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聖女ではありません



ルミエール様に私達が召喚者だと伝えてから、クラスメート達の情報を私達へとなるべく教えてくれます。


…こんな気遣いが出来るなんて、やはりルミエール様の優しさは変わっていないのですね。



ルミエール様からの話を聞いている限りでは、クラスメートの中でも希少スキル持ちだった彼等はまだスキルを発現していない様子でした。


…まぁ、こんな短期間ではなかなか難しい条件のモノが多そうでしたから当然だとは思います。



一方で佐藤くんはすごいです。


もちろん運もありますがスキルが発現出来たのは間違いなく佐藤くんの才能と努力の結果だったのだとわかりました。


色々と会話をしていて知ったのですが、佐藤くんはゲームが好きで色々と戦略等にも詳しいようでした。


三国志や戦国時代の本なども沢山読んでいたり、ゲームでも使える戦法などを勉強したりと必要な知識を既に備えていたのだと思います。


それに、年齢や性別に関係なく強い方達ともよく一緒に対戦していたらしいのでおそらくそそれらが“経験”としてカウントされたのではないかとも思いました。


ゲームの期間もそれなりに長かった様なのでそれも“経験値”として加算され……結果、希少スキルにも限らずこんなに早く力を発現する事が出来たのだと思います。


これは、こちらの世界ではまず無理な方法であり、こんなに若くしてこんな希少スキルが使えるなんてとてもすごい事です。


肉体的に鍛えなければいけないスキルではなく、知略的なスキルだったのも良かったですね。


おかげで先に起こる襲撃を把握できるだけではなく、戦略を立てるのにも重宝されるようになりました。




「…召喚者の中にいる“聖女”と呼ばれる少女はこの国の第三王子と良い仲になったみたい…

…でも、その第三王子には侯爵令嬢の婚約者がいるらしくて…貴族達からは大分反感を買っているようね…」



……え、鈴木さんが第三王子と…?


ルミエール様からの情報に私はとても驚いたのですが、横にいる佐藤くんには然程驚いた様子はありません。


「…鈴木さん…いや、聖女と言われている子ならそういう事があってもおかしくない、と思う…」


苦々しい顔ながらも何処か納得したような顔で頷いています。



…私はてっきり、鈴木さんは進藤くんと良い感じなのかと思ってましたが……どうやら違ったようですね。



「…この少女…情報によると、とても“聖女”なんて呼べない性格の子ね…」


ルミエール様はすごく不快そうな顔でそう言いました。


あまり表情が変わらないようになったルミエール様にしては珍しい事です。


どうやら鈴木さんは“聖女”と呼ばれる事に慣れて我儘を言いたい放題言っているようですね。


しかも、その傲慢な態度で貴族の令嬢達とのトラブルにも事欠かないようです。


……鈴木さん、そんなに強気でいて大丈夫なのでしょうか…


私としては“聖女”として生きる予定なら、スキルの発現の為にもそんな生活をしている場合ではないのに…と心配な気持ちでいっぱいです。




「……“聖女”は…もっと神聖な存在なのに…」


前方から聞こえた、ルミエール様の呟きはなんだかとても悲しい響きを持っていました。


…いえいえ、ルミエール様。…聖女は実際そんなに清廉な存在ではないと知っているではないですか。


一緒に旅をした事のあるルミエール様は当時聖女だった私のフォローをよくしてくれていました。


あんなに迷惑をかけたのに何故、聖女へのイメージがそんな良いものになっているのかが不思議です。


しかし、言葉に出す事は出来ないのでルミエール様への反論は心の中に留めます。



ギルドで聞いた噂話にしても、やたら“聖女”が美化されている気がしました。


ルミエール様なら私と旅をしていたので正確な情報をしっていると思ったのですが…


なんだか知らないうちに前世の私(聖女)がひとり歩きをしているようで不安になります。


やはり、黒い歴史は周りをも黒く染めていくのでしょうか…。




「…なんか…山田さんの方がよっぽど“聖女”っぽいよね」


場の空気を変えようとしたのか佐藤くんが明るい声でそう言いました。


その言葉に少し驚いた様子をみせたルミエール様は、珍しく少しだけ楽しそうに笑いました。


「…はは。確かに…。そんな少女よりも薬草を持って駆け回っていたヤマダの方が余程“聖女”っぽいわね…」


今世で、初めてルミエール様の笑顔を見れた事に喜ぶ場面ではあると思います…



…しかし、言われたその内容に私の笑顔は引き攣りました。



「…と、とんでもないです!!私は“聖女”なんて…ぜ、全然、ぜんぜん違いますよ!」


少し勢いよく反論をしてしまった事で佐藤くんもルミエール様も戸惑ったようにこちらを見ました。



「…?…わかってるよ。…でも、山田さんって、いつも誰かが困ってると助けてくれるし…」


「…そ、そんなのは当たり前の事です!」



黒歴史がバレてはいけないと必死に否定する私を見ていたルミエール様の懐かしむような声が聞こえてきました。


「……当たり前の、こと…か…」



ん?何処かでこれに似た会話をした事があるような……?


いえ、今はそれどころではありません。


今は今世での最大のピンチです。



「…わ、私はごくごく普通の“一般人”ですからね。…い、一緒にしてはいけません」


「……まぁ、山田さんがそう言うなら…僕は別にどっちでも良いんだけど…」


どっちでも良いのなら、ぜひ一緒にはしないで欲しいです。


「…でも…僕にとったら山田さんは聖女のようなものだよ…」


そう小さく呟いた佐藤くんの声は…私まで届いていませんでした。



佐藤くんはおかしな事を言い出すし、ルミエール様も何だか懐かしい顔でこちらを見ていますし、私は引き攣った笑顔を顔に貼り付けながらも背中は汗でびっしょりです。



私はもう聖女ではないのです。


聖女にもなりません。




本当……何とも恐ろしい事に…黒歴史がどこまでも私の人生を追いかけてきて困ります……


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愚兄の罪は重い
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