希少スキル
“勇者”にしても“聖女”にしても、希少スキルは通常のスキルに比べてとても大変なのです。
スキルは授かっても当然すぐにスキルの力が使えるわけではありません。
スキルを使用するにはそれぞれ条件は異なりますが、経験値という名の努力が必要です。
戦士系であれば一定の量のそれに見合った訓練や基礎体力が必要となります。
魔法系であれば先ずはそれについての基礎知識を。生産、技術系であればそれらの仕組みや材料等の正確な知識を必要とされる事が多いです。
つまり、基礎や知識が出来上がって始めてスキルを使用する事が出来るのです。
そして、たとえ使えるようになっても強いスキル能力を求めれば当然のように更なる努力も必要となります。
まぁ、そうは言っても一般の人々にはスキルのない者も多いですし、やはり希少スキルは希少なだけあって特化したスキルなので基本的には皆さん選ばれた存在である事は間違いないのですが。
そして、その中でも聖女はその条件が他とちょっと異なります。
特殊なスキルには特殊な条件が付きます。
大きな力を使うには求められるモノもまた大変なものになってしまいます。
だからこそ、前世では孤児であり聖女のスキル持ちである私が“聖女”に選ばれたのです。
“聖女”の能力を使用する為にはまず、神への感謝の気持ちを持ち続けなければいけません。
まぁ、これは簡単なのですが。
それとは別でただただ清貧を心掛け無料奉仕を一定人数、一定期間続けなければいけません。
前世、私は教会育ちの孤児だったので他の人々の生活を知らずに育ち、その状況を特に問題だと思ったことはありませんでした。しかし、他の方々から見るととても過酷な環境だと言われる事も多かったです。
知らなければ欲望も沸きません。しかし、幸せな生活を知ってしまった今となっては私自身ももう一度“聖女”スキルを取り直すのはとても難しいと思います。
まぁ、そういった理由もあり…あちらの世界の恵まれた環境が普通の状態で育った彼女には、余計に過酷に感じるのではないかと思ってしまうのです。
多分、彼女が簡単な治癒を出来るようになるまで最短でも2~3年程でしょうか…
簡単な治癒さえ使えるようになれば、救える人数も増えるので次の段階までは少し早くなります。
毎日必死にやれば、6~7年程で欠損等の重症者以外は治せるようになるでしょう。
病の治癒に関してもある程度人体の構造や病気の特徴等も勉強しなくてはいけませんが、こちらは現代の教育課程や知識等がありますので、余程勉強していなかった人でなければ大丈夫です。
10年以上も続ければ皆纏めて治すことも出来るようになりますし、瀕死の方でも治せるようになります。
人生の内の10年は長いようであっという間ですが、若い時の10年はとても長く感じますからね。
まぁ、長い目で見ればとても素晴らしい希少なスキルなのですが…
でも、そうですね。…鈴木さんが最低限の“聖女”の力を使う為にはこれから最短でも2~3年は清貧な生活を送りながら毎日必死に奉仕活動をしなければいけないと思います。
あちらの世界とは違い、こちらの世界の粗食は本当に粗末ですし、奉仕すべき貧民達の環境も良くありません。
そんな中でこれから長くこちらの世界で過ごすのは、彼女にとってはなかなか大変な事でしょう。
…本当に…よりによってスキルが“聖女”だなんて…
…お気の毒なことです。