371話
飛行場のロビーで僕らは待機しながら、世界各地から集まって来る情報に耳を傾けていた。
地球の自転によって順に各国の年が明けて行くなか、先ほどまで沈黙していたスピーカーが情報を吐き出し始めた。
『ご主人様・・・、驚くほどの的中率なのですよ?』
「ここまで5つ、みんな当たりだね・・・。たまたまだよ?たまたまだからね!?」
仲間たちの視線が気になり、なぜか僕は言い訳をする必要を感じて慌てて弁解した。おかげで語彙力が壊滅的だ・・・。
装備のおかげで暑くも寒くもないのに、じっとりと嫌な汗が浮かんでくる。
『賭けておけば、大儲けだったのです!』
「ミューズ賭け事なんかやっちゃあ駄目だよ!」
『ご主人様考えてもみるのです!ミューズなら、どんな法律にも引っ掛からないのです!!』
「え?」
『年齢制限も国籍もミューズには関係ないのですよ!』
日本の法改正も、まさかミューズにまでは適応されない。
なにしろ、モンスターは基本的にペットに準ずる法律が適応されている。モンスターが他人に怪我をさせたら、飼い主の責任ですよって感じだ。
でも、だからこそ、売買や賭け事なんかをやる事なんかは想定されていないんだ。
「いや、ミューズでも国の法律には引っかかるぞ。例えば、日本国内で賭け事をやれば違法賭博になる。これには、国籍も関係がなかったはずだ。」
『でもミラ、法律はだいたい人間が対象になってるのですよ?道路交通法も処罰には車両と軽車両が対象となってるのです!だから、歩道を120キロで走るご主人様には適応されなかったのですよ!!それならきっと、ミューズは対象外なのです!』
「何をやってるんだお前は?」
ミューズとかき氷を食べに行った帰りに、アデレードからお総菜を届けてくれるって連絡があって、お待たせしないために走ったら、警察に呼び止められて注意されたんだ・・・。60キロオーバーだって言われたよ。
ミラの呆れ顔が、心に痛いです・・・。
「もう、何ヶ月も前の話だよ・・・。」
イタリアがすごいのか、ヴァチカン市国に軍を駐屯させていたのか分からないけど。
現地時間で、00:03にはダンジョンの発生確認が響いていた。
「・・・幸太・・・?」
「え?何?」
僕にとっては、極めて可能性の高い2つの地域のうちの1つだ、なんら驚くに値しない。
だけど、ミラの表情からは驚きが溢れている。
僕は以前遥に言った。
人が人を理解するなんて不可能だよ、出来るのは理解しようと努力する事と、理解不能だと遠ざける事のどちらかだと。
僕に、ミラを理解不能だと遠ざける選択肢はない。
ならば、理解しようと努力するだけだ。
何だろう?
イタリアの人口と人口密集地の分布とダンジョンの場所を重ね合わせれば、空白地帯であるヴァチカンに発生するのは、低くない可能性である事は分かるはずだ。まして、人の思いと思考がダンジョンの発生場所に影響を及ぼす可能性があるのは、さっき説明したばかりだ。
むしろ、いままで出来ていないのが不思議なほどだ。
アメリカでも、近年開発が盛んに行われてるニューヨークのブルックリンに、ダンジョンが出来たじゃないか!
人の思惑と思考に、ダンジョンの場所が左右される事は、もはや疑いようもない!
「ミューズ、ミューズ。」
『どうしたのですエミリア?』
「これが馬鹿な事を考えてる時のコウタなのか?」
エミリア・・・酷くない?
今の僕は、かなり真面目な事を考えてると思うんだ。
『エミリアも分かって来たのです!でも惜しいのですよ、これは明後日な方向に思考が進んでる時の顔なのです!!』
僕は思わず自分の表情を確認した。
もちろんそこには、普通に悩んでる顔があった。
「見えてる景色が違うのでしょう、仕方のない事ですね。」
『おお!ソフィアが良い事言ったのです!ご主人様は普段から明後日な方向に思考が向いてるのです、だから、普通に考えたら明後日な方向にしか行かないのですよ!!』
パーティーのみんなが、ミューズの言葉に納得してる。
僕、よくこのパーティーでやって行けてるよね。
とりあえずミューズを頭から降ろして、ワシャワシャと撫でておく。
『ミラはこんな狭い国よく当てたなぁ〜、てきっと思ってるのですよ。でもご主人様にとっては驚く事じゃないのです!』
「まあ、ヴァチカンとアメリカは、極めて高い確率でダンジョンが出現すると思ってるよ。」
「ニューヨークにはすでにあるんだぞ?西海岸か?それだとロサンゼルス辺りが怪しいな。」
「そうそう。」
すぐに僕の考えに思い当たったみたいだ、さすがミラ!
この2つが外れるようなら、そもそも僕の読みは的はずれなはずだ。ここまでの的中率を出している以上、そんなにおかしくはないはずなんだ。
「おっ!ハズレたな!」
「いやエミリア、外れたと言っても隣だぞ?この精度は驚異だ。」
僕の香港予想が外れ、お隣の中国で発見された様だ。
未だに独立は成っていないけど、地域としては以前から別もの扱いもよくあったから、今でもその名残が所々に見受けられる。
「香港が求めてる国境からおよそ2km・・・、また対立が激化しそうな場所に発生したわね・・・。」
「映像が届きました!!」
この報告に、みんなにピリッと緊張が走る。
軍人さんが、わざわざ僕らにタブレットを持って来てくれた。
「我が国にダンジョンが発生したのか?」
「あ、いえ!申し訳ありません!!ヴァチカンの映像です!」
立ち上がり、移動の準備を始めた僕らは、それを聞いて座りなおした。
焦っていたんだろうけど、しっかりとやってほしい・・・。精神的に疲れるからね。
ミラやアデレードが明らかに脱力してるし、ソフィアですら恨みがましい視線を抑え切れていない。
代表して僕が受け取り、ミューズを膝に乗せてタブレットと起動させる。
「天使だ・・・。」
映し出されたのは、イタリア軍と戦う有翼人種の姿だった。
日付け変更線の位置すらいい加減に記憶していたのだと、思い知らされました・・・。経度180、覚えておきます。
世界地図を見ながら、発見の順番を間違えないように書こうと思ったんですが・・・、発現から発見までの時間もまちまちだと思い当たりました。




