表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/446

8話

 目的は達成したのだし、今日は帰ろうと、僕が来た道を振り返ると、奴が居た。

 すすきに身を潜め、オレンジがかった黄色い目でジッとこちらを窺っていた。



 特徴的な緑色の肌に不気味な目、身長160㎝しかない僕よりもさらに小さな背丈。

 間違いない、あれが『ゴブリン』だ。

 木の棒を手に、ジッとこちらを見ている。


 幸い、奴は視力が低いのか、僕が気づいた事に気づいていない。

 ゴブリンは夜目が利くって説もあるし、明るいこの階層では眩しいのかもしれない。その辺の事は、まだ詳しく発表されていない。だから、ネットでは憶測混じりの情報が飛び交っている。



 一足飛びというには遠い距離だ。

 だけど、確実にお互い相手を見ている。


 ベコッと音が鳴り、僕は自分がペットボトルを持ったままだという事を思い出した。

 これを投げつけるのがいいだろうか?


 咄嗟とっさに思ったけど、僕はこの考えを否定する。

 きっと、状況は動き出せば止まらない。




 だから、慌てて動こうとする身体と、恐慌を起こしそうになる思考をグッと抑え込み、この後の展開を考える。




 まずは、ペットボトルじゃなくて武器に持ち替えなくてはいけない。

 ペットボトルを『ゴブリン』に投げつけて、ベルトにねじ込んだナイフを抜く。カバーを取らなくちゃいけないけど、普通ならこれがベストだろう。


 だけど、僕には経験上分かる。

 ペットボトルは上手くすれば当たるだろうけど、ナイフは高い確率で落とす!

 慌てると、僕はやらかす人間なんだ。


 自信がある!


 いや、そんな自信は要らないけどね。

 だから、奴が動き出す前にそろりそろりとナイフを抜いて、カバーも外そう。ペットボトルはどうしようか?落とすと奴が動き出しそうだから、右手の薬指と小指に挟んでおこう。


 後は、戦うだけだ。

 ここまで来たら、やるしかない!




 やる事が決まったので、緊張する中、僕はそろりそろりと腰のナイフに手を伸ばす。

 大丈夫だ、奴は動いていない。


 腰のベルトから、ゆっくりと左手でナイフを取り出す。


 右手でカバーを掴んで、後は抜くだけだ!


 右手の指からペットボトルが滑り落ちた。




 液体の入ったペットボトル特有の、ボベンっと表現し難い音がする。

 これにゴブリンが反応して、飛び出して来た。




 僕はヤケクソになってカバーを外す。

 ナイフじゃなくて良かったけど、ペットボトルを落としたし!

 若干、自分のダメさ加減に涙目だ。


 生き物に刃物を向けてるという事実に、一瞬躊躇(ちゅうちょ)してしまう。

 その隙に木の棒でぶっ叩かれた。


「いってーっな!・・・この!」


 もう1発くらうのを無視して、僕はゴブリンに飛びついてナイフをぶっ刺してやった。


「この!・・・この!・・・この・・・。」


 何度も繰り返し刺してるうちに、手の感触が気持ち悪くなって来た。


「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ〜・・・、終わったか。」


 荒い息を整えながら、唇から溢れ落ちたのがこの言葉だった。

 終わった、殺した。


 だけど、罪悪感は湧いてこなかった、その事に、ちょっと戸惑った。もっと、精神的に辛いものをイメージしていた。

 だけどそれは、モンスターを倒した時、彼らの身体が黒い霧になって消えるせいかもしれない。


 ゴブリンを刺してる間、ゴブリンの口からは血や唾液が、傷口からは大量の血液が出ていたはずなのに、終わると綺麗サッパリと消えてなくなってしまうのだ。だから、手の感触の気持ち悪さだけで済んでいるのだと思う。

 自分の心が壊れているからだとは、思いたくない。


「・・・ドロップは無しっと、残念。」


 この時、残る物品を、ドロップまたはドロップアイテムなんて言う。

 まあ、ゲームをやった事のある人ならばお馴染みだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ナイフで戦う主人公とか好きです暗殺者とか斥候みたいな戦い方はもっとすき
初期装備がナイフ? そもそも何故長生きの棒を持っていないのに入り口の人は注意しないのでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ