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王様達の企み


王宮の広間は、華やかな宴の準備で賑わっていた。


異世界から召喚された”勇者”たちのための盛大な夕餉。


一番奥の高い場所では王が慈愛に満ちた笑みを浮かべ、召喚された少年少女たちに歓迎している様子を見せつける。



ーーだが、その裏で…


夜深く、王城の奥深くで秘密裏に開かれる会議。


そこに集まったのは、王、軍の高官、そして教会の上層部の者達だ。


玉座の裏で、国の未来を決めるはずの者たちは、己の保身のための言葉を交わしていた。


「……魔王か」


王の低く重い声が響く。


「…これは公にしてはならぬ。民や他国に知られればどうなるか、わかるな?」


「……万が一にもこれが知れ渡れば、我が国の威信は地に堕ちましょう」


大司教が静かに答える。


「いや、それだけでは済まぬ。…これらが知られれば教会の意義が…脅かされる可能性もございます」


誰もが難しい顔で、静かに話し合いをしていた。




「……まぁ、しかし今回の召喚は成功だったようじゃな」


王の言葉にその場の空気も変わる。


そんな王に阿るように大臣の1人が声をあげた。


「ええ。数十名もの若く適性のある者を呼び寄せることができました」


「そうだな。…中でも、“勇者”スキルを持つ者と“聖女”スキルを持つ者、他数名希少スキルが確認出来た。……これは、魔王討伐もそう遠くはあるまい」



重々しい声で、軍の司令官が発言すると大臣が安堵の表情を浮かべながら追随する。


しかし、ふと思いついた懸念事項を口にした。


「ですが……真の“勇者”となり得る者がいるかどうかは、まだ分かりません…」


教会の大司教と共に参加する神官も会話へと参加する。


「うむ。“勇者”が当たりであれば話は簡単なのじゃが……」


大臣の言葉に王は、ゆっくりと椅子にもたれた。


「…まぁ、じゃが、もし真の“勇者”がいなくとも別に問題はないじゃろう…」


王の言葉に、室内の空気が張り詰める。


「……まさか……また“禁術”で、ございますか?」


張り詰めた空気の中、不安気に口にする神官を気にする事なく王は発言を続けた。


「…そういえば、以前の聖女は能力も素質も極めて優れていたの。ゆえに、“たった一人”の犠牲で魔王を討つことが可能じゃった…」


「は、そのとおりです」


「……しかし、今回はそうはいかぬのではないか…?」


「…」


「今回の召喚者たちには、前回の時の様な時間はない……。それに、たとえ時間があろうとも“スキル”が育つとは限らぬ。

しかしのぉ…今回は“スキル”の素質さえあれば十分なのじゃ」


「……ま、まさか」


「複数の生贄による禁術ーー”聖なる生贄”…か」


軍の司令官の声が重く響く。


「仕方のない、必要な犠牲じゃ」


「“聖なる生贄”…ですか……?」


まだ若さの残る大臣の1人が初めて聞く不穏な名称の術式に思わず疑問を口にした。


「そうですよ」


教会の大司教が、静かに言葉を継ぐ。


「本来、禁忌とされる“魔を討つ禁術”には、それ相応の対価が必要となるのです。

つまり、相手が巨悪であればある程、それに相応な膨大な魔力と”神の加護”つまり“希少スキル”を持つ者の魂が必要となる。……そして、前回の魔王討伐ではその役目を“聖女”が担っていたのです」


「…それが禁忌の魔術である“聖なる浄化”ではないのですか…?……では、“聖なる生贄”とは?」


大司教の話を既に知っていた大臣は聞いたことのない術式の名に首をひねる。


「確かに。前回の魔王討伐にて聖女が使った禁忌の魔術は間違いなく“聖なる浄化”です。…しかし、そちらにはひとつ大きな問題があるのです。

犠牲がひとりで済む代わりに、そのひとりは膨大な魔力と共に“神の加護”をしっかりと使いこなせるようなそんな特別な存在でなければならないのです…」


「…」


「幸いにも前回の聖女は孤児という大した価値もない存在故にどうとでもなりましたが、通常使うには問題の多い術式なのです」


「…なるほど」



「…それに比べて今回の場合…つまり“聖なる生贄”は、召喚者の中に”神の加護”の素養のある者…つまり、“希少スキル”を持つ者を“複数”捧げるだけで発動する術式なのです…」


「……つまり、“力のある存在を一人捧げる”のではなく、“素養のある者達を複数捧げる”ということ…ですか?」


「そういうことですね…」


「でも、それでは……!」


まだ若い大臣が、わずかに戸惑った表情を見せる。


「…ひ、一人の聖女の犠牲ですら大きな損失でしたのに。…それを…複数人となれば……」


若さゆえの捨てきれない情を浮かべた大臣へ各方向から冷たい視線がささる。


「…何か問題があるかのぉ?」



王は冷酷な笑みを浮かべる。


「召喚された“勇者”達の役目は、世界を救うことじゃ。その手段が討伐であろうと、あるいは”礎”となることであろうと、結果さえ同じであれば何の問題もないじゃろう」


「……なるほど」


「“魔王”が現れた。“勇者”は”魔王討伐の英雄”として称えられ、“新たな勇者”が誕生する…それでよいのじゃ…」



「そうですね。それに、前回に引き続き我が国から魔王を倒す者が現れれば我が国の地位も更なるものとなりましょう…」



追随されたその言葉に王は満足げに微笑む。




「確かに、これは必要な犠牲だな」


そして、それに同調するように司令官達も同意を示す。


「……」


「…召喚にて世界のために、彼らは”選ばれた”のです。この役割を果たすのは、神のお導きでもありますね」


大司教も笑っていない笑顔で同意を示した。


国の中でもトップである国王、大司教、そして軍の総司令官が同意したのならば、その決定に反対できるものはこの場にいない。


「……」


大臣は顔色を悪くしながらもそれ以上の発言は無かった。


その様子を見たそれぞれが冷たい視線を送りつつも話へと意識を戻す。



「…しかも、今回は彼らが”異世界人”であるという点も都合がいいな」


「……確かに、異世界人ならば、国内の反発も少ないですね」


「それにのぉ、……これに関しては彼ら自身が受け入れるかどうかなど考える必要もない。

そんなものは“勇者の使命”という名のもとに適切に導けばいいだけのことじゃからな…」


「……“討伐のための役割”として、か」


「そうですね。…かつての聖女のように、本人の自覚なしに”英雄的な犠牲”を払わせるのが最善でしょう」


「……」


王は静かに微笑んだ。


「勇者たちは、今頃”歓迎の宴”を楽しんでいるのじゃろうな」


「ええ」


「彼らが”我が国のため”に、間違いなく魔王討伐へと向かうようしっかりと仕向けるのじゃぞ…」


「はっ!お任せください」


「“世界の平和”のために」


「“正しき未来”のために」



「そして…“我が国”のために…」



ーーこうして


この()のための“必要な犠牲”の準備は、静かに進められていくのだった。


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なろうの異世界は糞
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