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終章

 「…こわかった……」


 ミホちゃんの背中が震えている


 ユウキの胸に顔をうずめて 声を殺して泣いているのだ


 両親は無言で見守るしかない


 ユウキはミホちゃんの背中をなでてやりながら 言葉が出ない


 三塁側では


 さおりお嬢様が膝を抱えて座り込んでいる


 「また負けちゃった」


 「打ったじゃん。あれ、魔球だったんだろ?」


 トモカズ君が慰めている


 「わからない。単にわたしにぶつけたかっただけかも」

 「ビーンボールなら反則だから、やっぱり勝ちだ」

 「内野安打も打てなかった」

 「あの人、競輪のプロなんだろ?脚で勝てるわけないよ。そもそも男と女だし」

 「あの人、あの子の味方したんだね」

 「中学の先輩後輩なんだろ?身内じゃん」

 「そういう問題じゃないのよ。女としても負けたみたいで」


 無言の間が空く


 「真剣なら、たぶん球はまっぷたつ。グラブがなければ、あの子の頭、吹っ飛んでた」

 「仮の話しても仕方ないわ」


 また間が空く


 「示現流とかじゃなくて、ちゃんと自分の力で勝負すればよかったのかなあ」


 トモカズ君が苦笑した


 「だから、何を勝負するのかって聞いたじゃん。あの子、泣いてるみたいだから、やっぱり勝ったんじゃないの?コドモのケンカは泣かせた方が勝ちだもん」

 「かえって向こうに押しやったわ」

 「婚約者の前でそういうこと言うかね。キミもコドモだなあ」

 

 コドモと言われて何か言い返そうとしたのか


 「まあ、野球とかソフトは三割打てばバッターの勝ちだと思うけどね」

 「そういうトコがスポーツはいやなんだよなあ。勝ち負けがはっきりしないじゃん」


 ここでヨシザワ執事様が口をはさんてきた


 「お嬢様、江戸のカタキを長崎で討つ、という言葉をご存じでしょう?」

 「まあ、確かに今のところソフトで勝負しただけだけど。別の何かでやり返せ、てこと?」


 ヨシザワさんは、ミホちゃんの方を見ながら


 「それから、おのれを知り敵を知らば百戦危うからず、という言葉もございます。孫子の兵法ですな」

 「あの子の球は、けっこう研究したつもりだけどな」


 ヨシザワさんは青空を見上げている


 「あの子は、お嬢様の敵ですかな?」

 「?」

 「お嬢様の人生はまだ始まったばかり。これからまだまだいろいろな敵が現れるはずです」


 ヨシザワさんは、お嬢様に微笑みかけた


 「昨日の敵は今日の友、とも申しますな」

 

 「……」


 「とにかく、何事も経験です。特に若いうちは」


 「示現流もよい経験でございました。いつか思わぬところで役に立つかもしれませんよ」


 「すべてが財産なのです。生かすも殺すも自分次第ですがね」


 演説は終わったらしい

 三人が引き上げていく


 一塁側の様子は?

 ただで済まない状況であることは間違いない

 場所を変えてサミットかな?


 「ユウキはサミットに参加するのかな?」


 女神様にきいてみた


 「主役じゃないの?」

 「我々は呼んでもらえないのかなあ」

 「我々は部外者でしょ!」

 「私が主役のはずだったんだけどなあ」

 「テキトーな小説だからしょうがないじゃん」

 「漫才になるからよそう」


 後日。


 競輪場でビール飲んでいると


 ミホちゃんが現れた


 「あれ、ひとり?また中学生ひとりで来ちゃった?」

 「お父さんたちは、なんかの手続きに行きました。リコンしたわけじゃないから市役所じゃなくて、団地の管理事務所とかじゃないかなあ。また一緒に住むことになったから」

 「そうなんだ!よかったじゃん!」

 「ありがとうございます。ここで会えてよかったです。両親がくれぐれもよろしくって、お礼言ってました」

 「いやいや、別に何にもしてないけどさあ」


 ミホちゃんがバンクを見ている


 女神様が感づいたようだ


 「そっか、今日、ユウキセンパイのレースだもんねえ」


 へへ、とミホちゃんが笑う


 「じゃあ、ミホちゃんの将来とかも話し合ったの?三者面談とかあるんでしょ?」


 へへ、とまた笑う


 女神様も笑い出した


 「もしかして、ユウキセンパイの話とかも出たの?教えなさいよ」


 へへ、とミホちゃん


 「どうすんの?ミホちゃんは、将来何になるの?何になりたい?」


 へへ、と私の顔を見て


 「わたし、神様になろっかな!」


 天使の笑顔がはじけた


 完。

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