46話
『青いウサギ』の落とした果実は、品の良い香りと、仄かな甘味、そして、とても瑞々しくジューシーだった。
まるで、頭のてっぺんから足の先まで、潤いに満たされたようで、力が湧いて来る。
そんな、果実だった。
やりきったはずなのに、何だか切ない気持ちにさせられた。
少し早いけど、今日はもう上がろう。
ギルドへの帰り道に、この前見かけた褐色の肌の女性が、1人でゴブリンと戦っているのを見た。
無理はしていないようで、危なげなく戦っていたので、僕はそのままギルドへ向かって歩き続けた。
どちらかといえば、スタイルの良い女性なので、ついつい眼がそちらにいってしまったというのが、本音なんだけどね。
見知らぬ女性を見て気分が回復して来る僕は、立派は変人になったものだね。
変態じゃないよ!?チラッと見ただけだから、セーフだよセーフ!
だって、あのスタイルで戦闘してたら揺れるんだよ!男の子なら誰だって、眼がそちらに向いちゃうんだって!
1人の時で良かった。
そんな事を考えながら、移動をしていたら、クラスの菊池さんたちを見かけた。
前に、エミリアと組んでLvアップを目指してた人たちだ。
さすがの菊池さんでも、あの褐色の女性には敵わないね。
どこがとは言わないけどね!
「あっ!藤川!」
男性のグループと一緒にいたから、声をかけずに立ち去ろうと思ったのに、その菊池さんから声をかけられた。
まあ、そうしたら行くしかないよね。
「菊池さんどうかしたの?合コン?」
「藤川、良かった、助けてくれない?断ってるのに、しつこくて鬱陶しいのよ。」
何を?とか、言ってくれないけど、たぶんお誘いが鬱陶しいのだろう。
「邪魔なんだよ、オメーはあっちに行ってろや。」
「後から出て来んな、関係ねーだろうお前は。」
自分たちこそ無関係なくせに、何でこういう人たちって、こんな事が言えるんだろうね。
僕は不思議でならないよ。
僕は、菊池さんたちと男性陣の間に立った。
「あんだオメー!やんのかコラぁ!?」
「・・・ああ、その方が楽ですね。いいですよ、やりましょう。」
話し合いも面倒くさいし、僕はどうしようかと悩んでいた。見るからに格下の装備に身を包んでる男性を、僕が怖がる理由はどこにもない。
「ちょうし、ノンなよコラぁ!?」
「もう少し、日本語はハッキリと発音して下さい。僕は田舎の方言は理解出来ませんので。」
先頭の金髪が、僕の服に手をかけた。
これを待っていた。
「これで、正当防衛成立ですね?」
その言葉とともに、彼には腹パンをプレゼントした。
一昨年、法改正があったんだ、過剰防衛という言葉がなくなった。これもダンジョンが出来た事による変化だ。特に、ダンジョン内において適応されるケースが多い。なにしろ、ダンジョン内は電波が通らず、無法地帯になりやすい。
だから、これも立派な合法行為だ。
「をげぇっ!?がぁふ・・。」
利き手は、空けておきたかったので、右手で殴ったんだけど、的確に鳩尾に突き刺さった。
割と容赦なくやったけど、これほど痛がるとは思わなかった。
彼は膝を地面について、うずくまってしまった。
まるで土下座のポーズみたいだ。
せっかくだから、頭を踏みつけようか?
他の人まで殴らずに済むなら、それもありかと思って、僕は実行に移す事にした。
「がひゅ・・・、で、でびぇぃ・・・。」
金髪さんが、僕の足の下で何か言ってるけど、気にしない。
「それで?みなさんも大地に口付けしたいのですか?」
他に3人ほどいたのに、彼らは慌てて手を振って否定し、詫びを言いながら走って逃げて行った。
何か決まり事でもあるんだろうか?
ちゃんと、お詫びを言うところに好感が持てた。
「あ、この人置いて行っちゃったね、どうしよう?」
僕は菊池さんたちに聞く。
「別に放置で良いんじゃない?死んでる訳でもないんでしょう?」
「それもそうだね。じゃあ、僕はこれで、菊池さんたちも気をつけて帰ってね。また明日、学校で。」
そそくさと帰ろうとする僕を、菊池さんたちが追いかけて来た。
「そこは、外まで送ろうか?とか聞くところでしょう?」
「そお?まだ早いし、僕は粘れると思うよ?」
「まだ、お礼も言ってないし。ああ、ありがとね、助かったわ。」
「いえいえ、これはご丁寧にどうも。」
気分的には、『青いウサギ』の事もあり、早めにダンジョンを出たかった。
気分を切り替えないと、どんなヘマをやらかすか分からない。
その為、金髪さんには、乱暴な対処になってしまった。
「歩きながらで良いから、少し話せない?」
「良いですよ。」
「エミリアの事なんだけどね。」
おっと、思ったよりも真面目な話だ。
僕も歩きながらだけど、聞く態勢を整える。気持ちの準備の事だね。
「買い物やカラオケに誘っても、彼女来ないのよね。藤川とパーティーを組んだって話は聞いてるんだけど。何か事情があるの?」
「ん〜、別にエミリアも隠してる訳じゃないと思うんだけどね・・・。」
僕は、何と言うべきか悩む。
国から融資というか投資というか、そういうのを、探索者として受けているって事を言うべきか?
援助とも言うかな?
僕もあれから調べてみたんだ。
それ自体を受ける事は、決して恥じる事ではない。普通にローンだ、スマホを買う時なんかに普通に使ってる。むしろ携帯会社が、一括の支払いを嫌がる面まである。あれ、うざい!
だけど、学生時代にはっちゃけ過ぎちゃって、ローンを返せなくなる人とか割といるらしいんだ。
そうすると、取れる手段は自己破産か国外脱出する事くらいな訳で。その先の就職とかに、影響してくるそうだ。
お金にルーズで、計画性のない人、会社は雇いたくないよね。
ここで、遊びに時間を費やさないのは、彼女がしっかりと、将来を見据えて動いている証拠だ。
まあ、ある程度は遊んでるんだろうけどね。
そっちの時間は、ミラたちにあててるのかもしれない。
難しい問題だ・・・。




