394話
もう一度ジェームズJr.さん。
「いや〜、すごいな彼らは!」
「たった2日で5階層のマッピングまで終らせようって言うんだ、普通じゃないよ。」
「それだけじゃないよイライジャ!各パーティーの能力に合わせて探索の範囲も調整してるよ!僕らの探索場所が4階層の入り口付近だってのも、こちらの能力を織り込み済みって訳さ!!」
「この探索について行ける各パーティーも尋常じゃないけど、これだけのパーティーを指揮しているのが最年少の『ダンジョン・フィル・ハーモニー』だ、信じられない。この仕事が終わったら、1度彼の発表を総ざらいしてみたい。」
「彼の人となりを合わせて、その発表と発言の意味を、より正しくとらえる事が出来るだろうからね!!僕も手伝うよ!」
イライジャは本来、フィールドワークよりも研究室で黙々と仕事をこなす方が好きなタイプだ。僕がこの仕事に誘っていなかったら、きっと今も何処かの研究所で働いていた事だろう。
「そうなると、今のうちに聞いておくべき質問をピックアップする必要があるな。」
「そうだね!後になってからでは・・・「何のんきな事言ってんだよ!?」
せっかくこれからの事を考えて話をしてるのに、マルコの奴が大声を上げて遮ってくる。
どうも、彼のこういう所が好きになれないんだよね。
僕らが話を止めて顔を向けてるのに、一向に話そうとしない。
頭が回っていないのだろうか?
「俺らもう、スポンサーの支援が受けられないんだぞ!?」
「そうだね、だから?」
「お前がスポンサーの意向に逆らっていなければ!!こんな事にはならなかったんだよぉ!」
ああ、そういう事。
これまで、自慢気に振り回してた装備が無くなるのが嫌なんだ。いや、怖いのかな?これまで他所のパーティーに散々威張り散らしてたからね。
装備を失ってニューヨークのダンジョンに行ったら、他の人になんて言われるか分かったもんじゃないからね。
調子こいてた分、周りからのあたりがキツイだろうねぇ〜。
まあ、僕らには関係ないけどね。
そのために、お前らの尻拭いや個人的な付き合いもして来たんだから・・・。
「まあ、地元に帰ったら心機一転頑張ってねぇ。」
「ジェームズ!!」
は?
切った?マルコの奴が?
割り込んだイライジャのおかげで、僕は無傷だ。
だけど・・・、イライジャが切られて血を流している。
イライジャの腹からは内臓が見えている、長くは保たない!!
「ジェームズ・・・、逃げろ・・・。」
友人の言葉に身体が反応しそうになるのを、僕は意思の力で抑え込んだ。
今、僕がこの場を離れたら・・・、イライジャは助からない!
考えろ・・・、考えるんだ。
・・・!!
「おや、君達だけでスポンサーと交渉出来るのかい?」
マルコがニタリと嫌らしく嗤う。
いつからだろう?奴が増長し出したのは。
そうか・・・、あの時期の前後にスポンサーから、もしくはマルコから取り引きしたのか。
扱いにくい僕らに首輪を着けるつもりで・・・。
「もうお前は要らねんだよ。」
「今回の件、スポンサーは相当おかんむりって訳だ。それとも君の判断かな?」
「へへ、俺のって言いたい所だけどなぁ、スポンサー様のご意向ってやつさ。」
イライジャが、残念そうな眼でこっちを見てる。
まだ息はある!!諦めるなぁ!
奴らの意識をこっちに向けたい、もう少し話を引っ張って・・・。
イライジャが心配だけど、意識して視線をそちらには向けないように努力する。
連中の意識をイライジャに向けさせてはいけない、それが最も彼の生存率を下げる。
「そういえば、僕の装備についてスポンサーは何か言っていたかい?」
「へへへ、あのジジイは回収して来いってさ。お前を殺してから、ゆっくり回収してやるよ!」
やっぱりそうか。
契約の確認もせずに命令だけされて来たと。
「契約内容は、各自の借りてる装備は個人の責任になってるはずなんだけど、知ってるかな?」
「あぁん?」
「要するに、他の人の装備が無くなったとしても、パーティーとしては責任を取らなく良いんだ。回収には別途報酬を請求した方がいい。それとも、出資者の意向にタダ働きかな?見事な忠犬ぶりだねぇ。」
僕はソッと装備を外しながら話を続ける。
「それとも、報酬は僕の装備よりも高額なんだろうか?」
他の2人がマルコに詰め寄ってる。
おいおい、お2人さん。マルコなんかにまともな交渉が出来ると思ってるのかい?
これまでずっと僕がやってきたんだよ?
「どうせなら奪っておいた方が儲かるのに、わざわざタダで返してやろうなんて、お人好しだねぇ君ら。」
僕は、外した腕輪をわざと彼らに見せつけて、ポイっと近くの水中に放り込む。
5階層は、ここみたいに足場が無くて水面が見えてる所がそこら中にある。
「まっ、回収は大変だろうけど頑張ってね!」
「あああー!クッソぉー!!」
「どうすんだよマルコ!」
「知るかよ!!テメエで考えろよ!」
「余計な手間かけさせやがってぇ!!」
彼らの醜態を呆れるふりをしてイライジャを確認する。
まだ息はしてる!でも、そろそろ限界だ・・・。
頼む!間に合ってくれ!!
「うるぅあぁぁぁーー!!」
来た!!
水の中から飛び出したゴールドが、マルコを殴り飛ばした。
イライジャが切られてからずっと伸ばしていた僕の『ウィスパー』が、集合場所に集まった他のパーティーに届いたんだ!彼らはそれに応えてくれた!!
次々に到着した彼らに、マルコ達が制圧されていく。
なんとも呆気ないものだ。装備は僕らも良い物を使っているはずなのに、3人が制圧されるまで20秒とかからなかった。
僕は直ぐさまイライジャに駆け寄る。
「イライジャ!!」
「ああ、ジェームズ・・・、もう平気だ。」
さっきまで重傷を負っていたイライジャが、立ち上がって礼を言ってる。
ちょっと青白い顔を赤くして興奮してる。器用なものだ。
「藤川くん、何とお礼言ったら良いのか・・・。必ずお礼はするので少しだけ待ってほしい!!頼む!」
『ジェームズが、イライジャの命に幾らつけるか見ものなのですよ。』
「こら。」
『きゃー!!言ってみたかったのです!言ってみたかったのです!』
藤川くんがクリクリと水精をいじって戯れてる。
僕は、イライジャの命に値段はつけられないよ・・・。
恥ずかしいから言わないけどね!
「まあ、こちらが誘った手前、今回の仕事中に限り安くしておきますよ。面倒な人達に目をつけられたくないので、他言無用に願います。」
「「分かった。」約束するよ!」
「こいつらどうする?殺っちゃう?」
制圧された3人が、他のメンバーに取り囲まれて震えてる。
武器も取り上げられて、ボロボロだ。
「それでも良いんですけど、せっかく生かして捕らえたんだからオランダ軍にでも引き渡しましょう。」
「どうせ獄中で殺されて終わりだろ?ここで始末した方が、後腐れなくて良くないか?」
うん、スポンサーが裏で手を回せばそうなる事は間違いないと思う。
アメリカの獄中なんてそんなもんだ。ダンジョンが出来る前からそうだった、だから、きっとこれからもそうだろう。早ければ裁判の前に消えるかもしれない。
オランダから生きて出られれば、良い方だと思うね。
「彼らの証言が発信されれば、それが相手にとって一番面倒な事だと思うので。」
噂の火消しに、後始末の手配、奴の資産価値を少しくらいは減らしてやれるかな?
あくまで彼らの発信であれば、僕らに火の粉が降りかかる事も少ないだろう。後はオランダ次第って感じか。
後日、我らがスポンサー様が世界各地のニュースで叩かれてた。
思ったよりも探索者を擁護する勢力が強くて安心した。
スポンサー様は、フランスの大臣と共謀した主犯に仕立て上げられて、こうしてフランスの失態も押し付けられてるみたいだ、国同士で何か取り引きでもあったのかもしれない。
それとも、他のお金持ちの意向が勝ったのかな?
経済界は未だ魑魅魍魎が満載だ、怖い怖い。
フランスも仲良く責任逃れ。
ちょっと苦しかったかな?




