51話
「遥君。」
「なに?」
「スキル自体の話は、後にしよう。」
遥君は微妙な表情を浮かべている。
それも仕方ない、遥君はスキルの話をしに来たんだしね。
それでも、僕は先に確認しておきたい。
「スキルの話を僕にして、君はどうしたいんだ?」
僕なりに、この言葉に、出来るだけの思いを込めたつもりだ。
なぜ僕なのか。
何を目的とするつもりなのか。
スキルをどうしたいのか。
この情報をどうしたいのか。
1個ずつ問い詰めるのは簡単だ。
だけど、それだと情報だけが残って、彼の中で、納得出来るものにはならないのではないだろうか?
彼の思いを引き出す事と、自分の言わせたい言葉を相手に言わせる事は、違うと思うんだ。
うちの母親が何かを教えようとする時に、そうだった。
僕は、彼に何かを教えようと思っている訳ではない。
だけど、自分が嫌だと思った話し方をするつもりはない。
後は、彼の中で言葉になるのを待つだけだ。
「僕は・・・。」
遥君が僕って言ったか?
一人称を変えてたんだね。
「強くならないといけない、なるべく早く、強くならないと、・・・そうじゃないと、危険なんだ・・・、怖いんだよ・・・。」
「うん。」
「・・・鑑定した時に、さ・・・、ステータスがどう上がったとか、スキルが、出なかったとか・・・、みんな、話し始めてたんだ、鑑定室で、だよ?・・・その時に、彼らに、僕のスキルを話すのはマズイって、そう、思ったんだ・・・。」
「うん。」
「有用なスキルが出たんだ、僕だって・・・、みんなに自慢したかった!・・・だけど、スキルを持つ事の、危険性も聞いていた・・・、その、行方不明者が出てるって・・・。」
「うん、賢明な判断だよ。遥君は胸を張っていい。」
さっきまで、動揺でひどい顔をしてた。
僕の言葉を聞いて、少し落ち着いたようだ。
「そんな時にさ、幸太君の事を思い出したんだ。」
「僕を?」
「もちろん、忘れてた訳じゃないよ?入学式の日、みんなにステータスやスキルを聞かれたのに、君は頑なに一言も漏らさなかった。それを、思い出したんだよ。」
「それでか。」
「うん、君なら、ステータスやスキルを漏らす危険性を、シッカリと理解してるって思ってね。だから、君に相談したかったんだ。」
完全に、冷静さを取り戻したようだ。
「みんなと、ステータスを教え合った時に。スキルだけじゃなく、ステータスを教える事の危うさにやっと気づけてね。つい、嘘をついてしまった。」
「ファインプレーだったね。」
「ありがとう。」
彼は、笑ってから礼を言った。
話して、肯定されて、スッキリしたのだろう。
まだ、何も解決していないけど。とりあえず、相談を受ける準備くらいは出来たんじゃないだろうか?
教え方の上手い人と、下手な人って、やっぱり言葉の使い方が違うんですよね。
スッと、自分の中に入って来る言い方。
ひたすら反発心だけが刺激されて、何が言いたかったのかサッパリわからない。そんな話し方をする人も見て来ました。
私の言葉が、みなさんの中にスッと入ると良いなと、思っております。




