5. お隣さんの買い物
「それじゃあ行くか」
「はい、よろしくお願いします」
瑠奈も食器を置いてきたあと、2人は揃って家電量販店に向かった。
凛翔が歩き回った時に家電量販店は見つけられていないため、必然的に瑠奈が先導する形となる。
時折ついてきているか確認するために振り向きながら歩く瑠奈を見て、なんだか妹っぽい、と凛翔は密かに思うのだった。
「ところで、さっき一回見たんだろ? 何か目星はつけてるのか?」
「全然わからなかったってさっき言ったじゃないですか。目星なんて付けられるはずがないでしょ」
「あーそれは確かに、そうか……」
少し前の会話を思い出す。
この様子だとおそらくどんな機能が必要かということも見当がついていないのだろう。
なかなか時間がかかりそうだと思いつつもここまできて見捨てることはしない。
「じゃあとりあえず店員に話を聞くか」
「そうですね、よろしくお願いします」
そうと決まればすぐに店員を見つけ出し、商品説明をお願いする。
当然ながら、高い商品から順に紹介される。
「新しいレンジはこんなに高いんだ……」
おそらくお財布事情を心配しているのだろう、不安そうに商品を見る。
そんな様子を見ながら小さくため息をつき、凛翔がこぼした。
「一人暮らし用なんです。こんなに高いものはいらないので最低限の機能のものを教えていただけますか?」
「これは大変失礼いたしました。レンジアップのみできる機種もありますが、一人暮らし用家電であれば、オーブンレンジをお勧めしております」
急に半額以下になる値段を見て目をぱちぱちさせる瑠奈。
やはりこの手のものには疎いのだろう。
とても驚いた様子で凛翔を見上げている。
「だってよ、どうする?」
「え、あ、じゃあそれで……」
「かしこまりました。このままお持ち帰りされますか?」
「いえ、配送で。最短でどのくらいですか?」
「明日お届けできます。お時間の指定はできないのですがよろしいでしょうか?」
「大丈夫だよな? 何か予定はあるか?」
「え、あ、大丈夫!」
流れるように決まっていく話をぼーっと聞いていたところに、不意に話を振られ、瑠奈は慌てて首を振る。
「じゃあそれでお願いします」
「かしこまりました、ではこちらでお会計と配送先の記入をお願いします」
「ほら、行ってきな」
「は、はい!」
凛翔はまだ置いてけぼりになっている瑠奈に店員と一緒に行くように促す。
その声に我に返った瑠奈は慌てたように店員の後を追いかけて行った。
「これでお役御免かな」
そう小さくこぼした凛翔は店を後にしようとする。
その瞬間
「ちょっと待って!」
急な大声で呼び止められた。
「ん?」
驚きながら振り向くと少し遠くに瑠奈の姿が見えた。
走ってきたのか少し肩が上下している。
「もう用は済んだだろ。俺は用済みだ」
「そんなことない! お礼したいから待ってて!」
「お、おお……」
今まで聞いたことがないような声の大きさに圧倒されて思わず頷く凛翔。
不思議な2人組はもう少し続きそうだ。
「お待たせしました」
元のテンションへと戻っている瑠奈が座っている凛翔に声をかける。
「いや、大丈夫だ。でもわざわざお礼なんていいんだぞ」
「お礼は大切ですよ、それに昨日からお世話になりっぱなしですし」
「別に大したことはしてないんだけどな……」
「じゃあ私の自己満足に付き合ってください」
「……そうさせてもらうよ」
渋々ながら納得した様子の凛翔。
それを見て頷いた瑠奈は先を歩き出す。
後ろからそれを追う凛翔はややスキップ混じりの瑠奈に苦笑いを浮かべた。
「何かスイーツでもと思うのですが、甘いものは大丈夫ですか?」
ふと思い出したかのように振り返る。
「ああ、むしろ好きだ」
「よかったです」
凛翔の時が一瞬止まった。
柔らかな微笑みを浮かべる瑠奈。
その微笑みは優しく、そしてとても可愛らしく、瑠奈の魅力を最大限に引き出していた。
そんな不意打ちに凛翔は見惚ける他なかった。
「どうかしたんですか?」
瑠奈が突然止まった凛翔に不思議そうに戻ってくる。
そこで思考が戻ってきた凛翔は瑠奈の距離感に後ずさる。
「おお、びっくりした……どうした?」
「どうした。じゃないですよ。急に立ち止まって驚いたのはこっちですよ」
「ああ、悪かった」
「何か気になるお店でもありましたか?」
「ああ、まあそんなところだ。でも今はいいから気にしないでくれ」
照れ隠しに自然と早口で捲し立てた。
「あ、はい、そうですか……」
その勢いに押されそれ以上の追求を諦めた。