閑話、ジェシカ・エドワード1
唐突的な本国からの呼び出しに、私は急いで空港へ向かっているところだ。
「チケットにパスポート、財布にシガー。後は、トランクに入れたわよね?ああ、玲奈たちに、しばらく探索に参加出来ないって、メールしとかないと・・・。」
電車で移動していると暇なので、メールを送信し、携帯ニュースなんかで話題を斜め読み。
「早速、慰問公演の配信が話題に上がってるわね!」
これまでも、政府関係者が注目するに値する配信をしてきた彼らだけど。今回の物は、また別のインパクトがあった。
政治の、特にダンジョン向け軍事担当者に、頭痛の種を撃ち込む類の配信だった。
こんな物を配信されたら、うちの国の福利厚生が劣っていると、現場から声が聞こえてくる事だろう。
普段から、ダンジョンでアイテム回収や、Lv上げに勤しむ屈強な兵士たちが黙っていない。それは、どれほど恐ろしい事だろうか?
まして、訓練ではない。日夜命懸けのダンジョン探索に赴いているのだ、そのストレスたるや、想像をはるかに超えている。
フリーでダンジョンに入ってる私ですら、数時間も潜ればグッタリなのだ。
そんな声も上げたくなるだろう。
「某国の元大統領が、シセルの公演の天使はCGだ発言?本当にあの国は・・・、こいつが大統領になってから、ロクでもないのに。まだ、反省しないのかしら?早速叩かれてるし・・・。」
『どう見ても、天使じゃなくてワルキューレ。』
『この大統領Mなの?叩かれるのが好きなの?』
『ただの構ってちゃんだろ?』
『バカやって、注目を浴びたいんだよきっと。』
そうよね〜、そういう反応よね!
『その天使ちゃん、この間、豊田の肉屋で焼き鳥買い食いしてた!』
『いや、ワルキューレ・・・ってマジで!?』
『証拠映像はよ』
『いや、肖像権に引っかかる。気になるけどな・・・。』
『今時は、マジでやばいからな・・・。』
『その天使ちゃん、昨日スーパーのお菓子コーナーで駄々こねてた。くそわろた。』
ぶふぅ!!
何やってんの、あんたら〜!
幸太くんが行くとなると・・・、近所の激安スーパーか。
あの子は、私以上に値段にはうるさいからね。
お1家族1袋までの小松菜を2袋買おうとして、泣く泣く諦めていたのは、記憶に新しいわね!
稼いでるはずなのにね〜。
「楽しそうだねジェシカくん。隣良いかね?」
「カール支部長!?」
なぜ、ここに支部長が!?
どうやって、この電車に乗っていると!?
「ああ、そのまま、そのまま。電車も公共の場だろう、楽にしてくれ。」
「はっ!」
「今回の、急な呼び出しの付き添いだよ、私も同じ飛行機に乗るのでね。電車に乗り込んだら、キミがニヤニヤ笑っていて、話しかけるのを躊躇ったよ。」
見られた!恥ずかしい!!
「それで、面白い記事でも?」
「馬鹿な、元大統領のコメントに対する意見を読んでいました。」
「ああ、なるほどな。」
カール支部長も苦笑気味だ。
あまりにもアホらしい事ばかり、よく毎回書き込むものだと、そう思わずにはいられない。小学生並みの知性だ、違う所があるとすれば、小学生には未来があり成長が期待出来るが、アノ老人にはないって事だろう。
「だが、あの天使の如き存在が、兵士たちを祝福するかの様に、空を飛び舞い踊る様子は、なかなか衝撃的な物だったよ。」
「そうでしょう、そうでしょう!!あれ、私が提案したんですよ!?」
ダンジョン内で、ワルキューレの動きをどうするか検討していたので、私が助言したんだ。
見事採用された彼女たちの動きは、神々しくて美しい!!
お願いだから、お菓子くらい買ってあげて!
彼女たちは、マーブルチョ○が大好きなんだから!!
いや、幸太くんと同じで、チョコ菓子全般を好きだけどね。
むしろ、日本のお菓子は美味し過ぎると思うのよ!安くて美味しいは、正義よ!!
トランクケースの中身も、半分はお土産のお菓子だからね!
個人的には、抹茶テイストよりも、ほうじ茶テイストがお気に入りね!罪な味がするわ!思わず買い直さなきゃいけないほどにね!!
あれ?カール支部長が、地平線の彼方へ目を向けてる。
電車内から見えるのは、ごみごみとした街並みだけなのに?
「あの演出は、君の提案だったんだね・・・。」
「そうですが、なにか?」




