306話
僕らは、マルティンさんとホテルのロビーで再開した。
初めて会った時の、自信なさ気な表情とは違って、日本から帰国した時の、自信を持った表情をより深めた、そんな様子だった。
オークファイターの装備に、首からはジャラジャラと『牙のお守り』を下げていた。
「ああ、これかい?これはトロフィーだよ!」
僕の視線に気づいて答えてくれたんだけど・・・、正直、蛮族度が増している・・・。
素直に答える訳にもいかず。
「あれから、僅かな日数で頑張ったんですね・・・。」
「いや、以前から集めてるんだよ。売ると、税金がかかって面倒くさいんだ。」
ああ、日本とは税法が違うから・・・。
日本で売れば、1個25〜35万で売れるアイテムをジャラジャラと・・・。この事実を、日本のギルドに届けたい。
もう少し、取引するアイテム以外にも目を向けてよ。
いや、国内のダンジョンでも産出してるし、何より、国内のダンジョンだけで手一杯か・・・。
視界の隅で、ミラが早速サポートスタッフに指示を出していた。
出来る事なら、日本が買い取る分も残しておいてほしいものだ。
むしろ、パーティー予算で転売・・・。
任せておいても良さそうだね。
ノルウェーには、まだこんな良い貿易品があるんだって、宣伝してあげるから、どうか許してほしい所だ。僕らの活動に、ノルウェーの税金は課せられないからね!!
「時差の事もある、3日間だけだから、ホテルも全て君たちの活動に合わせる事になってる。いつからダンジョンに潜る?」
「荷物を置いたらすぐに行こう!睡眠なら、飛行機の中で幾らでも取れるしね。」
ミラの指示で、ホテルマンがみんなの荷物まで運んでくれた。
サポートスタッフが渡したチップに、ホテルマンはすっ飛んで行ったよ。急ぐ必要はないんだけどね・・・。
ホテルは元からあった物らしく、ダンジョンまでは少し距離がある。僕らは、ここまで乗って来た車に再び乗り込んで、ダンジョンに移動した。
「説明は受けてるかもしれないが、ダンジョンの中は年中15〜20°Cと常に一定だ。ボクは、4階層以降は知らないけどね。だから、防寒具は車に置いて行った方がいい、邪魔になるだけだ。あと、映像で見たと思うけど、中は緩い傾斜の草原だよ。もしはぐれたら、高い所に登ってくれ、これでだいたい合流出来る。」
地図や映像だけでは、分からない知識だ。
想像力や、地図の見方に長けた人なら分かるのだろうか?
ダンジョンの前は広い駐車場になっていた。
ギルドは、ダンジョンの入り口の直ぐ横に建ってる。この辺りは、考え方の違いだろう。
日本では、正面を抑えるようにして建てられていて、側面にもわざと建物が作ってある。元はコンビニがあって、今は韋駄天が入ってる建物なんかがそうだ。ダンジョンの横は自衛隊が固めている。
「くそぉ〜、今日は車が多いなぁ。防寒具を脱いだら、入り口までダッシュだ!」
「待て待て待て、マルティン!車をダンジョンの前まで回してもらえるか?」
ミラが慌ててマルティンさんを止めて、運転手さんに指示を出す。
思わず、僕も走る気でいた。
「そっか、運転手はダンジョンに入らないのか、良いなぁ。ボクはいつも、車を止めた所から走ってたのになぁ。」
「それでダンジョン前に車が多いんですね、納得です。」
そうなんだ、せっかく広い駐車場なのに、物凄い密集して駐車してある。
僕らの車が移動してる間にも、薄着でバックを抱えた人が走って行くのが見えた。
『みゅ?テイマーなのです?』
その人が、犬を連れていたんだ!
「ああ、違う違う、普通の猟犬さ。追いかけると言うより、追われて逃げて来る事の方が多いんだけどね。普段から、山で使ってる相棒だろう、農地を守る為に、普段からやってるのさ。ダンジョンは、雪深い時期の出稼ぎに丁度良いからね。」
陸地のほとんどが山脈のノルウェー、穀物なんかは輸入に頼ってるって聞いてるけど、完全に農業をやってない訳ではないんだね。
当たり前か。
続々とみんな、猟銃を下げて犬を連れてダンジョンに入って行く。
所変われば、法律もルールも違う。そんな事を、実感する時間だった。
聞くのと、見るのとでは、全然違いますよね。
そんな雰囲気を、味わっていただけたら幸いです。




