髪色マケインの法則①
俺は鳥のさえずりと共に眠りにつく。
そこは普通、目が覚めるとかだろって?
俺にはそんな常識は通用しません。
だって俺は引きこもりだから。
でも、そんなことも言ってられなくなってきたのは事実なんだよな。
なぜなら、親の再婚を機に引っ越し先の近くの高校に転入することが決まったからだ。
親にはイジメが原因で学校に行けないと言っていたのだから、学校が変われば行けなければならないのは当然のことだ。
確かに、イジメられてきた心の傷が学校を変えたからと言って癒える訳でもないし、行く気にもなれない。
でも、女性恐怖症だった親父が新しい環境を手に入れるために一歩踏み出したんだ。
俺もそろそろ自分と向き合う時が来たんだ。
思い返してみれば、ここ最近は俺が普段やっていた料理や家事も親父が率先してやっていたし、やけに身なりに気を使うようになった。
自称恋愛漫画オタクの俺は鈍感系だったのか。
まぁ、そんなことは置いといて。
俺も変わらなきゃいけないってことだ。
まずは次の学校でイジメられない為に、この元からの素質と自堕落な生活の掛け算によって生まれた重り以外役割のない脂肪を脱ぎ捨てる時が来た。
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そして、約一年が経った。
俺は鳥のさえずりと共に朝を迎えた。
俺はいつもよりベルトをキツく締めて、新しい制服に袖を通した。
そして、緊張というよりワクワクした表情で母さんと親父に「行ってきます」と言って玄関を跨いだ。
ドアの鍵を開ける「ガチャ」という音でさえ俺の初陣を応援していると錯覚するほどに俺の胸は期待に溢れていた。
今日はマンションのエレベーターではなく階段を使ってエントランスを抜けた。
すると、朝の陽光が目に高揚感という潤いを与えた。
俺は初めての通学路をまるで冒険でもしてるかのように辺りをキョロキョロしながら歩いていた。
すると、「いたっ」という声と共に何かがぶつかった感覚があった。
やや目線を下にズラすと、黒色のレースのやけにエロいパンティーさんがこちらに挨拶していた。
俺は思わず、謝罪よりも先に「おはようございます」と挨拶していた。
俺はすぐにやらかしたと思い気まずさが刹那に俺のワクワクを塗り替えながらもなんとか被害者の顔を覗く。
目が会った瞬間に彼女は眉を歪めて俺に雷の様に怒鳴りかかった。
「お前、私がちっこいからってからかってるのか!?
なんで、ごめんなさいよりもおはようが先に聞こえる訳ぇ?ねぇ?どういうつもりなのよ!?」
俺はそうやって怒鳴り散らす推定身長148cmの彼女を昔飼っていたチワワの様だと思いながら聞いていた。
それにしても、金髪で小柄しかも、気性の荒い性格。
どこかの漫画で見たような感じだ。
それにしても、俺は自分がこんなに平然としていることに驚いた。
俺はある出来事がきっかけで女性が苦手になってしまった。
男や一部の女性とは気さくに話せるが、どうしても若い女性は慣れない。
よく見れば彼女は俺と同じ高校みたいだし、若い女性には間違いないのに…
「あっちっこいからか」と思わず声に出してしまった。
もはや、俺の胸には期待やワクワクという感情は一切無く、気まずさと絶望感しか残っていなかった。
額から冷やせを垂らしながら再び彼女に顔を向けると…
「なっなんだよお前!?こんな失礼な奴初めて見たわ!もう謝罪なんていらない。これでも喰らって野垂れ死んどけカス!!」
そう言い放つと電光石火のレールガンの様に俺の息子に彼女の後ろ蹴りが黒色レースさんを一連の動作の間に覗かせながら渾身の一撃を決めた。
その直後に「おっおぉう」と声にならない声を漏らしながら俺は股間を抑えながら内股で無様な姿でその場に崩れ落ちた。
掠れ行く視界で彼女のどこかスッキリした様な顔をした彼女の後ろ姿を見届けた。
そして俺は初登校にして気絶していた。
恐らく数分が経った頃に背後から俺を呼びかける声が聞こえてきた。
「あっあの大丈夫でしょうか?」
どこか温かみのある優しい声が聞こえた。
俺は股間を抑えながら首を最大限後ろが見える程度まで捻って彼女(?)らしき自分に顔を向けた。
「えっあの、なぜそのような姿勢で地面に伏しているのでしょうか?宗教上の理由でしょうか?」
俺は咄嗟にそんな変な体勢の男を気に掛けてくれる優しい彼女に情けない姿を見せまいと立ち上がって、姿勢を正した。
そして、彼女を視界に留めた。
すると、そこには青髪のいかにもお嬢様と言わんばかりない品格のある雰囲気で可憐という言葉に相応しい顔立ちの美少女が居た。
「えっあっあの、じっ実はこの体勢だときっ緊張が和らぐんですよ。俺、今日転校して来たので。アッハハ…」
俺はそんな冗談になるかも怪しい不出来な日本語を乾いた笑い声と共に彼女に添えた。
「ふふっそんな落ち着き方聞いた事ありませんよ?愉快な方なんですね。それに、転校生さんだったんですね!
もしよろしかったら私が学校に着くまで学校のこと教えて差し上げましょうか?」
想像していたよりも反応が良さそうで安堵しつつ、なんか上から目線だなぁと思いながらも彼女の提案を受けることした。
これを機に女性に対してのコミュ障も多少なり良くしたいものだ。
「よっ宜しくお願いします!」
俺はたどたどしい声で彼女にお願いした。
「そんなに緊張しなくてもよろしくてよ?
では、共に学校まで行きましょうか。」
こんな感じで俺は初投稿にして美少女と一緒に登校するとが決定した。
学校までの道中は学校がつい最近まで女子高だったことや、部活動が豊富にあることなど学校の特色についての当たり障りない普通の会話をろくに目も合わせられないまま「そっそうですね」、「すっすごいですね」と傍から見たら情けない姿をまた違う形で晒していた。
彼女とは校門の前で別れ、俺は職員室に行って担任の先生になる人に今日の一連の流れの説明を受けていた。
それにしても、この先生やけに雑な説明だったなと思う。しかも、髪もボサボサで顔がよく見えないし。
果たして、俺の担任は大丈夫なのだろうか。
と、人のことを心配している場合ではなかった。
いよいよ、転校初日の挨拶が始まろうとしている。
俺はもう一日が終わるんじゃないかという長い体感時間を「どんな自己紹介」にしようか捻り出すのに費やした。
そして、先生から「入っていいぞ」と俺の出番を告げる合図が出た。
俺は周りが気にならないくらいの静かさで教室のドアを開けた。
すると、真っ先に目に飛び込んできたのは黒レースではなく玉突き野郎だった。
俺は思わず口が開くぐらい驚いた表情で彼女を見つめていた。
さすがに教室の鎮まりと俺の視線に気づいたのか俺の方に彼女も顔を向ける。
その突如、椅子が後ろに倒れるくらいに即座に立ち、「あっ」とだけ言い放ち再び俺のJrへの攻撃態勢に入り、俺は透かさず手に持っていたバックで我が子を外敵から守る母親の様に守った。
しかし、先程とは違い彼女は後ろ蹴りではなく前足を立てて俺の股下から蹴り上げた矛先は見事に俺の金的という的を射抜いた。
俺は再びかすれ行く視界の中で彼女が満足気に席に着こうする姿を最後に気絶した。
そう、俺は転入初日に総勢四十人いる同級生の前で股間を抑え内股で朽ちたのだ。
果たして、俺はこの学校で生きていけるのだろうか。
まさに、生死を懸けた戦いが始まったのだ。