286話
もう少しだけ、アレンくんです。
『『『『『お帰りなさいませ奥様!!』』』』』
回りから響く歓迎の声。
その声を発する、美しい女性たち。
その存在に、俺は裏切られた気がした・・・。
色違いの、クラッシックなワンピースを着た女性たちは、髪の色も、肌の色も違ったけど、一様に皆美しかった。
姉ちゃんがいるのに・・・!何で、こんなに女性を侍らせてるんだ!!
「ごめんねアデレード、うちの子どうも家事は初心者らしくて、色々と教えてくれる。」
「そういう事ね、分かったわ!」
『『『『よろしくお願いします!奥様!!』』』』
姉ちゃん!?
奥様って言われて、騙されてない!!?
・・・いや、あれ?
女性たちの、姉ちゃんを見る目が・・・、スターでも見るような視線なんですけど。
あれ?何か、俺、勘違いしてる?
『奥様、是非水回りからお願いします。』
「ええ、分かったわ!任せておいて!!」
『よろしくお願いします。ご案内しますね。』
あれ?幸太さんほっぽり出して、みんな行っちゃったよ!?
ええぇーっ!?
「アレンくん、僕らも行こうか。」
「あっ、はい!」
幸太さんに誘われて、俺はやっとこの玄関の広さを感じる事が出来た。
ぶち抜きの吹き抜け!天井たっけーーーっ!!
上からシャンデリアが下げてある!?
玄関が、学校の教室より広いよ!?
2階に続く階段が、無駄に湾曲していてオシャレだ!真っ白な壁紙には、花柄の凹凸が施されたている!しかも・・・、規則性を感じない。完全なオーダーメイドだ・・・!!
ヤバイ!玄関だけで、うちよりも高いかも・・・!?
・・・げぇー!?
これは、キッチンじゃないよ、厨房だよ!ひっろ!?
姉ちゃんのレクチャーに、黒い髪の人が必死になってメモを取ってるし、幸太さんもメモを取り出して、書きなぐってる!数人、羽根を生やして空中から覗き込んでるし!!
「あっ・・・、この高さ!広々としたキッチン!綺麗なだけじゃない!!」
姉ちゃんが、めっちゃ嬉しそうだ。
うちの台所の低さには、やり難いって嘆いてたもんな・・・。
いや、それより、あの人たち、天使なの!!?
えぇぇ!?
浮いてる、浮いてるよ!?
『アレン、慣れるのです!!ご主人様の近くでは、こんな事日常茶飯事なのですよ!』
マジかぁ〜・・・。
天使も慣れなのか・・・。
広さに驚いていたけど、この厨房も落ち着いた色彩で美しい。
壁の白、床の黒っぽい灰色、シルバーに統一された家具、そして窓から差し込む光。食材の色鮮やかさがさぞかし映える事だろう。
「コンロの回りは食材が落ちやすいから!定期的に綺麗にしてほしいわ!ネズミやゴキブリの餌になるから。気化した油も難敵よ!シンクの汚れにはお酢が効くから!でも、お酢の匂いが気になったりするから気をつけて!?排水溝のネットも定期的に取り替えて!水気と食べカスは食中毒の元よ!」
うん、言っても、やってくれない母さんに代わり、姉ちゃんはしっかり者になったんだね・・・。
真面目に聞いてくれる生徒たちを前に、姉ちゃんも活き活きしてるよ。
幸太さんも、必死になってメモしてる。
そんな中、ミューズちゃんがちょいちょいっと、手招きしてくれた。
『アレン、何か心配事でもあるのです?』
「いや、美人が沢山いたからさ。こんな中で、姉ちゃんがやっていけるのかと思ってさ。」
『ご主人様の眷属の事なのです?』
「眷属って、それってワルキューレじゃなかった?」
『鎧を脱いだワルキューレなのですよ?』
天使とワルキューレって、確かに・・・。鎧取っちゃうと、一緒だね。
もう、驚きつかれて、納得してしまった。
『それでも心配なら、身長を見るのです。』
身長?みんなすらっと高い?
『日本人女性の平均より、高いのです。』
確かに。平均身長は、ちょっと違うよね。
『胸元を見るのです。』
うん、明らかに大きいね!
『これが、ご主人様の趣味なのです!』
勝ったね!これは姉ちゃんが奥様だよ、むしろ女王様って感じだね!!
ちょっと、ホッとした。
「お風呂はね!!・・・!・・・。」
姉ちゃん意外と、家事好きでやってたんだな・・・。
母さんが適当だから、仕方なくやってるのかと思ってた。
8時頃、お暇した。
幸太さんが送ってくれると言うのを辞退して、姉弟2人で歩いて帰った。
やり切った顔をした姉ちゃんが、満足そうだった。
俺も、入試の件、お礼が言えた。
9割がた大丈夫らしいけど、ここで気を抜いて、ヘマしないようにしないと・・・。
「幸太さんが作ってくれた御飯、美味しかったね。」
「本当よね〜、和食も奥が深いわ!あんたも頑張んなさいよ。」
「あそこまでは・・・、無理っす!」
それを聞いて、姉ちゃんは楽しそうに笑った。
夜空の月明かりを受けた姉は美しく、ワルキューレ相手でも負けないと、そう思えた。
だけど、あの料理はマジで無理です!
お肉に、ベシャメルソースとわさびの細切りが乗ってたからね!?
え?男はそれだけ出来なきゃダメですか!?無理ぃ〜〜っ!!




