


「…!!」


私はあまりの衝撃に言葉を失ってしまいました。


しかし、驚いたのは私だけではないようで、横目で見ていた父の動きも止まっています。


「…ま、まおう?…お、おにいしゃんのひしゃりうえに…!?」



…なんという事でしょう。私は全く知りませんでした…


まさか、魔王がまだ存在したなんて!?


あまりの驚きに問い返してしまいましたが、兄はどこか得意気にこちらを見ています。


そして、当然ですが父も驚いた表情でこちらを凝視しています。


私は驚きの余り、持っていたおにぎりを手放し魔王が封印されているであろう兄の左腕を掴みましたが、兄の左腕からは全く魔王の気配を感じる事は出来ません…


…これはきっと、私にも感じることの出来ない程強力な封印に違いないです…


父も…余りに驚きの事実だったのか何やらすごい勢いで母の元へと走って行きました。




そんな、こんな完璧に気配を消すほどの封印を施せるなんて…


「おにいしゃん、しゅごい…」


「ふっふっふ。そうだろうそうだろう」


そこにはドヤ顔をする兄とキラキラした目でそれを見つめる私の2人がいたのです。



兄は私の様子をチラリと見ると、今度は前髪が少しだけ被っている右目に手を添えます。


「…あぁ、今日は右目が疼くな…」


「?」


…右目?



「実は…俺の右目は魔眼なんだ…どうやら秘められし力が騒いでいるらしい…」


秘められし力!?騒ぐ!?


それって魔力暴走の前兆なのでは…!?


この世界には、聖女も存在しないので同じように魔力も存在しないのだと思っていました。


しかし、どうやら公にされていないだけで実は存在していたのでしょう。


そして、兄はその魔力を持っていたようです。


「…お、おにいしゃん、らいしょうぶ!?」


「…今日は少し、この疼きを落ち着ける為にも学校は休みに…」


世間では知られていない力を持ってしまった兄は今までそのような気配を一切感じさせませんでした。


いつも元気いっぱいな兄がそんな状態だったなんてとても心配です。


泣きそうになりながらオロオロとする私の横に母が立ちました。


後ろには父がいます。きっと息子の一大事に母を呼びに行ったのでしょう。


家族の一大事なので当然の行動です。



「バカな事言ってないで、ちゃんと学校に行きなさい!!」


「あ、やべ…」


「…!?」



大変な事態なのに何故かいつも優しい母からは厳しい声が上がり、それを聞いた私は驚きのあまり思わず母を凝視してしまいました。


そして、横では何故か父までもホッとしたように母に同調してウンウンと頷いています。


そんな!こんな時に学舎に行くなんて…いえ、私が知らないだけで“チュウガッコウ”にはそれを落ち着かせる何かがあるのかもしれません。


しかし、兄が心配でついついオロオロとしてしまいます。


そんな戸惑う私の頭を心なしかしょんぼりした兄がそっと撫でてくれました。



「おかあしゃん、おにいしゃんは…」


必死に兄を庇おうと母に言い募ろうとした私は兄に引き止められました。


「いいんだ。…これは誰にも理解される事のない力…なんとか、俺の力で制御してみせる…」


「…うぅ、おにいしゃん…」


なんて、強い心でしょう…



何故か母は横で大きなため息を吐いていました。




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