76話
小休止を早めに切り上げて、僕らは慎重に2階層に移動した。途中1度だけ戦闘があったけど、みんなで全力で攻撃して、仲間を呼ばれる前に殲滅した。
「各自警戒しつつ、お昼にしよう。」
僕はいつもの通り、おにぎりを食べながら考える。
ソフィアはタンクとして、前衛の役割を十分に果たしているだろう。殲滅力こそないものの、敵を引き付ける役割を果たしてくれた。
ミラは後衛で、魔法攻撃が主体だ。MP不足が悩ましいところだけど、全体をよく見て、敵の配置や接近を知らせてくれたし、よく指揮を執っていたと思う。
エミリアは中衛だろうか?アタッカーとして、ゴブリンを相手に一方的な戦いを演じていた。慣れない槍を、よく操り倒していた。途中から足や胴体に当てて、相手の動きを止めてからトドメ刺すコンボを見つけてからは、さらに殲滅速度が増した。
こうして見ると、よくやれていたのではないだろうか?
あえて言うなら・・・、僕がみんなに【支援魔法】をかければ、もっと楽だった。
エミリアかソフィアにかければ、安定感はもっと増しただろう。
あえてミラにかけて、みんなの心配を払拭出来れば、もっと落ち着いて倒せていたのではないだろうか?
僕だけが、手を抜いている、そんな気持ちにさせられた。
遥君は、同じ不安を抱えながらも、僕に向かって一歩踏み出してみせてくれた。
だからこそ、僕は頭を捻り、僕に出来る範囲で彼に応えたんだ。
僕には、そんな彼の一歩が、眩し過ぎる・・・。
僕には・・・
「コウタ、反省会をしよう。」
「え、あ、ああ、分かったよ、やろう。」
さっきまで、みんな静かに食べていた。
僕が、考え事をしている間に、みんな食べ終わってたみたいだ。
少し広がって食べてたのに、今は膝を突き合わせる距離だ。
だから、近いって!
美女に近寄られて離れるなんて、僕の矜持が許さない!
ごめんなさい、そんな矜持は持ってないので、ちょっと離れても良いですか?近づいたら、何か、良い匂いがして来るんで。
顔だけでも、少し離そうとしたら、逆にエミリアに抱え込まれた・・・。
エミリアの腕が、僕のクビに絡まってます。
良い匂いにクラクラするんで、離してもらっても良いですか?
とても話に集中出来る状況じゃない!
「まずは、あたしから良いか?」
「ああ。」
「どうぞ。」
「うん。」
僕も、何とか頷いて答える。
「今回、つい調子に乗って、使い慣れない武器を持ち込んで、みんなに迷惑をかけた、すまない。ただ、あたしなりに考えて選んだ武器なんだ、どうか慣れるまで少し長い目で見てくれないか?」
思わず、僕はエミリアの顔を覗き込んでしまった。
近っ!?
エミリアが、そんな事を考えてるなんて、僕は思ってもみなかった。
もっと彼女は、楽観的な考えをする人なんだとばかり思っていたんだ。
「なんだ、その顔は?」
「いや、エミリアも、しっかりと考えていたんだなぁと思って。」
こっちを向くと、ますます近いから!
さっき食べた、おにぎりの海苔の香りが届かないか、心配だよ。
「っんんっ!エミリア、後にしてくれ。」
僕は、ミラの空咳に我に返った。
エミリアと見つめ合ったままだったのだ。
「仕方ない、後にしよう。」
「では、次は私ですね。私は、もう少しこの甲冑を信じて、前に出る事が出来ると思いました。それと、相手にせめて手傷を負わせておけば、みんなが楽になるのではないかと思います。それを、今後の課題にしていくつもりです。」
「そうだな、ソフィアは少し手数が少なかったな。ソフィアが弱らせる事が出来れば、エミリアはもっと楽にゴブリンを倒せただろう。良い着眼点だ。先ほどの戦い方では、及第点はやれないな。」
「ミラ待ってくれ、ソフィアは久しぶりの参加だし、直ぐに完璧を求めるのには無理がある。これから、少しずつ良くして・・・、行けばいいよ。」
ミラの厳しめの評価に、僕は思わず口を開いた。
だけど、ミラの表情を見ていて、僕は、ミラに言わされた事に気がついたんだ。
厳しい意見も、誰かが言った方が良い。
では、誰が適任か?
付き合いの浅い僕よりも、付き合いの長いミラが言った方が、パーティーの関係性が拗れないだろう。
ミラは、嫌われ役を買って出たんだ・・・。
まあ、ソフィアがミラを嫌う事はないだろうけどね。
「私は普通にLv不足を感じたかな、MPが足りない、それからもう少し力があれば、MP切れをしても戦力になれるだろう。」
「そうだね、MP不足は課題かな。だけど、その他は完璧だったと思うよ。」
ミラが自虐的に言ったのなら、僕は迷わず褒める係りだ。
ミラは一瞬キョトンとして、照れた。
僕としては、会心の出来だろう。
「エミリア、お前の男を見る目は確かだ。だけど、場所は選べよ?」
あれーー!?頑張ったでしょう!?
僕、頑張ったよねぇ?
僕がエミリアとの距離感に戸惑ってる事を、ミラは気づいてるよねぇ!?
助けてくれるんじゃないの!?
ミラは僕をニヤリと見据えて。
「相談には乗るからな。」
言い放った・・・。
褒められたのに、この仕打ち・・・。
正直、なぜエミリアが、僕に好意的なのか、サッパリ分からないんだ。
それが、僕が困惑してる理由だ。
美人局すら疑う所だと思うんだ。
だけど僕たちは、スキルが分かる前に出会ってるんだよね。
それも、あのラーメン屋の後くらいから、割と好意的だったと思うんだよ。
僕は、ラーメンの匂いでもしてるんだろうか?




