378話
腹黒さんことジェームズJr.は、ポカンと大口を開けて仲間が飛んで行くのを見送った。
それを見てローザさんも溜飲が下がったようで、満足気な笑みを浮かべている。僕はマッテオさんに目礼だけしておいて、場を収めにかかる。
「さてお騒がせしました、余興はこれにて終了です。皆さんあちらの方を案じていらっしゃる事かと思いますが、大丈夫!ちょっと小突いただけです!武装した探索者に、あの程度でダメージがある訳がありません。皆さんならご存知でしょう?」
ゴールドさんをはじめ、ご挨拶させていただいた方たちには同意していただけた様だ。
皆さん、それぞれの笑顔で応えてくれた。
「まだご挨拶も出来ていない方がいるので、僕もウズウズしてるんですよ。」
笑いや拍手、指笛が鳴り響き、手応えを感じた僕は、芝居がかった仕草で一礼をしてみせた。
ミューズが、落っこちないようにワタワタとしがみつき、笑いを誘う。
さすがミューズ、笑いを取る事に余念がない。
いつもなら楽しそうに落っこちるところだ。
そこに、待ち構えていたかの様に入って来る主催者。
正直感じが悪い。
サッと残りのパーティーに挨拶だけ済ませて、僕らは席に戻った。
フランス側の紹介で入って来たのは、大臣だと分かった。
フランスではすでに、ダンジョン省とかダンジョン大臣なんてものがあるんだそうな。
日本では、毎年発生していたダンジョンの対応に追われ、テロに邪魔されて、未だに防衛省の管轄下にあり、日々激務に追われている。
各省庁の不正を暴き、大量に務所送りにして人材が不足している事も拍車をかけ、今の日本では望むべくもない政策だ・・・。
謎の自慢話に長話を見事にスルーして、他のパーティーに目を向けると退屈そうにしている姿が目につく。
なんか、僕以上に皆さん探索者らしかった。
頬杖ついて退屈そうに眼だけ向けてる人たち、欠伸や伸びをしてる人たちまでいる。ローザさんなんか、お化粧直しに余念がない。
うちのエミリアと同じく、完全に寝てる人までいるね!
思った通り、アウトローな人たちばかりでホッとするよ。
そんな中、ジェームズJr.をはじめ『アポカリプス』のメンバーは、全員がちゃんと聞いていた。
これを見て、やはりさっきのは何かを意図したデモンストレーションだったのだと確信が持てた。
ダラけてる人たちが沢山いる中で、全員が背筋を伸ばして聞いてるのは、格好と相まって違和感があり過ぎだ。
せめてフランスチームみたいに、全員がスーツでも着ていれば違和感が隠せるのにね。
それともチャラチャラした服装をしてるだけで、権力者とかが好きなタイプなんだろうか?
大臣の話が退屈過ぎて、余計な思考が捗ってしょうがない。
プロフィールでは、彼ら全員が大学出なはずだ。
僕は聞いた事もないけど、ミラがそこそこ良い大学だと言っていたから、すっごく勉強は出来るんだろう。ミラやソフィアが行こうとしてた、世界でも屈指の大学と比べる方が間違っている。
それでも、ミラやソフィアが知っているという事は・・・そういう事なんだ。
デモンストレーション・・・、勢力技能性能をことさら示す事。
勢力?
会場をチラリと見回し、可能性があるのはあの大臣くらいだと思う。
僕らの例もあるし否定はしずらいけどアメリカの探索者とフランスの大臣、それこそ接点は今回の仕事くらいだろう。
だからこの可能性は保留した。
技能かな?
・・・何かあったっけ?酷い動きと回避術・・・?錬金したアイテムでも使ってるのかな?
服の下に着けてたら宣伝にならないよね?
でもやっぱり性能かな?
性能の良いアイテムを使ってる事だけは分かったからね!
資金力、スポンサー、・・・あっ!勧誘!?
あのパーティーに?じゃないよね・・・。
「・・・!・・・!?そこで私は考えました!!」
このおじさんまだ喋ってたのか。
「オールオアナッシング!!6階層に一番乗りしたパーティーの総取りにします!」
・・・ろくな事考えないね・・・。




