【第03話】仮入部1
「今日の仮入部、付き合ってよ。」
見学会の週が終わり、仮入部期間の二日目。
放課後、妹のウミが二年生の教室にやってきて言った。
「行き先は?」
「もちろん空手部。」
ロボコン部の見学に行ってやったんだから、自分の仮入部にも少し付き合えと
わかるようなわからないような理屈をこねるウミに袖を引っ張られ、
俺は武道場に足を踏み入れた。
まあ、仮入部だとツキカゲは新入生に貸してしまうし、
俺がいなくても部長やツキ子先輩がいれば、ロボコン部はなんとかなるか……。
「俺、道着なんか持ってきてないぜ。」
「別にジャージでいいでしょ。」
促されるまま着替えて、武道場の隅っこから遠目に女子の稽古を眺める。
新入生が数名。道着を着ているのはウミだけで、ほかはジャージだ。
みんな、初心者らしい。
突きや蹴りを繰り返す基本稽古をする同級生たちを尻目に、
ウミは先輩から声をかけられていた。
手足にサポーターを付けると、距離を取って向き合う。
さっそくスパーか。
「オス、お願いします!」
ウミと先輩の声がほぼ同時に響くと、
先輩がさっそく動いてウミとの距離を詰めようとする。
ウミはすかさず前足を上げると相手のお腹に当てた。詰めさせない。
それならと、先輩も前足を上げると軸足で飛び跳ねながら距離を測る。
間合いに入ったら即蹴るぞとけん制。
だが、ウミは蹴り足が届かない軸足側に素早く回り込むと、
先輩が向き直るより先に上段回し蹴りを放った。
顔の前で寸止め。
試合なら技有りだ。
まあ、そうだよな。
ウミは小学生の頃から俺と空手をしていた。
中学生の時には全国大会で入賞したこともある、黒帯の初段だ。
高校から空手を始めた先輩が勝てるわけがない。
「あれ、B組の岩田くん。女子の稽古を熱心に見ちゃって、ヘンタイ?」
「はは、妹の仮入部に付き合わされちゃって。」
俺に気が付いた二年生が声をかけてきた。
俺はウミのほうを指さす。
「え?あー…… あの子、強いじゃん。そういえば、お前も経験者だっけ。」
「まあ。」
「どう、久しぶりにやってく?」
「いやー、俺はいいよ。」