302話
前回の九州行きと違って、今回は準備万端だ!
3連休を使った強行軍だし、授業も日本に帰ってから普通に受けられる。
装備だって、前回みたいに直前でギルドまで取りに行くんじゃなくて、前日に全て車にスタンバイ済みだ!
いつものスタッフとドイツ軍が、学校まで運んで来てくれる・・・。
大使、ちょっとやり過ぎでは?
高価なアイテムなので、ありがたい事なのですが、怒られても知らないよ?
それこそ緊急ではないのだから、ギルドによって取り出して行けばいいのでは?
まあ、今更か・・・。もう昨日、積んじゃったし。
一応、今回の名目は下見って事になってるけど、殺れるのなら、殺ってしまえってスタンスだ。
この辺、意見の合う依頼人はとっても良い、楽だ。
前回の毒島さんみたいなのは、ぜひとも遠慮したい。
そのブタさんも、今は寒い地方で頑張ってると大使が言っていた。そっちにはダンジョンが無いし、要するに左遷されたのだろうと、僕は理解している。
終業時刻に近づくと、学校全体がざわつき出した。
無理もない、完全武装のドイツ軍が学校の駐車場まで乗り付けたら、仕方のない事だろう。それでも、校舎にいる生徒と、兵士が手を振る程度で済んでしまう、この学校の生徒は慣れ過ぎだ・・・。
むしろ、今日の事を、知らされているはずの先生方の方が緊張気味で、申し訳なくなってくる。
僕らが昇降口から出ると、校舎から沢山の声援が降って来た。
「頑張れよー!」「しっかりね!」「生きて帰れよー!」「死ぬなよ!」「応援してるぞ!」「配信楽しみにしてるわ!」などなど・・・。
沢山の声援に、思わず足を止めてしまった。
「「「「セーのっ!アデレード頑張ってー!!」」」」
「「ミューズちゃ〜ん!」」
『ふんす!「ダンジョン・フィル・ハーモニー」の活躍を、楽しみに待っているのですよ!!』
ミューズの宣言に、盛り上がる校舎に手を振って、僕らは車に乗り込んだ。
・・・なんだか、嬉しかった・・・。
声援が力になるのを、実感出来る出来事だった。
8階層に行った時は、入る時に気を失いかけたし。帰って来た時は、恥ずかしくてしょうがなかった。
九州での経験が、僕を成長させてくれたのかもしれない。
多くの自衛官の皆さんと、氾濫鎮圧という1つの目標に向かって行動し、やりきった。あの時の、お互いを讃え合う歓声を思い出すんだ。
それは、言葉以上の『敬意』を実感出来たからかもしれない。
そのおかげで、今の僕は素直に声援を受け止める事が出来るんだ。貴重な時間を割いてくれた皆んなに、僕も敬意を返す。
・・・いや、まだちょっと恥ずかしいけどね!
『ご主人様も、何か言いたかったのです?』
「いや、僕はちょっと言葉にならないかな。」
『緊張している方がセリフが出て来るなんて、困ったご主人様なのです!!』
そっか・・・。
「ミューズは、僕の代わりに喋ってくれたんだね。ありがとう。」
僕はミューズを胸に抱き、精一杯の思いを込めて、優しく撫でる。
『ふんす!ふんす!ふんす!もっと撫でるのですよ、ご主人様!!』
ミューズの要望に応えて、わしゃわしゃと撫でてやる。
車の流れも順調、空は快晴。快適なフライトになりそうだ。




