髪色マケインの法則③
俺はこういった急展開が起こると人は二つの行動に分けられると思う。
一つは気が動転してその場で立ち尽くすことしかできない。
二つは気が動転するまでは一緒だが、理性のリミッターが吹き飛び、思いがけない行動に出てしまうことだ。
ちなみに俺は後者だ。
なんでこんな話をし出したかと言えば、目の前に「私にガーターベルトを履かせなさい」という命令に対して俺は躊躇いもなく従うし、命令にないこともしてしまうかもしれないと言うことだ。
俺は彼女の手に持っているガーターベルトを手に取り、彼女のくるぶしからふくらはぎ、膝下、太腿と手を伸ばしスカートの下に手を伸ばした。
すると彼女は「んっ」と少しやたら色気のある声を漏らした。顔色は分からないがきっと真っ赤に違いないと考えつつも俺は手を休めない。
両方の人差し指の第一関節で軽く太腿をなぞりながらパンティーの位置を探す。
色気のある声を三泊おいた所で彼女の臀部を包む羽衣の少し上をガーターベルトが包み込む様にへその丁度下にホックを止める。
そして、俺は間髪入れずに太腿の両側に垂れ下がったストッキングを止める為の金具をストッキングに止めにかかる。
その間、彼女の艶やかな音色は終わり次は不規則に声にならない息を弾ませる。
俺はそんなことは二の次に作業を続ける。
彼女のストッキングの出っ張りを探す為に再び人差し指の第一関節でストッキングと生身の境界線付近をなぞる。
俺はここぞとばかりに出っ張りを見つけると彼女の太腿の横側に朱色の橋を架ける。
俺は彼女の任務を遂行し終えると一息付き、手を太腿、膝、脛、つま先にかけて抜けていく。
そして俺は我に帰る。
「えっおっ俺は何をやって…」
自分が何をしでかしたか事の重大さに気づく。
俺は慌てて被害者Bに目の照準を合わせる。
すると、彼女はあまりの刺激に耐えきれず気絶していた。
本来なら俺は彼女と立ち位置を交換して俺が看病すべきなのだろうが、俺はいち早くあの雷獣娘に謝罪をしなければならい。
俺は彼女をゆっくりとベットに移し、その場を後にした。
保健室の扉を勢いよく開けると廊下には生徒が何人か見受けられた。
慌てて保健室の時計を見ると丁度お昼頃だった。
恐らく昼休みの時間なのだろう。
「これは彼女に謝るチャンスだ」と言わんばかりに周りの生徒を押しのけ急いで三階にある自分のクラスの前まで駆け抜ける。
傍から見たら寝坊したのかと勘違いされる程の勢いと剣幕で俺の教室の前まで行き、再び勢いよく扉を開ける。
ドンっという強い音が教室に響き渡り、俺に自然と皆の視線が集まる。
俺は彼女の席であろう目の前の席に目を向けるが姿は無い。
俺は人でも殺めたかのような思い詰めた形相で近くにいた眼鏡をかけたいかにも知的そうな青年に声をかける。
「なぁ、ここの席のちっこい金髪の奴どこに行ったか知ってるか?」
彼は俺が話しかけると思っていなかったのか、俺の物々しい剣幕に驚いたのか、はたまた両方なのかとても驚いた様子で答えた。
「えっ小柄な金髪の子って水仙 理恵さんのことかな?理恵なら屋上にいると思うけど。」
名前も知らないであんな恥ずかしい姿まで晒した俺にこんなにも紳士に答える彼は恋愛漫画なら主人公に違いないと思いつつ「ありがとう」の礼だけ伝えて再び俺は走り出す。
慣れない校舎を保健室からここまで駆け抜ける事が出来たのはロベリアさんが教えたくれたのと、先生と職員室からここまで実際にきたお陰だ。
しかし、屋上についてはロベリアさんから聞いたことを頼りに行くしかない。
しかも、この学校は元々私立だったのを少子化に合わせて公立にしたので私立の特徴的な造りで出来てるからか非常に分かりにくい。
だが、俺はロベリアさんから屋上まで行ける裏技を聞いていた。
その裏技とは非常階段を使うことだ。
この学校には外に各階に通じる非常階段が設置されているのだ。
この裏技の問題点は単純に先生にバレると怒られることだ。
でもそんな事を気にしたら教室に彼女が戻ったら俺は三度も皆に醜態を晒すことになる。
それと先生に怒られるのだったら後者を選ぶ。
俺は覚悟を決めた面構えで一直線に生徒の中を突き進む。そして、非常階段のドアノブを勢い掴み、周りの目線を確認し一瞬にしてドアを開け閉めした。
そこからは再び先程の勢いで屋上の手前まで駈け上がった。
屋上に着くとなんやら話し声が聞こえて来た。
俺は非常階段使ってるのがバレると不味いので、途中からゆっくりと着実に屋上に登った。
すると、広く開けた屋上には花壇やベンチなどが最初に視界に映った。
そして、ベンチの辺りに人影がある事に気づく。
俺はあの雷獣娘だと思ったが人違いかもしれないのでこっそり近づいて確認することにした。
ベンチとは反対側から花壇にある策の裏に隠れながら彼女であろう人物の近くまで来た。
すると、確かに彼女が居たが、そこにはもう一人赤髪のいかにも暑苦しそうな長身の男もいた。
耳をよく凝らして会話を盗み聞きくことにした。
自称恋愛漫画オタクとして恋の予感がするのだ。
「なっなぁ、私とお前はさ。二年になってからもなんだかんだ今年も一緒のクラスになれて、一年から部活も一緒で、放課後も遊ぶ仲にもなったよな。」
赤髪の男は間を少し空けて答える。
「あぁ、確かに俺達なんだかんだ一年以上の仲だよな〜。それがどうかしたのか?」
彼女の様子は遠目であまり良く見えないが、なんだか緊張しているのか少し足が震えて見えた。
「それでさ、私気づいたんだよ。初めはお前とは良く気の合う友達だと思ってたんだ。でも、いつからかお前のことばかり考えるようになって、自然と目線が追う様になってた…。」
俺はこの口振りから察するに…いや、察するまでもなくアレだと確信した。
見た目は小柄だがそれに見合わず性格は荒い。
それでいて、よく見れば目つきは悪いかもしれないがかなり可愛らしい顔している。
このギャップは恋愛漫画だったら勝ちヒロインに違いないと思える程だ。
しかも、おまけに金髪だ。
歴戦の恋愛漫画を読破してきた俺からすれば金髪美少女の恋愛勝率は非常に高いと言えるだろう。
俺は陰ながらも彼女対して応援の眼差しを向ける。
「わっ私、お前のことが、淳司のことが好きだ!!」
俺は目を大きく輝かせて「もう答えは決まってる」と言わばかりに彼に目を向ける。
「理恵。確かに俺もお前といると他の奴と遊ぶよりも楽しいし、一緒に居て気分も良い。
でも、俺はずっとお前と最高の友達で居たいんだ…。」
俺はまさかのアンサーに目を丸くした。
しかも、二度見した。いや、五度見くらいはした。
先程のガーターベルトの件よりも衝撃的な展開だ。
俺は驚愕しながらも恐る恐る彼女に目を向ける。
「えっ…そっそうなんだな…。私とは友達で居たいか…。そりゃ、こんな我儘で意地っ張りで怒りっぽくてちんちくりんな私とは付き合いたくないよな…。」
彼女は目線を下に向け、重力により幾分かの水滴を陽光が輝かせながら屋上の地面を湿らす。
彼女の声は終始震えていた。それでいて、唐突な胸の苦しさに耐えようとしているのか唇が綺麗な桃色から赤い彼岸花の様になるほど唇を噛んでいた。
そんな悲劇の渦中にある彼女が見えていないかの様に彼は一方的に話しかける。
「俺はお前の事を嫌だなんて思ったことはないし、むしろその性格がお前の良さだと思ってる。
俺がお前と、理恵と付き合えないのは俺に好きな人がいるからなんだ。」
彼は言葉を重ねる。
「お前にはその子が誰か言っておこうと思う。
俺もお前も好きな人を言った。これでおあいこにしよう。俺はロベリアさんのことが好きなんだ!」
彼女は瞳から垂れる雫を不器用に手首で拭いながら震えた真っ赤な唇で、少しでも平然を装うといつも通りの口調で話そうと試みる。
「そっそうなんだ。わっ私の性格が原因じゃないならやっやっぱりちんちくりんな所だよなぁ?だって、ロベリアってスタイルいいもんな…。」
彼は彼女が話終わるのに重ねて食い気味に話し出す。
「それは違う。俺はロベリアさんのたまに出す人を見下すような目と言葉に痺れたんだァ。
確かにスタイルはいいが、俺はそれよりも大企業のお嬢様にはあってはならない人を人として見ていないかの様な言動に惚れたんだよォ。あっこれは皆には絶対内緒だからな!」
俺は本当にお嬢様だった事実よりも、彼が生粋のマゾだったことに驚きを通り越して戦慄していた。
先程とは違う意味合いで恐る恐る彼女に目線を向ける。
「はっはは…なんだよそれ…。私がどんな思いで、どんなに苦しかったか分かんのかよォ…。
これだからオスはただの発情猿何だょォォォォ!!!」
彼女はそう狂気すら覚える憎しみと憤怒の籠った怒号をぶつけ、彼女は何歩か後ろに下がり、助走付けて彼に向かって稲妻のごとく走り出した。
俺はこの後の展開に肝ではなく玉を冷やしながら、陰ながら彼と彼の息子に合掌していた。
「くたばれゃゃゃァァ!!!このマゾカス野郎ぉぉぉォォォ!!!!!」
彼女はオレが瞬きをする間もなく見事な飛び蹴りを彼の性癖の源泉にダイレクトに決めていた。
「おっおぉぉう…。」
彼は悲鳴すら上げることなく尽くその場に股間を抑え、内股で尻を青空に突き上げる様に崩れ落ちた。
俺はいち早くこの場を後にしたいと思い、急いで非常階段に向かおうとした瞬間に蹴りを喰らった訳でもないのに視界が掠れていった。
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俺は今日一番の冷やせを垂らしながら目を覚ました瞬間に股間を抑える。
ブツの安全を確認した上で、不可解な事に気付いた。
「知ってる、天井だ。」
いや、あまりにも馴染みのある天井だ。しかも天井どころかこの部屋、周りにある物全てが見覚えがある 。
ここは保健室ではなく俺の部屋の様だ。
俺は慌てて枕元にある充電してあるスマホで時刻を確認する。
「7:20…嘘だろ…。」
これは明らかに不可解なことだ。
俺は慌てて自分の部屋を飛び出し、階段を足が踏み外しそうな勢いでリビングに向かった。
「親父、母さん!!今日って何の日だっけ?」
俺は必死な様子で、息を切らしながら問いかけた。
「えっ何を言ってるのよ?今日は紫音ちゃんの新しい学校の初登校の日でしょ?」
「紫苑、お前寝ぼけてるのか?」
二人ともキョトンとした顔で俺の方を見つめる。
俺はあまりの出来事にその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
頭が真っ白だ。
俺は一体、どうしてしまったんだろうか…。