74話
ようやく3階層に到着した。
すすきが完全になくなり、草が短くなって、木が増えてる、もはや林だ。
それでも、草にタイヤの跡が残されているところを見ると、自衛隊のみなさんは、ここも車を通しているらしい。
すごいな、木に当たらないんだろうか?
考察は、ダンジョンを出てからする事にして。とりあえず、一当たりしてみたい。
噂は聞いているけれど、確認してみないと、実感出来ない。
しばらく歩いていくと、すぐに噂の偵察隊が発見出来た。
いや、発見されたと言った方が正しい。
矢を射かけられ、先制された。
ミラが即座に魔法を撃ち返し、戦端が開かれた。
「アーチャーの止めは後回し!武装の薄い奴から狙え!」
「「「了解!」」」
さすがにミラは頼りになる、急な遭遇なのに、的確に指示を出す。
武装の薄い奴っていうのは、これまでも見てきた普通のゴブリンだ。
逆に、武装をしっかりしてる奴っていうのは、ちょっと背が高かったり、マッチョっぽい奴らが多い。
革だったり、毛皮だったりするけど、大きめの物で身体を守っている。
「ソフィア前に出ろ!力押しで行け!」
「はい!」
「エミリアは出過ぎだ!ソフィアをカバーしながら倒して行け!昨日やっただろ!?」
「えー。そうだっけ?」
「幸太は倒しすぎるなよ?私たちにも、確認させてくれ。」
「・・・了解。」
まさかの指示に驚いたけど、理由を聞けば納得だ。
不意の遭遇だったので、僕は冷静さを欠いていたようだ。
とりあえず、殲滅してしまおうと思っていた。
ミラの、見事な采配だ。
とりあえず、全部倒し終えた。
ゴブリンは7匹だった、これは2階層とそう変わらない。
今の一戦を、みんなと振り返る。
「いきなり先制攻撃されたね。」
「これまでは、あまりなかった事ですよね。」
「ああ、一匹で潜伏して奇襲狙いくらいだったな。それ以外は、何気にすすきの音で、近づいて来るのが分かったものだが、ここはそれがないな。」
「その上、緑色の肌が迷彩の役割を果たしている。3階層から急にやり難くなったな。」
おお、それで気づかなかったのか!
これまでは、簡単に接近に気づけていた。
「戦った感触はどうだった?」
「「防具は厄介!!」」
ソフィアとエミリアがハモっている。
2人は苦戦してたもんね。
「防具のない部分は、やはり少し柔いな。」
そうなんだよね。
防具をつけると、肌も防御力が上がるんだけど、やっぱり防具のない部分の方が、刃が通りやすい。
これも、ダンジョン産アイテムの謎だ。
だから、高いんだけどね。
僕なんて、料理をする時は、必ず装備を着けるからね。
これなら、従来の包丁で手を切る心配がないんだ!
これに気づいた時は、革命だと思ったね。
ダンジョン革命だよ!
「その点、コウタはさすがだな。防具の隙間を狙ったのか?アッサリと処理していた。」
「僕は・・・、えーと、大丈夫か・・・。器用値が高いからね、そういうのは得意なんだ。」
一瞬言い淀んだのは、彼女たちに話していいか迷ったからだ。
数字や、スキルの内容でなければ、問題ないと僕は判断した。
ステータスの、傾向くらいは分かってないと、パーティーとして動き難いからだ。
「「器用値?」」
「ああ、お前たちの器用値には期待していない、脳筋共め。」
ミラが何気にひどい事を言っている。
「なんだと!?そんな・・・事は・・・。」
「そうですよ、ひどい・・・、です・・・。」
2人とも尻すぼみに、言葉が消えていった。
そんなに器用値ひどいの?
「事実だ、クッキー1つまともに焼けない奴らめ。」
「それは、・・・ひどいね。」
レシピを見ながらやるだけだ、誰にでも出来る。
僕も子どもの頃、妹と焼いて食べたものだ。食べきって、怒られるところまでがセットだった。
焼きたてが美味しいんだって、香りが違うよ?
「コータまで!?」
「コウタ、信じていたのに・・・。」
何をだ?
「エミリアは混ぜ過ぎて、ガチガチのクッキーを持って来た。歯が折れるかと思った。」
あー!やるやる!!
気合が入り過ぎるとね!硬くなるんだよね。
「ソフィアは生焼けなのに黒焦げの謎のクッキーを持って来た。腹を下すかと思った。」
え?それは、どうやってやるの?
オーブンの不調では?
だけど、そんなクッキーを、ミラは一生懸命たべきるんだよね。
分かります、分かります。
「お前らも、少し器用値を鍛えた方がいい。幸太なんて見てみろ、今日は右手でナイフを扱ってるのに、普段と何ら変わらない動きだったぞ?」
「え?あ、本当だ。間違えた。」
ミラの指摘に、僕は慌ててナイフを持ち変えた。
「幸太・・・?」
ミラそんな顔をしないでよ。
よくあるんだって。
「ほら、ナイフなんて、どっちで持っても一緒でしょう?」
3人は、仲良く目を点にしていた。
まあ、左利きの設定なので、左利きあるあるです。
ハサミとか、包丁とか、よく間違えて使ってます。
野菜の皮むきとか、どっちでやっても、そう変わらないと思うのですよ。
ただ、ハサミや包丁自体には、左利き用と右利き用があるそうです。




