閑話、自衛官三橋さんに『怨霊刀』届く。
「先輩!!なんで俺の軍刀が没収されるんすか!納得がいかないっす!!」
俺はこの九州の地で、日夜モンスター共を軍刀で切りまくってきた。
その動機はともかく、自衛官として恥じる行いはしていないと自負している。それなのに・・・。
それなのに、今日付けの辞令で、俺の軍刀を返却するように命令が下った。
刀の道に生きて、その道を活かすために自衛隊に入ったのに・・・、その俺から刀を取り上げるなんて!到底納得の行くものじゃない!!
そんな俺が、普段尊敬してやまない五輪先輩に食ってかかる事は、仕方のない事だと思うっす。
だって、先輩にはこの事態をコントロールする程度の権限はあるはずなのに・・・。
「先輩・・・、権力っすか?出世して、変わっちまったんすか?」
俺の中に、絶望と失望が渦巻く。
いつも後輩思いだった先輩が・・・。
「おいおい、ご挨拶だなぁ三橋。お前は、先の氾濫で実力を見せ過ぎたんだ。それなのに、お前は『魔法力』付きの剣や武器を握ろうとしない。」
「当たり前っすよ!!俺は『刀術士』なんすよ!いくら有用な武器って言ったって、扱えない物を渡されても困るんす!」
ダンジョンが出来て以来、誤解を防ぐために出来た言葉だ。
剣士では、剣を扱う者だし、侍とかとはそもそも意味合いが違い過ぎる。その為に生まれた言葉だ。『刀術士』、字面そのままな、刀を扱う者の事を言うっす。
「だからだよ。」
『刀術士』から刀を奪うなんて!魂を奪うがごとく悪行っす!!
「『韋駄天』から、『怨霊刀』が届いた。」
魂を奪われたら『刀術士』は・・・、は?
「自衛隊は・・・、国はこの技術を買い取った、だから今後は九州で同じ物が生産される予定だ。あの藤川 幸太が・・・・・・。」
五輪先輩が、なにか言いながら軍刀を引き抜いてみせる。
正直、聞こえてなかったっす。
抜き放たれた軍刀は、青い波紋をなびかせて現れる。
それは、この世の物とは思えない一振りだった・・・。
「・・・ぉぉぉおおおぉぉぉ・・・!!」
すごいっす!!すごいっす!すごいっす!
これが、双葉の奴から聞いた噂の『怨霊刀』っすかぁ・・・!
形自体は、完全に軍刀と一緒っすね!それにしたって綺麗な刀身・・・うひゃぁ!!
おっと、いけないっす。先輩を放置して魅入ってしまったっす。
「えっと、それで先輩。どうしてこれが、ここにあるんっすか?」
「聞いてなかったのか・・・。」
「申し訳ないっす。あまりの事に、聞こえてなかったっす。」
「お前のために、1本、先に回してもらったんだよ。いずれは・・・。「マジっすかぁ!!?」
「・・・聞けよ三橋。落ち着けって。」
「ぉおぉ・・・、うっす!」
あっ、先輩が鞘に戻しちゃったっす!
ああぁぁぁ・・・。
国は、『怨霊刀』の錬金方法を『韋駄天』から買い取ったので、いずれは、九州にいる自衛官全員に行き渡るようになるそうだ。
そして、全国の自衛官の標準装備にして行く心積もりだという事だ。
そこで、本家本元が作った『怨霊刀』が、数振りこの九州に入って来たので、その内の一振りを、先輩が俺のために押さえてくれたって事らしい。
「今日付けで、これがお前の装備になる。やってくれるな三橋?」
「っす!!」
俺は踵を打ち合わせ、指の先まで力を入れて敬礼した。
五輪先輩が差し出す『怨霊刀』を、俺は両手で恭しく受け取った。
式典やなんかの時よりも緊張した。
『ダンジョン・フィル・ハーモニー』がこの地を離れ、ドイツ軍とオランダ軍も、しばらくして本来の駐屯地へ戻って行った。
見捨てられたのではないと分かっていても、戦力が減って不安の募る日々だった。
だけど今、これが自分の下に届き、ダンジョンに挑みモンスターの脅威と戦っているのは、俺たちだけではないと、確かに感じる事が出来た。
俺たちは、世界中の探索者と一緒に戦っている。
そう思うと、嬉しくて心強くて、涙が溢れた。
自衛官三橋さん、やっと終わりですね。
8話もかかったよ。




