ミノリ・リエ ループ ②
俺はそう決心すると、一つの作戦を思いついた。
その作戦は彼女に告白させない事だ。
そんな作戦本当にできるのかって?
安心して欲しいもう既に作戦を成功に導いてくれるであろう材料は揃ってるから。
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とりあえずは非常階段で屋上に向かう所までは初めと一緒だ。
しかし、屋上に着いてからは違う行動を取る。
俺は屋上に着いたら赤髪の断頭台に忍び寄るのではなく、非常階段の位置で立ち止まる。
そして、ある一言の事実を彼に向かって叫ぶ。
「ロベリアさんが気を失ったみたいだぞ!!」
その直後、赤い何かが
「ろっロベリアさんがぁぁ???」
と雄叫びを上げながら正規の階段のある扉まで突っ込んできた。
まるで闘牛の様だ。
彼はそのまま扉を閉める事なんて忘れてそのままロベリアさんの元へ旅立ってしまった。
今になって気が付いたが、この状況は俺にとってはメリットのある状況だが、一年間の想いを伝えようとしていた彼女にとっては急に好きな男が他う女の事を心配して自分を放置してどこかに行ってしまったのだ。
彼女には酷な事をしたと心から思う。
それよりも、今の俺にとっては作戦が成功したことを素直に喜びたい。
この作戦はタイムリープしなければ成り立たなかった作戦だと思う。
ロベリアさんが気絶した後に、彼がロベリアさんへの奴隷願望がある事を知ったからだ。
ロベリアさんのペットならご主人様に身の危険があるかもしれないと思ったら、考えるよりも先にご主人様の方へ向かうとはずと予想したのが当たって様で何よりだ。
しかし、手放しでは喜べない。
彼女が告白しようというした決心は、きっと恋が実るか、玉砕されるまで終わらないからだ。
好きな男が他の女の名前を叫びながら自分を置き去りにしてもだ。
多分。
再び俺の知らない場所で振られてタイムリープしたら溜まったもんじゃない。
そうなると、彼女の告白を止める算段を考えなければならない。
まぁ、そんなことしなくても彼女から彼への好感度は先程の一連の行動でだだ下がりかもしれないが。
どうしたら告白を止められるのか。
そんな問題に対して自称恋愛漫画オタクである俺は必然的な回答に辿り着く。
「あっ、別に止める必要は無いのか。むしろ、告白させてそれが成功すれば良いのか。」
これが俺の出したアンサーだ。
つまりは、俺は彼女の恋を導くメンターになるという事だ。
そうなると、今の俺がすぐに取り掛からなければならない問題が二つある。
一つは彼女への失礼な言動をした謝罪。
二つは彼女の傷ついた心を慰めることだ。
そうと決まると、俺は彼女の元に駆け寄った。
するとそこには、泣きじゃくっている訳でも、怒号を飛ばしている訳でもなかった。
彼女はただそこに立ち尽くしていた。
察するに、あまりの出来事に脳のブレーカーが落ちてしまったのだろう。
俺は復旧作業に取り掛かる為、彼女の額に向かって軽くデコピンを繰り出した。
「いっ痛ぁ〜。なっ何すんのよ!!」
彼女の意識は無事に再起動した様だ。
俺は満足気な顔で彼女が痛がる様子を眺めていた。
そして俺は当初から目的だったことを全力で果たそうとした。
「朝の非礼の数々、大変申し訳ありませんでしたぁ!!!」
俺はそう叫びながら、正座の体制から両肘を上に突き上げ、両手は地面にベタりと合わせ、額をコンクリートの地面に向かって突き立てた。
そう正座だ。
彼女にはループの中も含めて何度も失礼なことをしてしまった。
これは当然の贖罪なのだ。
突然の痛みと当然の謝罪に彼女は一瞬困惑した表情を見せたがすぐにいつもの調子を取り戻した。
「おっお前はあの時のカス野郎じゃないかぁ!
お前、謝罪したからって許されると思ってるんのかぁ?それに、なんでデコピンしてくるんだよぉ??
なぁ、お前、私をおちょくってんだろぉ?
そうなんだろぉ?好きな人に告白も出来ず、逃げられる惨めでちんちくりんな性格も外見も不細工な私をぉぉぉ!!!」
俺は今までの怒号よりも数段上の怒りを感じた。
でも、その怒りの中に切なさも感じた。
怒りに任せた、喉が潰れんばかりの声を荒らげながらもその声は僅かに震えていた。
俺への怒りよりも先程の出来事が気が気でないのだろう。
俺は自分に出来る最大限の励ましの言葉をかける。
「なぁ、確かにお前は背も小さいし、胸もないし、おまけに性格は凶暴だ。でもな、その可愛げのある顔も保護欲を掻き立てる愛らしい背丈も、なによりも一人の男にそこまで一途でいられる乙女な所がお前の魅力だろぉ!!」
俺は一度の呼吸で持つ限界まで彼女に率直な言葉を投げかけた。
彼女はその言葉には何も言い返さず、その場で泣き崩れてしまった。
俺は息を整え、再度言葉をかける。
「好きな人に逃げられてしまった哀れなヒロインのお前に一つ提案がある。」
彼女は相変わらず不器用に手首で涙を拭いながら、声の震えを感じさせない程度にゆっくりと言葉を返した。
「てっ提案?お前に何がわかるんだよ…。」
彼女はそんな今にも消え入りそうな声で先程は対称的な態度で答えた。
「確かに俺とお前はまだお互いに名前も知らない仲だし、お前らの事なんて知るわけが無い。
でも、恋愛のことだった分かる。俺はいくつもの恋路を見てきたからな。」
この恋路とは漫画のことだが嘘は言っていない。
俺は痛む良心に絞め技をかけて抑えつけながら話を続ける。
「俺が出来る提案はただ一つ。
お前の恋が無事に果たせるよう俺がサポートする事だ。」
この提案を飲んでくれるかは賭けだ。
普通に考えれば見ず知らずの印象最悪な奴からの恋愛のアドバイスなんて信じられないだろう。
でも、彼女は好きな人に逃げられるという突然の出来事に気が動転している。
果たして、彼女は俺の提案を飲んでくれるだろうか。
彼女は数秒程考えた末、呼吸を整え、まだ潤いの残る目を見開いて一つの決断を下した。
「その提案受けてやるよ。でも、一つ条件がある。」
彼女は先程の声とは一変してはっきりとした物言いだった。
「条件?」
俺は彼女の言葉を聞き返す。
彼女は淡々と言葉を述べる。
「そう、条件。私の恋を絶対に成功させるって言うね!」
俺は期待していたかの様に自信たっぷりとした口調で答える。
「あぁ、勿論だ!お前を勝ちヒロインにしてやるぜ!!」
彼女はあまりに自信のある俺の振る舞いに驚いたのか瞳を大きくして、一泊置いて言葉を返した。
「その言葉、嘘じゃないよな?」
俺はその問いかけに大きく頷く。
彼女は話を続ける。
「そうか…。私は水仙 理恵。お前は?」
「俺は式部 紫音だ。これからよろしくな。」
俺はそう名前を交わしあうと右手を彼女に差し出した。
彼女はそれが何を意味するのか察し、左で俺の右手を強く握った。
「絶対に成功しろよ?」
彼女は念を押す。
「さっきも言っただろ?俺に任しとけって。」
俺達は互いに握手を交わした。