39話
みんな『宝箱』に気づいてくれたようだ。
頬を染めながら、非難の視線を向けてくるソフィアさんも、美しかったけど。
非難される張本人になる勇気は僕にはない。もはや、それは蛮勇だろう。
僕は変人になる覚悟はあっても、変態には断じてならない。
連中は他人の迷惑を考えない奴らだからだ!
変人は楽しそうだけど、他人に迷惑をかけず、法律のグレーゾーン辺りで立ち止まれる奴ら。
変態は周りの迷惑も顧みず、バレなければ犯罪行為すら許容する連中の事だ!
僕の中の辞書では、そうなっているんだ。
オタクは変人、政治家は変態。
僕の偏見だけどね。
おっと、3人ともワイワイと盛り上がってるな。
僕も動揺が収まってきたし、参戦しよう。
「ソフィアのでかい尻の所為で壊れてないか?」
「あり得るかもしれんな。」
「2人ともひどいです!」
・・・もうちょっと、参戦は見送ろう。
「コウタはどう思う?」
そこで、僕にふるなよエミリア!!
「あー、ソフィアさんは、軽そうだから・・・、大丈夫じゃないかな?」
「そうですよ!私はそんなに重くないですよーだ!」
「そうか・・・、ソフィアは尻軽女だったのか、それでも、私たちはお前を見捨てないからな!なあ、エミリア?」
「もちろんだ!でも、あたしにも良い男を残しておいてくれると嬉しい。」
「もぉ!2人も、もぉ〜!」
ソフィアが両手を振り回して怒っているのかな?
いや、3人でじゃれてるだけかな?
でも、ほどほどにね。
最後には2人して、ソフィアに謝って仲直り。
予定調和だろう。
仲良い事は美しきかな、だったかな?
「すまない、待たせたな。」
「いえ、さっきのを写メに撮って投稿したら、きっとバズるかなっとか、惜しい事をしました。」
おっと、失言。
ミラがまたジト目になってしまった。
「『宝箱に座る美女』とか、ウケると思いませんか?」
「ああ!それはイケるな!」
「今からでも遅くないな!ソフィアちょっとこう、視線上向きでいこう。」
「いきません!もう!コータさんも悪ノリしないで下さい。」
「ごめんごめん。」
ダメか、ちょっと本気で欲しかった。
「木箱の『宝箱』だな、1番遭遇率が高いとも言われてるな。装備の出る可能性は低く、その性能も並だそうだ、それでも数万円はくだらない。階層によって中身が良くなるとも言われてるから、2階層の分、期待値も上がるってわけだ。」
「「「おお〜!」」」
ミラも饒舌になってるから、テンションが上がっているのだろう。
ここぞとばかりに、説明してくれる。
「まあ、幸太は知ってるだろうけどな。」
「いや、そんな事はないよ、大まかにしか覚えてないから、詳しく説明してくれると助かります。ちなみに、1番のお宝とか分かったりする?」
僕は、ミラの情報網をあてにして聞いてみる。
「とうぜん!1番のお宝はポーションだと言われている。」
「え?ポーションってあのポーション?」
「どうしたコウタ、常識だぞ?」
「嘘ぉ!?あれって冗談じゃないの?マジなの!?」
「マジだ。」
この話はよくネットにも転がっていた、だけど、ただの冗談だと思っていた。
ちなみに、ギルドにも売っていない。
どうも、僕はゲームの常識が抜け切れていないようだ。
ゲームに慣れ親しんだ事の弊害だな。
「ふむ、『宝箱』は逃げない、少しみんなにポーションについて話しておこうか。いわゆるポーションは、身体の欠損こそ治せないものの、ほとんどの怪我を瞬時に治せる力を持っている。しかも、ほんの数滴たらしただけで、手術跡も綺麗サッパリだ。
事故現場に持って行って、怪我人に一振りで、そいつは助かるんだからな。こんな夢のアイテム各国や金持ち共が放っておく訳がない。」
うわぁ、こうやって聞くと。
武器や防具じゃなくて、ポーション類の方が高い気がしてきた。
何しろ、需要があるんだ。
武器や防具は、軍人さんや探索者だけが持っていればいいけど。ポーションなんかは、手に入るなら誰もが欲しがるアイテムだ。
その為、値段が上がり、高額アイテムと化すのだろう。
「今やポーションは日本の戦略物資だからな、ギルドにも買取値段を聞いてみるといい、きっと驚くぞ。幸太、不正規ルートでの売買には十分気をつけろよ、あら稼ぎしようとする探索者を狙ってる奴は多いからな。」
「さあ、開けようじゃないか。」
おっと、僕の出番かな?
ついに僕も漢を見せる時が来たか・・・。
これぞ伝説(笑)の漢解除・・・
「やれるかエミリア?」
「やってみせるさ、この日のために、オヤジの退屈な実習に付き合ったんだからな!」
え?
実習?何それ?
「ああ、幸太は知らないか。エミリアの父親は軍人なんだ、キックボクシングのトレーナーから軍人に転職した、異色の経歴の持ち主さ。ダンジョンによる法改正で、この転職が可能になったんだ。」
軍人って、入隊に年齢制限があったりするからね。
そこまでして、人員を募りたかったのか。
色々と変化してるんだな、僕も変わらないと。
「・・・えーと、5ミリ以上は開けるな・・・、OK、・・・ライトを当ててっと、中の・・・構造を・・・、んー、ん!こっちはないな。」
エミリアが、楔になる物を蓋の間に入れ、宝箱の微かな隙間を目視で確認している。
あんなので、見えるのか・・・?
「鍵穴はっと・・・、射出系は・・・あった!射出させるぞー、宝箱の前から離れろー、2、1、ほい!」
見覚え・・・はないけど、聞き覚えのある発射音が聞こえ、何かが射出されるのが、今回は見えた。
おそらく棒状の何か。
まさか、エミリアが罠解除を習得してるなんて・・・。
すごいよ、エミリア。
「後は・・・、開けると作動する噴射系だな、いや、上下を繋ぐ物は見えなかったから・・・、多分これで完了だ!それで、誰が開ける?」
「ふむ、幸太、どう思う?」
え?僕?
お尻で発見したソフィアさん?
いや、そこでやりきった顔をしてる、エミリアがいるじゃないか。何を言ってるんだ僕は。
「エミリアが頑張ったから、今回はエミリアでいいんじゃない?次回はまた、誰か違う人が開ければいいよ。」
「よし!エミリア、幸太のお許しが出たぞ、開けてしまえ!」
「エミリア頑張って!」
「よっしゃー!いくぞ!!」
ソフィアの謎の応援を受けて、エミリアは気合十分に宝箱を開けた。
僕も心の中で、エールを送っておいた。がんばれエミリア!




