ミノリ・リエ ループ ③
何とか俺は屋上での一件を凌ぎ、ループを阻止する事に成功した。
しかし、自体は先延ばしになっただけでループが発生してしまうこと可能性自体は依然として変わらない。
だからこそ、俺はなんとしてでも理恵をあの赤髪野郎と付き合わせ無ければならない…
俺はそうやって気が遠くなる様なことを考えていると、固い握手を交わした後に、一緒に教室まで帰路を共にしている彼女が、
「なんだその腑抜けた顔は!?」
と俺の後頭部を軽く小突いた。
俺はふと我に返って、
「何すんだよ!そんな暴力的だから逃げられるんだろ!?」
と彼女が今、一番気にしているであろう出来事を指摘した。
すると、彼女は俺の予想に反して、急に俯きながらギリギリ俺に聞こえるぐらいに呟いた。
「確かに、お前の言う通りだ。」
彼女は目を擦り、手の甲に水滴を蓄えながら話を続ける。
「私はガサツで、チビで、おまけに胸なしだし、アイツの前だと緊張しちゃってろくに会話も出来ない…
こんな奴から告白されても迷惑なのかもな…」
俺は「またか」と頭を抱えそうになりながら、再度電源が落ちてしまった彼女の再起動を試みる。
「なぁ、理恵はなんでそんな悲観的なんだ?
理恵の事が嫌なら、とっくに理恵から離れてるはずだろ?それでも一緒にいるってことは少なくとも、理恵に心を許してる証拠なんじゃないのか?」
俺は彼女がなるべく前向きになる様な言葉を必死に掛けた。
すると、彼女は何も言わなかったが、前を向き直して俺に笑みを見せつけるようにした。
そんなこんなで、俺達は教室の前まで来ていた。
今になって思うが、まだ授業すら俺は受けていなかったのだ。
まぁ、こんな状態で授業なんて身に入る訳もないんだが。
俺は彼女が教室の扉を開けたのに続いて教室に足を踏み入れた。
その瞬間、何やら変な視線を感じるが、朝にあんな滑稽な姿をしたヤツが戻ってきたのだから、無理もないだろう。
彼女は無言のまま、正面の席に着いた。
俺はと言うと、自分すらまだ教えられていないことに驚愕していた。
思わず、「えっ」と声を漏らしてしまった。
すると、彼女が自身の後ろの席を親指で指差している。
「えっ理恵の後ろ?」
と驚きつつも確認する。
彼女は「そうだ」と言わんばかりにコクリと首を縦に振る。
俺は恐る恐る彼女の背後を回り、席に着いた。
すると、彼女が上半身を捻ってこちらに顔を向けてきた。
そして、彼女は真剣か眼差しで話し出した。
「早速だけど、今日の放課後にお前の作戦を聞かせてくれないか?あっ、一応、連絡先も交換しよう。」
そう言うと、彼女はQRコードが画面に映し出されたスマホを俺に見える様に差し出した。
俺は「あぁ、ちゃんと考えてあるから安心しといてな!」
と全く無い自身を最大限に引き出して答えた。
そして、彼女のQRを読み取り、転校後初めて連絡先を交換した。
この一連のやり取りの後、昼休みが終わり、俺の一通りの自己紹介を終え、初回の授業を後にした。
こうして、いよいよ放課後が訪れたが、
二つ程問題が発生した。
まず、彼女がいない。
そして…
「おい、式部!お前、ロベリアさんに何したんだ!?
何で俺が保健室に入った時もお前の名前を荒い息遣いで呼んだり、授業中もずっとお前の方ばっかみてるんだよ?」
俺は完全にロベリアさんにしたことを忘れていた…
思い返して見れば、授業中や教室に入った時に変な熱視線を感じたのは気のせいじゃなかったのか。
そんな回想を思い浮かべ、俺は目の前の赤髪にやんわりと事の顛末を説明した。
「お前、俺がホームルームで理恵に思いっきり玉を蹴られたのは覚えてるよな?」
赤髪は先程までの剣幕とは違い、落ち着いた様子で答えた。
「あぁ、覚えてるよ。あんなの覚えてない方がおかしいぜ。」
俺は話を続ける。
「玉を蹴られた後、ロベリアさんが看病しにきてくれたんだよ。」
そう言い終わると、食い気味に赤髪は話を差し込む。
「なっなんでお前をロベリアさんが看病しに行くんだよ!?初対面だしおかしいだろ?」
俺は「まぁ、焦るな」と言わんばかりにゆっくりと答える。
「実は、ロベリアさんとは登校中に会って、学校について説明して貰ってたんだ。だから、お互い初対面ではないんだよね。」
赤髪は、「確かに、さっきまで話してた奴が急に保健室に行ったら心配にもなるか…」と納得した様子だった。
しかし、やはり変な息遣いをしていたのを説明する理由にはならないし、誤魔化せる訳もなく…
「ん?だとしても、なんであんなお前の名前を連呼したりするんだ?」
俺はどうしたものかと頭を悩ませる。
先程までのルーブと比べても引けを取らない程に。
でも、ここで真実を言ってしまえば俺は「変態」という烙印を押されたまま学校生活を送ることになる。
いや、訂正しよう。
ただの「変態」ではなく、「変態マゾ野郎」だ。
俺はタダでさえ、公衆の面前で玉金を蹴られてダウンしてるんだ。
これ以上は印象を変な方向に持っていく訳には行かない。
俺はここでその場凌ぎの賭けに出ることにする。
「じっ実は俺の親とロベリアさんの親は仲が良くて、久し振りに再会できたからじゃないかな?」
ん?こんな嘘すぐバレるに決まってるって?
落ち着け、俺だってなんの勝算もなしにこの嘘を持ちかけた訳でない。
この嘘が嘘と判明するには、本人に聞くしか他ならない。
そして、この本当の赤髪マゾ君はロベリアさんの事が好きだ。
好きな相手にいきなり話しかけるなんて言う真似はハードルが高いと読んだ上での賭けだ。
それに、あの時の告白で理恵がショックを受けたということはロベリアさんの事が好きかもしれないという考えは無かったという事だ。
なぜなら、日頃からロベリアさんとも親しくしてるのなら、理恵も振られた時にある程度予想ができたかもしれないからだ。
まぁ、これは臆測にしか過ぎないのだが。
さぁ、このマゾ野郎はどう返すのか?
「えっ!?そうだったのか?まぁ、幼馴染的な仲ならおかしくはないのか…?」
完全には納得できてない様子だが、嘘だと疑っている様子もない。
ここはダメ押しで切り抜けられると思い、もう一言加える。
「実は、10年振りの再会なんだ…」
と涙を堪えるかの様に、右手で目元を抑える動作をする。
すると、マゾシャンクスの態度が一変して、目を輝かせて俺の両肩に手を「ガシッ」と強めに掴み言う、
「その、もし良かったら俺にロベリアさん紹介して貰えないか?あっもし、お前もロベリアさんが好きなら別だが…」
先程までの図々しい態度とは打って変わって、いきなりの下手な態度に驚きつつも、ここである妙案を思いつく。
「あぁ、俺とロベリアは別にただの幼馴染だし、そういう仲にはならないよ。だから、お前の恋、応援するぜ?」
俺は後でロベリアさんに頼んで辻褄を合わせてくれるように頼むことが必須になったが、ここで俺が理恵からも赤髪からも相談される立場になれば、二人を引き合せるのも比較的簡単になると思うので、そのリスクは目を瞑ろう。
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結局、理恵は赤髪が俺に命の恩人ぐらいに感謝をした後から一時間経っても戻ってこなかった。
一応、屋上にも行ったが彼女の姿は無かった。
俺は「連絡先も交換してあるし、このまま待ち続けてる必要も無いか」と思い、昇降口へ向かった。
俺は周りと比べて汚れのないネームプレートの付いた下駄箱から靴を取り出し、「大変な一日だった…」と僅かな憂鬱と、「でも、嫌な気分不思議とないし、むしろこれからが楽しみだ」とこれからへの大きな期待が寄せていた。
それにしても、公衆の面前で玉金を蹴られても、嫌な気分無いと感じてしまう俺こそがマゾなのかもしれないという余念が頭を過ぎる。
俺は朝から放課後までに起こった出来事を頭の中で反芻しながら帰路に着く。
そうしていると、気づけば家のドアの目の前まで来ていた。
俺は薄汚れた小さなぬいぐるみの付いた鍵で解錠し、ドアノブを引きながら「ただいま」と俯き、溜息混じりに家に足を踏み入れた。
その直後、目線の先には見慣れない靴があった。
しかも俺の高校のローファーだ。
「一体誰が…」
と恐る恐る視界を正面に向けると…
「あら、少し遅い帰宅ですわね。とりあえず、おかえりなさい。」
と、聞き慣れた声と共に、声の主がこちらに近付いてくる。
リビングのドアを開けて、こちらに向かってきたのは…
「えっロベリアさん…!?」