289話
僕の読みは、珍しく当たった。
大使に話をしに行った時に、聞いてはいたから知ってるけど。なんとなく、自分の読みが当たった事が少し嬉しい。
パーティーで集まれる日に、ノルウェーの大使と面会する事になった。
でも、微妙な気分だね・・・。
歌姫の本音を聞き出して欲しくて、お願いしたつもりが、なぜか同席する話になっている!ましてやミラなんて、僕1人を同席させるつもりだったみたいなんだ!!
ひどいよね!
まあ、それは置いておいて。
1番彼女に共感出来るのは、遥なんじゃないかと思っていて、それで、なんとしても彼を連れて行きたかったんだ。
そうすると、男性ばかりになってしまう可能性もあり、喋べりやすい雰囲気作りのためにも、みんなでの参加を希望した。
まあ、後半は建前だけどね!
緊張するんだって!みんなで行こうよ!?
面会場所としては、ドイツの大使館が選ばれた。
他にも豊田のギルドや、ノルウェー側の大使館、ホテルなんかが候補に上がったらしいけど、お互いの安全面や、かかる時間とコストを考慮しての選択なんだそうだ。
そんな事説明されても、そんなもんかと思う程度なんだけどね。
ちなみに、日本側の人間も形式的に参加する。
不祥事があって、ドイツ側から不信感を買った外務省からではなくて、内務省の人が来て、日本も関わってる事をアピールする狙いがあるらしい。外務省は今、厳しい追及をされている。
「内閣参与ですね。政治家ではないので、総理補佐官とは違います。」
「同じでいいのでは?」
「呼び方自体は、そうかもしれませんね。今回は私を起用する事によって、お前たちを信用していないというメッセージを、外務省に叩きつける意図もあるのですよ。」
法的根拠に基づいた起用にするための、離れ技だね。
「防衛省、又は自衛隊からも1人入れようという話もありますね。」
この人、結構話せる。
ノルウェー側が到着する前に、事前の打ち合わせを済まして、雑談してるだけなのに、なかなか上手い。
自分の立場と立ち位置を明確にして、政治的な采配だと教えてくれる。何よりこちらを飽きさせない、良い人事だ。
『近藤か、今野でも入れれば良いのですよ!』
「あっははははっ!ありだね!」
面白いアイデアだ!その2人なら見栄えも良いし、ダンジョンという現場を理解している。
省庁でデスクワークしてる人の報告よりも、しっかりと生の声が届けられる事だろう。
「・・・どこかで水漏れが?失礼ですが、どこでそれをお聞きになられたのですか?」
『みゅ?』「は?」
「お2人が、選考に上がっているのは確かです。」
『あ、あ、あ・・・、当たったのですよ。みゅ、ミューズの読みも・・・、捨てたもんじゃないのです。』
「落ち着いてミューズ。ミューズが冗談で言ってる事、僕は分かってるからね。」
ストライキの時に現場の士官も随分入れ替わったし、毒島さんのように、現場の遠い高級士官を外したら、浮上してしまった名前なのだろう。
メディアで顔も知れてるし、選考の端に居てもおかしくはない。
「冗談?・・・本当に?」
急に総理のサポートをしてる人が、警戒感を強めてしまった。
ニュースにも、なかなかならない面白い話が聴けてたのに、残念な事だ。
ノルウェー側の人たちが到着した様なので、みんなして立ち上がってお迎えする。
場合によっては、相手を先に部屋に通して、後から入って来たりするらしいけど、今回はビジネスの話が主体なので、そこまで形式的な事はしない。
国でも会社でも、下の立場の人間が先に部屋で待つものだからね。
おかげで、少し相手を慌てさせてしまった。
向こうは、待っているとは思っていなかった様だ。探索者の派遣事業はまだ始まったばかりで、お互いに手探りな所が多い。それでも、どこの国でも有力な探索者を出したがらないし、完全な売り手市場ってやつだ。
ダンジョンが出来て5年ちょっと、各国も、どの程度の立場の人が扱うべき案件なのか、決めかねている。他国に協力を要請した時に、外交官や大使がその任に当たったので、今でも、大使クラスが動いているというのが現状だ。
今後、他国でも民間でも用いられるモデルケースになるはずなので、両国の大使も多少緊張気味だ。
完全武装の、僕らが居るせいではないよね?
まして、新規オープンのラーメン屋に行けなくて、不機嫌そうなエミリアのせいだなんて言わないでね。
大使同士の挨拶と握手から、会談は始まった。




