412話
ダンジョン周辺のモンスターを粗方片付ける事に成功して、今は打ち上げの真っ最中だ。
僕の恥ずかしい演説も終え、可愛いミューズの歌声が夜空に響き渡り、皆の歓喜とともに魔法が打ち上げられた。
滞りなく仕事を終える事が出来て、僕としてもホッとしたし、肩の荷が下りた思いだ。
ローザさんの所の愛人1号と2号さんも、あの後、割りと早く目を覚まし、ダンジョンの探索に精を出していた。今は、倒れた事を皆さんに揶揄われている、大丈夫そうでなによりだ。
それにしても、申し訳ない事をした。
僕は皆さんと挨拶を交わし、ダンジョン内部の様子などを聞いてみた。
ユタ州に出来たダンジョンは、外の環境よりもちょっとだけ優しく、気温も穏やかで、砂漠化もしていなかったそうだ。だけど、辺りは一面西部劇のセットのような風景が広がっていて、水の確保に難儀しそうだとも言っていた。
ア・モルテが、すでに2階層の入り口を見つけていて、今後の展開が期待される。
そして何よりも、風が意外と強いのが僥倖だそうだ。
まあ、『カメムシ』の恐怖を知っていれば、当然の反応だろう。
あの臭いとの戦いは、人を想像以上に疲弊させるんだ・・・。
「ジエゴさん!お疲れ様!!」
「おう!幸太お疲れ!」
ア・モルテのジエゴ・ペレイラさんに挨拶しながらハイタッチだ。
職人気質な探索を売りにしてる彼らだけど、オフの時は意外と気さくな人たちなんだ。神経を使う探索の反動だって、ミラは言ってたね。
「調子はどうですか?」
「悪くはないな!しかし・・・。」
「どうかしたんですか?」
「その・・・、スキルの事で少し、相談に乗ってもらえないだろうか?」
「もちろん構いませんよ。」
珍しい事もあったもんだ、普段が普段なせいか、はしゃぐにしたって慎ましい彼らからお声が掛かるとは、思ってもみなかった。
こっちが丸焼きにした事を思えば、それこそお安い御用だ。
「実は・・・、その・・・。」
「はい。」
ジエゴさんがとても言い難そうにしている、いったいどうしたのだろうか?
わざわざ顔を近づけて話し掛けて来る。
(「その・・・、分身の術が使ってみたいんだ・・・。」)
「・・・はい?」
職人気質な特殊部隊のような人が、訳の分からない事を言い出し、僕は呆気にとられてしまった。
『みゅ〜、それは男の子の夢なのです。』
呆気にとられてしまった僕に代わり、ミューズが重々しく答えた。
ジエゴさん、そしてミューズが何を言ってるのか、僕にはさっぱり分からない・・・。
「えっと・・・それは、幻影を出したいと言う事で良いでしょうか?」
「いや、そうじゃない。」
『ご主人様、それは違うのです!分身の術と言ったら、実体はなきゃダメなのです!まったくぅ、ご主人様とした事が、分かってない奴なのですよ!?』
ミューズに怒られた・・・。
だけどどうやら、ミューズの解釈が正解のようだ。
ジエゴさんは、我が意を得たりといった様子で頷いている。
なんだろう?この疎外感・・・。
でも、なんか、人として分かっちゃいけない気がするんだ・・・。
ゴホンッ。
一つ咳を入れて、自分を奮い立たせる。
「要するに、自分に似せた実体を持った存在を創り出すスキル、それが欲しい訳ですね?」
『「そうだ!」なのです!』
2人の力強い肯定を受けて、僕は概要を理解する。
正直、理解は出来ない。
だって、こんなスキルいったい何に使うんだ?
これである。
使用用途が、僕にはさっぱり想像出来ないんだ・・・。
「そうすると、やっぱり【幻影】と【召喚】の合わせ技でしょうかね。
僕の場合は、すでに幻影が使えますから、概念としての『有』を乗せるのが近道ですね。」
「ぬ?」
『みゅ〜ん?』
どうやら、2人には伝わっていないようだ。
どう伝えたら分かりやすいだろうか?
そうだ・・・。
「ペレイラさんはキリスト教徒でしたっけ?」
「そ、そうだが・・・?」
我ながら理不尽な事だと分かっていても、苛々が抑えられない。
「それならば、旧約聖書の一章に記されている記述を思い浮かべて下さい。」
神は塵から人を創り出した。
神は己に似せて人を形作った。
あー、イライラする・・・。
こんな物を引用して伝えなければならないなんて!!
僕は【幻影】を元に、砂を依り代に使って分身を創り出してみせる。
あ、自分の裸を見せたい訳じゃないので、服も偽装してまぁす!
辺りから吸い寄せられるように砂が集まり、人の中核から順に形作られて行く・・・、心臓、骨格、筋繊維に皮膚、髪、そして衣類だ・・・。
僕のコピーの誕生だ。
「あれ?ミューズは?僕のミューズは居ないの?」
現れるやいなや、コピーにダメ出しされた・・・。
確かに・・・、ミューズの乗っていない僕なんて、偽物に決まってる。
やるじゃないか・・・、僕のコピーのくせに・・・。
ミューズコピー?
ミューズのコピー!!?
・・・何て事だ・・・!奴は天才だ・・・!!
この可愛いミューズを、無数にコピーしようだなんて!
奴に視線を送ると、コピーはニヤリと笑って見せた・・・。
『警報発令!警報発令なのです!ご主人様が馬鹿な事を考えているのですよ!?』
僕の頭上では、ミューズが右手をブンブン振って警告を発している。
うちのパーティーが、迷わず警戒態勢に入った。
「「ひどい!!?」」
僕は、コピーと2人で抗議の声を上げた。




