【第04話】仮入部2
「お兄、どうしてやらなかったのよ!」
稽古が終わり、武道場を出るとウミが不満そうに言った。
「だって、俺はもう空手はやってないし、変に目立ちたくなかったんだよ。」
「あーあ…… 武道場まで来ればさすがにやる気出すかと思ったのに。」
「そんなこと考えてたのか。」
人見知りなんてほとんどしないこいつが、
仮入部について来いなんておかしいと思った。
そんな裏があったとは。
「空手部、もう終わったんですね。」
ウミと並んで校門の前まで行くと、ツキ子先輩に会った。
待っていてくれたみたいだ。
「ツキ子姉、先に帰ってよかったのに!」
「だって、おうちもお隣なんだし、一緒に帰りましょうよ。」
「よくない。お兄は今日は空手部なの!」
ウミがツキ子先輩から俺を守るように立ちふさがる。
「ウミ、そんなこと言ったって、俺はもうロボコン部なんだよ。」
「うー……」
俺が高校生になって空手をやめたことを、ウミはまだ納得していないようだった。
「このおっぱい!このおっぱいがお兄を惑わしたのか!」
ウミが突然、ツキ子先輩の胸に掴みかかった。
「痛っ!痛いです、ウミちゃん!女子同士でもセクハラですよ!」
「バカ、お前やめろよ!」
俺はあわててウミをツキ子先輩から引きはがした。
こないだまで中学生だった奴、恐るべし。
何をするかわからんな。
「……リクくんをロボコン部に誘ったのは私ですけど、
空手で鍛えた運動神経を活かして欲しくて誘ったんですよ。」
自分の胸をさすりながらツキ子先輩がウミを諭す。
大人の対応、ありがとうございます。
「空手で鍛えた運動神経は空手で勝つために使って欲しかったの!」
ウミがうつむきがちに声を上げる。
「いいかげんにしろよ。確かにお前とツキ子先輩の胸には、
日本海溝と富士山ぐらいの差があるが……。」
「誰の胸がえぐれてるのよ。お兄のバカ!エロ!」
ウミは俺を突き飛ばすと、薄暗くなりつつある通りを、
家のほうへと走り去っていった。
「リクくん、今のは……。」
先輩が気まずさと非難交じりに言った。
俺、余計なこと言ったかな。
言ったな。