388話
水に飛び込んだゴールドさんが、モンスターに追われて必死に泳いで逃げて来る。
だけど水中で水棲モンスターの泳ぎに勝てる訳もなく、次々に集られてるゴールドさんを救出すべく、僕は【バインド】を使用した。
「ゴールドさんを捕らえています!引っ張るのを手伝ってください!」
これをスキルの可能性だとは言いたくないけど、【バインド】ですら使い方次第だ。
水と魚型モンスターの抵抗が激しい中、皆さんが高Lv探索者のスペックを遺憾なく発揮し、ゴールドさんを引き上げた。
『大漁なのです!!』
うん、ゴールドさんに食いついた魚型モンスターが沢山釣り上げられた。
サビキ釣りもびっくりな大漁ぶりで、まるで彼が魚を着ているかの様だ。
「アデレード鑑定アイテムを!マッハ軍曹鑑定を!情報をしっかりと持ち帰ってください。」
「はい!」
早くも魚モンスターを倒し始めた皆さんに待ったをかけて、鑑定情報を提供する。
その名も『魔鯛』。
・・・やはりこのダンジョンさんはお茶目だ。
見た目も、良型サイズの真鯛そっくりだし、ゴールドさんをピンクのドレスに包んだ感性はさておいて、ビチビチと跳ねて鮮度抜群の『魔鯛』は正直美味しそう。
それでも、ナイフで捌いてみたらダメだった。
腹を開いた時点で霧に返ってしまう。
残ったのは、メガネのレンズみたいな鱗だけだった。
『魚鱗』
沢山集めて夢の防具を作ろう♪
メチャメチャ怪しい煽り文句がついていた・・・。
この透明感のある鱗といい、アイテム紹介の音符といい、怪しさ満点だ。僕の危機管理能力が警鐘を鳴らしてやまない・・・、これはどう見てもミューズ案件だ。
「よし、集めてみよう。さあゴールド続きだ行って来てくれ、豊漁を願ってるよ。」
「コビー!!?見ろよこの歯型!結構痛いんだぜ!?」
ゴールドさんの身体には、全身にキスマークならぬ魚の歯型がついていた。
『魔鯛』も、本家の『真鯛』に劣らぬ鋭い歯をお持ちのようだ。
「チッ、怖気づいたか。」
「怖気づいてねえっての!!てか、今舌打ちしただろ!?」
「気のせいだよゴールド。」
意外とコビーさんは容赦のない人だ。
なんだかんだと言いながら、ゴールドさんを再び水中に放り込んだ。
「あの、コビーさん。」
「ん?我々はしばらく魚釣りに興じようと思う、安心してくれ、もちろん情報は共有させてもらうよ。」
「いえ、宝箱がまだなんですが・・・。」
「「「あっ。」」」
僕らは宝箱の上あたりに移動して穴を開け直し、三たびゴールドさんを投入した。
まあ、そもそも本人がやる気満々だから、僕も罪悪感を抱かずに済んでいる。
「行ったな。」
「そうですね。それにしてもゴールドさん元気ですね。」
「あれが奴の持ち味だからな。」
「コビーさんは錬金のあてはあるんですか?」
「オランダ軍に任せるさ。技術が足りなくても、金でも積んで日本からアドバイスなりなんなり引き出して、なんとかするだろう。国益やメンツ、技術に可能性、色々なものがかかってるからな。」
コビーさんの言葉に僕は納得した。
2つ目以降は有料化するなりするだろうけど、1つ目は研究の価値があるからオランダの資金が期待出来る。
コビーさんはなかなか強かだね。
「お、開けるみたいだぞ?」
「え?たどり着いたところですよ?」
「心配するな、奴の辞書に慎重なんて言葉は存在しない。」
ええ!?超心配!!
ゴールドさん大丈夫!?
「むしろ辞書がないな。」
「まったくだな。」
ゴールドさんのパーティーに些かの不安を感じながら、僕はゴールドさんを見守った。
彼はナイフを宝箱の側面から突き刺し、一息にこじ開けた。
宝箱を開けた瞬間、中からピンクのもやが溢れ出し、一時その場は騒然となった。
『ハズレ♡』
・・・ダンジョンさん、それを表示するためだけに宝箱からピンクのもやを出したんですか?
水に浮かぶもや、無駄に手が込んでいる。
宝箱が消えない仕様であれば、オランダの関与を疑うところだ。
新たなトラップの発見に、警戒感を強めなければいけない場面なのに、僕はとてもそんな気分にはなれなかった。
僕の周りでは、唖然とする人と笑い転げる人の二極化が進んでいた。
悄然と肩を落として帰還したゴールドさんに、僕はかける言葉もない。
「お疲れ様です、ご無事でなによりです。」
「あ、ああ・・・。」
やっと絞り出したのは、この労いの言葉だけだった。
『ゴールドは良くやったのです!残念な気持ちは察するのです、だけど胸を張って良いのです!ポジティブに考えるのです!世界初の笑いをゴールドは手にしたのです!!2人目や2番煎じではないのですよ!?世界初なのです!!明日から世界中のお茶の間を席巻すること間違いなしなのです!』
「・・・そ、そうかなぁ?」
さっきまで膝を抱えて、僕の労いにも生返事を返してたゴールドさんが、顔を上げてミューズを見ている。
『明日からゴールドは世界の人気者なのです!!』
「そ、そうか!」
ええ〜、それで良いんですか!?
落ち着いてください!あなたはお笑い芸人じゃないんですよ!?そんな言葉が僕の頭を掠めて消えた。
「そうと分かれば、もう一丁行って来るか!!」
『その意気なのです!』
再び水中にダイブしたゴールドさんを見送り、僕はミューズの功績を褒め称えておいた。
ワシャワシャと撫でられて喜ぶミューズが可愛いかった。




