【第08話】ヌクドナルド1
「ウミってさー、ブラコンだよね。
しかも結構重たいやつ。」
中間テスト期間中、部活もないからクラスの友だちとヌクドナルドに寄って、
ベーコンレタスバーガーをかじろうとした時だった。
「はあ?あたしが?なんで?」
突拍子もないことを言われ反論というか、戸惑いの声が出る。
「いやいやいや、自覚ないのおかしいから。
同じ学校にわざわざ入学して、
入るつもりのないロボコン部いちいち文句言いに行って、
自分の空手部の仮入部には付き合わせて、
今も一緒に帰ったりしてるんでしょ?」
「いや、毎日じゃないし。
お互いに部活がない日だけ……。」
「それ、全然反論になってないから。」
レイナに鼻で笑われ、
あたしは眉をひそめつつモグモグとバーガーをそしゃくした。
「別にあたしはお兄にこだわってるわけじゃない。
空手をやめて、ロボットなんてやってることに納得できないだけ。」
「三年の巨乳先輩にだまされてるって?」
「中学までのお兄は強かったし、
あの変なロボットより、道着のほうが絶対に似合ってた……。」
「やれやれ、からかってる場合じゃないぐらい重たい気がしてきたわ。」
話していると、またモヤモヤしてきた。
こないだも練習試合に勝ったとか言って動画を送ってきたけど、
変なスーツのチカラを借りて戦うなんて邪道だ。
スタンプ一つ返して、終わりにしてやった。
「おう、ウミじゃん。友だちと一緒か。」
声がしたので振り向くと、そこには邪道な兄がいた。
トレーにはビッグヌックとドリンクのセットが載っている。
「あら、噂をすればお兄さま。」
「こんにちは。俺のこと知ってるの?」
「レイナでーす。お話はウミからかねがね。」
「余計なこと言わなくていいの!」
「あっ、ウミ!」
レイナのほうに向きなおしたはずみでドリンクを倒してしまった。
運悪く、近くにいた客にオレンジジュースがかかる。
「あっ、すみません!」
言いながら相手を見ると、古い漫画で見たことあるような
ちょっと柄の悪い男子高生だった。
着くずした学ランから、「死武矢」という
謎の漢字がプリントされたTシャツが見えている。
「……ズボンが、濡れちまったなあ。」
死武矢Tシャツの男は、嫌味たらしく口を開いた。
「すみません。」
あたしは頭を下げて謝罪した。
さすがに自分が悪いのはわかっている。
「謝ればいいってもんじゃねえだろ。なあ。」
男はこちらに一歩近づくとテーブルに片手を置き、
下からあたしの顔を覗き込んできた。
おもちゃを見つけたとでも思っているのか、にやけている。
あたしは反射的に相手から顔を遠ざけた。
「ごめんなさい。クリーニング代は出します。」
「おいおいおい、それじゃあ俺、クリーニング屋に行くだけ損だろうよ。」
男が食い下がってくる。
ちょっとイライラしてきた。
男女のチカラの差があるとはいえ、隙だらけだ。
スカートじゃなければ頬に上段回し蹴りでも食らわせてやるのに。
「すみません。勘弁してやってください。こいつ、俺の妹なんです。」
お兄があたしと死武矢男の間に割って入った。
「あん?知らねえよ!誰だお前。」
男がお兄にすごむ。無謀な奴だ。いいぞ。
お兄、やっちゃえ!
しかし、あたしの期待は裏切られた。
「すみません!勘弁してください!」
お兄は腰から深々と相手に頭を下げた。
その声で、ヌクドナルドにいたみんながこちらを振り向く。
一瞬の沈黙。
「……ちっ!」
目立ったのがまずいと思ったのか、
死武矢男は去って行った。