369話 年越し2
引き続き、安田くん視点でお送りいたします。
ノルマ、1人2杯はちょっとやり過ぎだったと反省している。
いやだって、なかなか食べる機会のないカニだしさ、つい買い過ぎちゃったんだよ。
それに、これに関しては僕も言い訳したい。販売側にも問題があると思うんだ、キロ表記されたってこっちはカニ素人なんだ、こんなに送られて来るとは思ってもみなかったんだよ・・・。
「すっげー!カニと刺身で腹が膨れた!!」
「これだけ食えたら、命を賭ける価値があるな〜。」
弟と兄ちゃんがとっても満足気にしてる、もう入らないと言わんばかりだ。
これだけ喜んでくれれば、こっちも注文した価値があるってもんだ。
「兄ちゃんって、そんなにカニ好きだったっけ?」
「何言ってんだよ、初めてのバイト代でみんなで食べただろ?」
「ああー!!懐かしいね〜。」
そうか、それでか。
兄ちゃんが以前食わせてくれたんだ。だから僕も、稼げたらみんなで食べようと思ってたんだ・・・。
しばらく、緑茶を片手にゆったりと余韻に浸っていた。
「生物はこれで終わりかな?」
「ええ、お肉類は火を通して冷凍庫に入れておいたわ。」
「各自自分の部屋の雨戸を閉めなさい、母さんは公民館に持って行く物を確認してくれ。冬馬はガスや電気と戸締りのチェックを頼む、俊明もいい年だ、自分の事は自分でやれるね?」
「うん!」
「智則、頼りにしてるよ。」
「任せて。」
今年もこの時間がやって来た。
家の最終確認を兄ちゃんに任せるのは、将来の事を考えての父さんの配慮だ。
「だけどね、無理は良くない。もしもの時はお前だけでも逃げなさい。いいね?」
「父さん・・・。」
やれる事はやって来たつもりだ。
ダンジョン発生時のモンスターごときって、そう言いたい。
だけどイギリスの『ケットシー』の例もある、1階層から即死の可能性があるあれが出るのは、腐ってると思う。
嘘は言いたくない・・・。
「・・・敵わない様なら逃げるよ・・・。」
「それで良い。」
この時の父さんの顔は、一生忘れないだろう・・・。
僕は、自分の両手を見つめていた。
その手は、他の人に差し伸べるにはあまりにも小さかった。
隣りのおばさんには家族を守ると言ったけど、僕のこの両手で守り切れるのは、兄と弟の2人くらいだ・・・。
もしもの時は・・・、2人を抱えて逃げる!!
僕には、幸太の様にともに行こうと手を差し伸べる事は出来ない・・・。
幸太・・・、親になるってどんな感じなんだ?
僕にはまだ、お前が遠いよ・・・。
公民館に向かった僕を待ち受けていたのは、子どもたちによる質問攻めだった・・・。
テンション高く質問攻めをしてくる子どもたちに、当たり障りのない答えを返して行く。
正直返答に困った質問も多かったけど、ご近所に住んでるだけに無下には出来ないし、何よりも僕も彼に色々と質問を投げかけた覚えがあるだけに、この子たちの気持ちが分かってしまう。
本当に、大変な事をやってたんだね。
身近に感じていた彼の活躍を喜ぶとともに、隔絶した凄まじさを感じずにはいられなかった。
子どもたちはきっと、僕の向こうに幸太を見ている・・・。
賑やかで、かつ緊張に彩られた年末はこうして過ぎて行った。
ただ1つ、最後のダンジョンが見つからないという問題を残して・・・。




