354話
「世界は・・・、民衆は強い指導者を望んでいる。」
そんな事、僕に言われても困るんだけどね。
「各国の野心家や、有象無象が動き出す前に、先手を打っておきたい。」
「具体的に、もうプランが出来てる訳ですね?」
「まあね!それが私の仕事さ!!」
僕は思わずホッとした。
大使に任せておけば大丈夫だろう。
サポートしてもらえるっていうのは、本当にありがたい事だね。
これが貪欲な人だったり、野心的な人だったりすると、僕らは使い潰されそうだけど、大使ならその点も安心だ。
「まずは、現政権と仲良くやれている所を見せておきたいんだ。それで、各国の首相との会談があるから、そのつもりでいてくれ。まずは明日、イギリスの首相との会談から始めよう。」
任せたのは、失敗だったかもしれない・・・。
なんで一介の学生が、各国首相と会談せねばならないのか、僕にはさっぱり分からない・・・。
「ドイツへ渡ったらパーティーへ出席して、そこで首相と面会する予定だ。日本へ戻ったら総理官邸へ訪問して、探索者の立場から意見を聞くイベントに出席だ。どちらも対外的なアピールが目的だ、必要な情報は実務者に送っておくので、君は気楽に好きな事を話してもらって構わない。ああ、現政権への批判は止してくれよ、逆におかしな連中を集めかねないからね。」
ようするに、そういった場で僕らが困らないように、大使がフォローをしに来てくれたって訳ですね?
感謝すればいいのか、回避出来なかったのかと、恨みごとを言えばいいのか迷うところだ。
「みんなで行けるのですか?」
「ああ、ミュラーも了承したよ、財閥にとっても意味のある事だと判断したらしい。一族の者と、各国の現政権のトップの顔を繋いでおくのは、悪い事じゃないって判断だね。」
「おや、まだ私の名前が一族に残っていましたか。とっくに縁を切られたかと思っていました。」
「いくらミュラー財閥だって、未成年をいきなり追い出したりはしないさ。よっぽどの素行不良でもあれば別だけどね。ドイツのパーティーでは、その財閥の当主自ら出席の予定だと聞いている。ソフィアくんもそのつもりでいてくれ。」
「分かりました。お爺様とお会いするのは久々ですね、少し緊張します。」
せっかくなので、簡単にソフィアのお家事情も聞いておいた。
先ほども聞いたように、一族に不要な人間は、積極的に縁を切り、相続権を持つ者を絞って、財閥の財産を食い潰したり、切り分けたりする事のないように努めているそうだ。
そうやって、数々の会社と、大勢の社員を束ねて養っているそうだ。
「日本で探索者用品を売ってる会社もその1つだよ。後は、君が契約した警備会社や、例の多肉植物の研究を引き継いだ会社もそうだね。夏の終わりのパーティーで紹介しただろ?」
「あ〜・・・あの時の。ソフィアの父親って事の方に意識がいってました。あの人が・・・。」
やたら緊張したパーティーだったので、なんとか覚えてる数少ない人物だ。
ソフィアに関係がなかったら、絶対に忘れてるね。
「日本でダンジョンに関連しているドイツの資本は、その多くがミュラー財閥から出ている。国よりも出資してるって話だ。」
『すごいのです・・・。ミラは、なんでそんな事まで知っているのですか?』
「私とミラの仲ですからね!お父様が何気なく喋ってしまいました。」
『あっ、そういう・・・。』
下手すると、情報漏洩になるんじゃ・・・。
気にしない事にしよう。正直、聞かなかった事にしたい。
ミューズですら口を噤むんだ、とてもじゃないけど僕の手には余る事柄だ。
「それと、ノルウェーには来年の12月10日に訪問する予定だよ。幸太くん、今度は逃げられないよ?」
12月10日は、偉大なノーベル先生の命日だ。
僕は、今年新たに出来たダンジョン賞を頂いた。だけど、恥ずかしいので、学校を理由に欠席している。本当は辞退したかった・・・。
僕の研究結果は、ドイツが持って行く予定だったのに。そうか、あの人が手を回したのか・・・。
平和賞と同じく、ノルウェーで授賞式を開催予定です。
ソフィアパパのご職業!なんでしょうね?
ミュラー財閥傘下の日本支社の取り纏め。頭取?取り締まり?
ちょっと、役職名が思いつきませんでした。
ミュラー財閥、アジア統括あたりでしょうか?




