334話
「どうしたのソフィア?」
3階層に進んですぐの戦闘が、終わったところだ。
ソフィアが手を開いたり閉じたりしながら、自分の手を不思議そうに見つめている。
「・・・掴めませんでした。」
「そう、残念だったわね。」
「まあ、そんな事もあるよ。」
アデレードと遥が、ソフィアを慰める。
戦闘が終了してからの方が、安全に鑑定出来るから、ソフィアが捕まえてくれるのは、正直助かるんだ。
そのステータスを元に、この階層の『ケットシー』の脅威度が測れるからね。
「そうじゃありません、掴めなかったのです!」
『みゅ?捕まえられなかった、ではなくて、掴めなかった、とソフィアは言っているのです!』
怪訝そうな顔が並ぶ。
僕も、理解出来ていない。
だけど、ミューズは何かに気づいたみたいだ。
手をすり抜けた?
手を・・・、通り抜けた?
!!?
「アデレード!!鑑定アイテムをソフィアに!」
僕は、ゴーストと同じ特性を懸念したんだ。
手をすり抜けたのなら、HPやMPを吸われてるかもしれないと考えての事だ。
ソフィアは僕の意図に気づいて、直ぐに確認してくれた。
我ながら、ちょっと説明不足だった・・・。
慌てるとダメだね。
「大丈夫です、HPMPが減ってる様子はありません。」
僕らは、ホッと胸を撫で下ろす。
「ソフィア、触れられなかった、という事でいいんだな?」
「そうですミラ。すみません、私とした事が気が動転していて、上手く説明出来ませんでした。」
「いや、いいさ。誰にでもある事だよ。」
1階層でも、急に僕の確認出来た数よりも多い『ケットシー』が現れていた。
単純に、僕の見逃しだと思っていた。
とても、分かり難いから。
だけど違った。
「【幻影魔法】だね。」
「幻影・・・?っ・・・!!エミリアを刺した、あのクソ野郎と同じ魔法って事か!クッソ、そうか・・・、だから触れられないのか!」
「僕らは、実際よりも、多く見せられていた訳だ。」
「でも、有効だよ遥。正直、戦闘中に幻と本物を見分けるのは難しい。ここまで、早く片付いてたのは、ミラの魔法に巻き込まれた敵の数が、多かったんだと思っていた。だけど、違った。」
「下草のせいですわね。消えたのか、逃げたのか、それとも隠れているのか、さっぱり分からない。なんとも、意地の悪いダンジョンだわ。」
「まったくだな。」
『お手柄なのですソフィア!!』
「・・・そうだね、お手柄だね!」
想像以上の難易度に、パーティーに暗澹とした雰囲気が流れたのを察して、すかさずミューズが盛り上げてくれる。だから、僕も即座に乗った。
それを理解して、ミラも続いてくれる。
「貴重な情報だ、イギリス軍もきっと喜んでくれるだろう!」
「追加報酬をねだってみるのはどうかしら?」
アデレードの台詞にみんなして笑い、沈んでいた雰囲気を吹き飛ばした。
「とりあえず、そういう手札もある、という事だけ頭に入れておこう。直ぐに対抗手段が見つかる訳でもないしな。」
「あら?ミラなら、赤外線スコープとか、ソナーとか、言い出すかと思いました。」
「ソフィア、思いついても、直ぐには実行出来ないだろ?だから言わなかったんだよ。」
「私たちでは出来ませんが、コータさんならどうです?【魔眼】で見分けられませんか?」
なるほど、ソフィアはそう考えたのか。
「どうかな?今のところ、違いは見つけられないね。でも、何か分かったら、みんなに伝えるよ。」
「そうだ、【幻影魔法】の習得は出来たのか?」
「いや、ダメだね。やれそうなもんなのにね。」
『そんな事まで出来たら、ご主人様は人間スキル図書館なのです!!』
みんなが笑う中、僕は肩をすくめながら、コピー出来るスキルと出来ないスキルの違いを考えていた。
答えは、まだ出ていない・・・。




