406話
荒涼とした大地を眼下に、僕らは飛んで行く。
車移動の遅さに焦れた僕の発案だ。
『ダンジョン・フィル・ハーモニー』を始めとする、各パーティーメンバーに【浮遊】を掛け、各自の腕力を持って連結し、【飛行】魔法を使って全員を現地まで運ぶんだ。
設置された道路を160kmで走るのと、上空を400kmで最短距離を飛ぶのとでは、かかる時間が違い過ぎるんだ。
『うっきゃー!うっきゃー!!』
「ミューズ、わざと落っこちるのはなしだからね!?」
暴風を浴びて喜んでいるミューズに釘を刺す。
僕の知る限り、彼女が物理的ダメージを負う事は万に一つもない。
だからこそ、疾走する僕から飛び降り、爆風に煽られて空を飛び、大空からダイブを決めるかどうか今この瞬間も迷っていられるんだ。
ただ面白い、その事の為だけに・・・。
『ご主人様はミューズを何だと思ってるのですか!?ミューズは自重を知っているのですよ!ご主人様よりもずぅ〜〜〜〜〜っと、常識人なのです!!』
!!?
モンスターで、水精であるミューズに人の常で負ける事があるなんて・・・。
僕はそんなLvの高い変人さんだっただろうか?身に覚えがない。
「ミラ、前方モンスターの群れ・・・、練習の成果を見せてくれ。足下の軍人さんは巻き込まない様にね?」
『出資者は無理難題を仰る!!』
ミューズがすかさず割り込む。
ミューズは青い水精から、赤い彗星にジョブチェンジを目論んでいるのだろうか?
「あー・・・、まあ、練習通りにやるさ。」
ミラから、気の抜けた返事が返って来た。
気負いしているよりはよっぽどマシだ、なので僕は流す事にした。
そして世界は赫に染められる・・・。
直径1kmは優に超える、破滅の舞踊だった。
前方が破壊の渦で真っ赤に染まる。戦闘ではない、一方的な浄化であり虐殺だ。
万にも届かんとするモンスターが、一撃でもって霧と返す。
これが、ミラ・フィッシャーだ!!
若干、上昇気流が飛行中の僕らを揺らすのが気になるけど、それだけだ。
「壮観だな!!」
ゴールドさんが、楽しそうに叫んでいる。
僕としては、不満の残る制御だ。
せっかくフィッシャー大使が無理をして、24時間もの貴重な練習時間をもぎ取ってくれたというのに、ミラの魔法は安定しないんだ、燃焼の範囲が2割前後も揺らぐ。
直径800m〜1200mものズレがあったら、怖くて他の人の近くには落とせない、そんな未完成な技なんだ。
だから、モンスターが残り過ぎた時にはアデレードに頼らなければならない。
『プラズママイン』を解放し、直径300m程度の範囲で雑魚モンスターを消しさってもらうんだ。彼女の魔法はかなり安定していて、安心して見ていられる。
「見ろ!!マンティスだ!」
ゴールドさんが言う通り、眼下に『グレートマンティス』の巨体が見えた。
「皆さん、契約通りに!」
「「「おう!」」」「ええ!」
僕は彼らと取り決めをしていた。
表層に出ているBOSSモンスターは僕らの取り分、彼らにはいち早くダンジョンを押さえてもらい、事態の終息を図ってもらう。その折に、ダンジョン内で採れた宝箱は彼らの取り分だと。
その分、彼らには現金報酬を多目に振り分ける事で話がついている。
僕らは、BOSSドロップが目当てだ。
ミラの作り出したモンスターの空白地帯を飛行中の慣性で飛ばし、彼らをダンジョンへ送り届け、僕らは『グレートマンティス』の前に降り立つ。
僕らの前には、砂漠の色に同化しようとしたのか、薄茶色したカマキリが立ち塞がっていた。
細い足で身体を持ち上げ、大きな鎌を振り上げて威嚇してくる。
意外と細い胴体、優美なカーブを描く細い触覚と鋭い口元・・・。
あの黒い複眼は、何処まで先を見通しているのだろうか。
「前衛陣!!絶対に奴を飛び立たせるな!」
「「「了解!!」」」
「ミラはMPを温存!何かあればアデレードにぃ・・・、終わっちゃった?」
『まさかの事態なのです!最新のmk.82の投下を生き抜いた猛者が瞬殺なのです!!ソフィア、エミリア、遥、で終わりなのですよ!?根性が足りないのです!』
アメリカの国防省に、BOSSだと言われて気合いを入れてやって来ただけに、僕らとしては空振り感が半端ない・・・。
うちのパーティーに、変な空気が漂う。
『踊るのです!!残念賞のマーチ!』
ミューズの号令に合わせて、3人がヘンテコでコミカルな踊りを披露する。
我が『ダンジョン・フィル・ハーモニー』の持ち味だ。
変な空気になったらとりあえず踊っとけ。
だって、せっかく生で配信出来るんだし・・・、逃す手はないよね。




