81話
「よう、幸太!久しぶりだな!」
「武藤君、みんなも!今ダンジョンの帰り?」
「おう!つっても、人が多過ぎてあんま狩れなかったんだけどなぁ〜。」
「そうなんだ・・・。」
この調子だと、1階層だと分かってしまう。
さすがに、3階層に行っていたとは言いにくい。一瞬言葉を探してしまう。
「・・・ショップには、何か見に行ってたの?」
「遥が『小鬼丸』を一昨日見たって言うから、せっかくだから1度拝んでおこうと思ってさ!そしたらさぁ〜、売り切れてやんの。」
「一昨日は確かに在ったんだよ?ショップのお姉さんも、そう言ってたでしょう?幸太も見たよね?」
「うん!あれはすごかった!」
あれ、売り切れ!?
え、たったの2日だよ?
200万円〜400万円くらいだったよ!?全部ぅ!?
「いや、遥を疑ってる訳じゃないんだけど、1度は見てみたいアイテムじゃん?こう、残念でさぁ・・・。」
分かる!
分かるよ武藤君!
みんなもウンウン頷いている。
エミリアやソフィアでさえもだ!
意外な事に、ミラなんて絶望してる・・・。意外過ぎる。
「ああ、引き止めて悪かったな。エミリアさんもまた学校でな。」
「ああ、また学校で。」
武藤君は、テンションが下がったまま去っていった。
「ミラ、元気出せ。」
「そうですよミラ、私たちには指輪が待ってます!」
ソフィア、それも売り切れてるそうですよ?
「ははは・・・、なあ幸太、私は運がないんだろうか?」
それを僕に聞く?
正直、僕運とか苦手なんだよね。
「まあ、安定供給も目の前らしいし、次の機会に見せてもらいなよ。」
世の中、何が起こるか分からない、だから念のため、目の前って事にしといた。
原材料の急な高騰とか、ちょっと予測出来ないからね。
予測出来ない事が起こって、まさに今日、儲けが上がった身としては、明言は避けたいところだ。ミラのこの様子で、『小鬼丸』が入って来なかったらと思うとね・・・。
ソフィアとエミリアが、ショーケースをくまなく見て回っている。
「あ、あれ?ないですよ!?」
「ソフィア、『銀の指輪』なんてどこにもないぞ?」
「このあいだまでは、確かに在ったのに!」
「え、えっと、お客様?商品は、常に入れ替わっておりますので・・・。」
ショップの、黒くて長い髪が綺麗なお姉さんが、勇気を出して2人に話しかけた。
お姉さん・・・、頑張って!
僕は、ミラと一緒に目をそらす。
2人に見つめられて、ビビってるお姉さんには申し訳ないけど、僕らは貴女を助けてあげられない。だって、僕らは自分の身が大切だから!!
この雰囲気を破ったのは、僕にとって聞き慣れた声だった。
「あれ?幸太君じゃない、もしかしてコレを買いに来たのぉ?」
ギルドのお姉さんこと、都築さんだ。
お姉さんは、この空間の雰囲気を物ともせずにやって来た。
「そうだ、幸太君3階層に挑んだんだって?ダメじゃない無茶をしちゃあ。」
すごい!
ソフィアとエミリアの殺気なんて物ともしない、圧倒的な強者の雰囲気!
まるで、空気を全く感じていないかのような、傍若無人。
これぞまさしく、強者にのみ許された生き方。
脱帽ですお姉さん。
「3階層で『ゴブリン・シャーマン』とやり合ったみたいね。連中の魔法には、苦労させられたでしょう?だけど怯んじゃあダメよ、彼奴自身は大して強くないからね。落ち着いて倒して、立て直す事が肝心よ!」
僕は、みんなを見回して確認した。
みんな、分かっていなかった。
「あの、お姉さん『ゴブリン・シャーマン』って何ですか?」
「ゴブリンの中でも呪術っていうの?デバフとか言われる魔法を使って来る連中の事よ。見たでしょう?」
僕は再びみんなを見回して、みんなの記憶にない事を確認した。
そんなの居た?
「でも、『呪いの指先』を落とすのは、豊田ダンジョンでは『ゴブリン・シャーマン』くらいでしょう?」
僕は、3たびみんなを見回すも・・・。
「・・・。」
「こう、『呪いの指先』を着けたゴブリンに、デバフとかされなかった?あれ、けっこうきついのよ?」
ダメだ、うちのパーティーにはそれらしい個体情報がない。
「あれぇ、おっかしいなぁ?MDEFが相当高くないと、けっこうかかって大変なはずなのに・・・。」
あ、そっちなら、心当たりがありますぅ。
ソフィアのMDEFは14だし、僕に至っては19だ、その上僕にはデバフ耐性がある。前衛2人を狙ったのなら、そう簡単にはかからないはずだ。
何だか、相性って大事だね。




