370話 それぞれの年末、細井 輝政
強面の自衛官こと、細井 輝政さん場合。
『各員配置に着きました!』
各都道府県の大動脈たる道と高速道路を全て規制して、年始のこの時間を迎えた。
全国で馬鹿な跳ねっ返りが100人死のうとも、千人、1万人の命には代えられない。1分1秒でも早く現場にたどり着くのが至上命題だ。
厳密に、前日の午後10時以降に緊急車両以外が動いていれば、法令に基づきこれを排除する。例外はない。
とはいえ歩きは対象外だ。なので、何か理由があって外出しないといけない人は、最悪歩いて移動するか電車を使っての移動になる。
残念ながら、今年も馬鹿な暴走族がアサルトのフルオートにさらされ、裁判を経る事なくあの世に引っ越しを余儀なくされたり、お年を召した酔っ払いに強制的なお迎えが派遣された。
酒気帯び運転は以前から違法だってのに、未だになくならない。
だけど、残念ながら、もはやこの程度では俺たちは動じない。
日々ダンジョンで命のやり取りをしてるんだ、命令1つで酔っ払いをあの世に送る事なんかに、何の迷いも感じない。
昔は、こういった奴らに警察が無駄な時間を取られていたけど、今は全て排除対象だ。税金の無駄使いだからだ。
辺りの損壊、費用、人件費など、全て排除対象者の遺産から支払れる。そう法律が定められたのだから、そのように動くのは当然だ。
施行された年には、国会議員、地方議員ともに多くが法律を守らず、何名も排除された。自分たちで作った法律くらい守れよ・・・。
さすがに今年は学んだのか、酔っ払いも跳ねっ返りも僅かだ。
それにしたって、この時期は緊張する。
最悪、ダンジョンが隣に発生する事だってありえるのだから。
「落ち着きなよ細井君。」
「草加か。そうは言ってもな、性分なんでこればっかりはな。」
「君はこの世で一番安全かもしれないよ?何しろ、僕らを各地に運ぶのが仕事なんだからさ。」
「むしろその方が緊張するわ!!なんでお前らはそんなに落ち着いてるんだよ!」
俺は思い思いに寛ぐブシドーの連中を見渡した。そう、ここが俺の持ち場だ。
学校や幾つかの公的施設は避難所の役割を果たしている、なのでそこから外れ、なおかつ主要な道路に近い施設で俺たち自衛官は待機だ。
俺は、運良く豊田のギルドが割り当てられた。
まあ、これは運が悪いって意見も実はある。何しろこいつらときたら纏りがない、椅子に座って突っ伏してる奴や、刀の手入れに勤しんでる奴、こいつらはまだ良い方だ!
ひたすら形稽古に勤しんでる奴や、床に大の字になって寝てる奴までいる!
集中力の高め方は人それぞれだろうけど、ここまでバラバラな動きをしなくても良くないか!?
「あーあーあー、テストーテストー。」
都築の奴はインカムの音量が気になるらしくて、先ほどから細かく調整している。
まあ、付けてるだけこいつはマシな方だ・・・。
インペリアル・ブシドーの連中の多くは、雑音が邪魔になるとか言って付けやしない!お前らも現代人だろ!?情報伝達の速さの重要性くらい分かってるだろ!?
それなのに、この戦闘狂共ときたら・・・!
そのせいで、俺みたいな真面目な自衛官が苦労する羽目になるんだよ!
こいつらは、ダンジョンさえ現れなければ、最も公務員に向かない社会不適合者の集まりだからな。
幸太の奴も、こいつらみたいになっちまうのかと思うと、俺は心配でならない。
ピピッ。
日付けの変わり目を知らせる電子音が鳴った。
さっきまで寛ぎ過ぎだった連中は、一斉に背筋を伸ばして座り沈黙する。
・・・だから怖いってお前ら・・・。
さっきまで、ちゃらんぽらんだった奴らが、急に武芸者に豹変だ。
ピリッとした雰囲気の中、各地の報告だけが響き渡っている。連中、衣擦れの音1つさせない。
今や、ドローンや、監視カメラ、衛星まで使って、全国に監視網を作り上げている。その為、人の目で探す地域はごく限られた場所だけだ。
調査開始の合図からしばらくして、各地の村や町、市の単位で情報が届き出す。他所の都道府県の進捗も聞こえてくる。
まずは避難所から、そして市街地や住宅地に広がって行き、農地や山林に調査場所を変えて行く。
機械トラブルか報告のし忘れで、連絡の取れない避難所には大急ぎで自衛官が派遣される。結局今回の原因は、避難所とその周辺にはダンジョンが発生しなかった事による、安堵からの報告忘れだった。
残念ながら、こればっかりはなかなか減らない。
この街を例にあげると、アクシデントはあったものの34分で避難所の確認と、市街地や住宅地までの確認が終わり、すぐさま農地や山林に人を派遣しドローンなどを使って調査が開始され、2時間と15分後にはほとんどの場所に人の目が入った。
自衛隊と地元の有志は、所定のルートを通って目視による再度の安全確認に移り、最後は山など調査の難しい所だけが残される。
場所によって所要時間は違うものの、豊田市では16時間4分後には安全確認が完了した。
各市では、24時間以内を目標に定めているので、今回は結構なタイムだった。
多くの地域では一部自衛官を残して、休憩後には人手の足らない地域に派遣される事となる。
「長時間の待機お疲れ様!」
「あ〜、今回も空振りか〜。私の待機場所っていっつもハズレ。」
都築の奴が何やら不謹慎な愚痴を零してるけど、もちろん俺はスルーだ。
「細井君、休憩が終わったらまた移動だったっけ?」
「今回は移動はなしだ、草加ぁ説明はちゃんと聞いとけっての!テロ事件を受けて、ギルド防衛戦力の確保が課題になってるからな。俺たちの移動はなしだ!!」
日本各地から届く、ダンジョン発見出来ずの報告を聞きながら、今年こそは平和に年を越えたいと思わずにはいられなかった・・・。




