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定番の展開


冒険者登録を済ませた私たちは、翌日から新たな依頼を探すためにも掲示板を見にきていました。


するとそこへ、少し荒んだ空気を纏った冒険者っぽい男たちが近づいてきます。


掲示板に用事があるのかと思い横に避けようとすると私達に声を掛けてきました。


「おいおい、新入りか?」


少しダミ声の低い声が響きます。


体格のいい男が三人。装備はそれなりに使い込まれているけど、なんだか態度も空気も悪いです。


こちらを上から下まで見ると、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべています。


つい、私もそんな彼らを観察してみたのですが………不摂生のために筋力も落ちていますし、少し浮腫みも出ています。外傷は多少あるものの気になる程の傷も病気も今のところは見当たりません。


しかし、お酒の飲み過ぎの為か冒険者としては動きに支障をきたす身体になりつつあるので、生活を見直す事をお勧めしたい気持ちになりました。



「お前ら、冒険者ナメてんじゃねぇか?」


「お嬢ちゃん、そんな細っこい体で冒険者なんて務まるのかよ?」


「こっちの坊主もちっこいし、せいぜい荷物持ちくらいにしとけよ」


……あれ?…これは、どうやら私達絡まれたようですね。


前世でも冒険者ギルドには一定数、このように決まって “相手の実力が読めない”みたいな人達が存在しました。


そして、新人や弱そうに見える者達に絡んでは問題を起こすのです。


…今も変わらず同じなんですね。


どことなく感慨深い気持ちになる私の隣で佐藤くんが怯んでいるのがわかりました。


「……山田さん、大丈夫?…アッチに行こうか」


「…大丈夫だよ」


不安そうにしながらも私を気遣ってくれる佐藤くんに私はにっこりと微笑んで、目の前の男たちに向き直ります。



「ええと……何かご用ですか?」


「ご用? そうだなぁ……俺たちが親切にも弱っちいお前らに『冒険者の心得』ってやつを教えてやろうかなってな…」


「ギャハハ、そうだなそんな親切な俺たちへのお礼は酒代で良いぜ」


「…もちろん酌ぐらいは付き合って貰わなきゃならんがな、ケケケ…」


明らかに心得なんて教えられそうにない彼等の発言に私は驚きを禁じ得ません。


流石にもっと他の何かは無かったのでしょうか…


「…いえ、ご遠慮します」


私は普通にお断りしました。


「…は?…なんだと。ガキが調子乗ってんじゃねぇぞ、コラ」


「大人しくちょっと金を払えば痛い目に合わなくて済むんだぜ」


「お、早速お勉強出来たじゃねえか、ギャハハ」


私の返答が気に入らなかったのか1人の男がニヤニヤ笑いを止めてコチラを睨みつけます。


しかし、私はさらに言葉を重ねました。


「………そもそも、その心得とは何ですか?」


「は?」


「だって、冒険者は依頼をこなして報酬をもらう仕事ですよね? 貴方達は既にお酒を嗜まれている様ですが…依頼も受けずにお酒を飲まれるのがその心得とやらなのでしょうか…?」


「は?…んだと、テメェ……」


「…なんだコイツ」


「ギャハハ」



私は既にかつての仲間達から冒険者については色々と教えて貰っているのです。


新人や自分達より弱そうに見える者に絡むような人達からわざわざ教えて貰う心得なんて思い当たりません。


「……自分と相手の力の差さえもわからない方達から教わることなんて、特にないかと」


「……あ?」


「…どういう意味だ、コラッ」


うっかり本音の漏れた私の言葉に男たちの表情が変わります。


正直、前世の経験からこういった、コチラを見下した態度をされるのには慣れていました。


それに荒くれ者の集まるギルドはいつでもケンカは絶えません。


でも…既に聖女ではない私にはもう穏便に事を運ぶ為に我慢する必要も素直に言われたままでいる必要もないのです。



前世、一緒に旅をした魔術師のルミエール様が教えてくれました。


『舐めてくる奴には一発かましてやれば良いのよ!弱い奴ほど相手の実力がわかんないんだから、そんなアホには身体で教えてやりな』


美しい彼女と同じように美しくて凛とした声が色鮮やかに記憶の中へと甦ってきます。


彼女は博識で私には知らなかった事も沢山教えてくれました。


旅の途中、こういった人達に絡まれた時の相手はいつも仲間の皆がしてくれていました。今は仲間は居ませんが私はちゃんと見て学んでいたので大丈夫です。


対処法はわかっています。


私はそっと魔力に力を込めます。


「《威圧》」


 ——バチッ。


彼等の空気が一瞬で張り詰めたのがわかりました。


こちらを馬鹿にしていた様子の男たちの顔が一気に青ざめます。

 

「なっ……!?」


《威圧》は、相手に対してプレッシャーを与えるモノです。


高位の存在が使うと、相手の動きを封じる効果もあるのです。


これは、よく“戦士”が使っていましたね…。

あまり魔術系は得意ではない中でこれだけは楽しそうに習得していたのをよく覚えています。


そして、もちろん私も使えます。


私はもともと旅立ち前に聖女として民への献身の為、魔物の相手をする事などもそれなりにありました。


魔法の扱いだって勇者パーティーにいて不足がない程度には使えます。


《威圧》は、使うと簡単に相手との実力差を肌で感じる事が出来るとても便利な技なのです。

これは、魔物相手にも有効なので本当によくお世話になりました。




…さて、これで彼等も私の実力をある程度感じ取れたのではないでしょうか…


ヘタな説得よりも余程わかりやすいので、“自分達より弱い”という思い込みも払拭出来た筈です。




「…な、何だ、コレ…。う、動けねぇ……!?」


「…うゎ…な、なんなんだ、…何だよコレ……」


「…う…ゥグ…」




……あれ?



…真っ青で震える彼等は確かに戸惑っているようですが、何故かこれが《威圧》だと理解していないようにも見えました。


《威圧》も知らないような冒険者なんて大丈夫なのでしょうか…



「……あの、言いがかりをつけるのは勝手ですけど、実力がないならやめておいたほうがいいですよ?」


私は親切のつもりでそうアドバイスをすると、ゆっくりと威圧を解きます。


男たちは、崩れるようにその場に座り込みました。


しばらくは肩で息をしていましたが、やがて顔色が真っ青のまま立ち上がると——


「……」


「…お、覚えてろよ…!」


「…く、くそっ、…い、行くぞ!」


と、震えながらも捨て台詞を残して逃げていきました。


これは、前世でもよく見た光景です。


今回のことに懲りて、ちゃんと相手の実力を確認するようになると良いのですが……




「や、山田さん……すごすぎない…?」


「え?」


「いや、なんか、もっと大変なことになるのかと思ったけど…よくわからないうちに解決してたし……」


「いやいや、普通に話してただけだよ?」


ちょっとだけ、簡単な《威圧》はしたけど。


私がさらっと答えると、山田くんは変な顔をしました。


「いやいやいや、明らかにあいつらおかしかったし……」


「そうかな? 私、何かしてるようにみえた?」


「……してた!! 絶対してた!!」


「うーん?」


私は首をかしげて惚けながら、掲示板へと視線を戻します。


まあ、とりあえず解決したからそんな事は気にしなくてもよいのではないでしょうか。


「ま、とりあえず次の依頼を探そうよ」


「…山田さんって……」


小さく呟く佐藤くんの言葉を気にすることもなく、私は依頼を選び始めます。


佐藤くんから向けられる、戸惑いの中に含まれた熱い尊敬の眼差しに気がつく事もなく私たちの冒険者生活はまだ暫く続くのでした。




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