31話
僕たちは男女11人で、ダンジョン1階層を奥へ奥へと歩いて行く。
入り口の人の密集具合は、学校の教室以上で、とても、ダンジョンに入ったのだとは思えないほどだった。
さっき、僕が見た時よりもかなり悪化していた。
もはや、ゴブリン1匹に1クラスの混雑具合だ。
それを見たクラスメイトたちも、さすがに呆れていた。
早々とそこを離れて歩き出す。
「みんな、はぐれないようにね!」
「まさか、人混みで迷子の心配をする必要があるとは、予想以上の混雑ぶりだな。」
「まったくだね。」
僕たちは遥君が音頭をとってくれるから良いけど、大人数でダンジョンに入った人たちは大変だよね。ダンジョン内を集合場所にした人たちとか、いたら悪夢だよね。
ダンジョン内って電波届かないしね。
階段辺りで、時空が歪んでるんじゃないかとか言われている。
これに関しては完全に憶測だけど、地面をいくら掘ってもダンジョンには繋がらない事から、あながち無視出来ない説なんだ。
なんにしろ、スマホじゃあ連絡は取れない。
配信系の探索者の人たちは、中で録画だけして来て、ダンジョンの外に出てから電波に乗せてるんだよね。
ありがたい事です、いつもお世話になってます。
「歩くだけって暇だな。」
「武藤君、周りで戦ってる人を見ておいて、参考にさせてもらおうよ。」
「遥の奴がポジティブ過ぎて、すげえ、ここまでくると尊敬するわ。」
「確かに。」
武藤君の言葉に、思わず僕はガチトーンで応えてしまった。
だけど、僕もさすがに、ここまでゴブリンと遭遇しないと、ダレてくる。
入り口から離れて、少しずつ人は減ってきたけど、まだ、見える範囲に何組もいる。
「昨日はあんなに閑散としてたのにな、なあコウタ。」
「うん、・・・あれ?昨日はエミリアさんたちと会ってないよ?」
さすがに彼女たちに会っていたら、僕でも記憶に残ってる。
不思議だ、なぜ僕がダンジョンに来ていた事を知っているのだろう?
「ああ、コウタはすごい速さで爆走してたからな!あたしたちが、声をかける前に見えなくなったな!」
「あはは・・・。」
身に覚えが・・・あります。
【支援魔法】のおかげで、ゴブリンが楽勝になったので、調子に乗って手当たり次第倒して回ってたんだ。まさか、エミリアさんたちに見られてたなんて、恥ずかしい・・・。
今日は、本格的に散歩して終わりかと思いだした頃に、やっとゴブリンが出て来た。
しかも1階層の最大数の4匹だ、運が良い!
「で、出たな!」
武藤君が緊張した声を出している。
声はともかく、身体は震えていないから、大丈夫だろう。
「2ー、2ーでいいか?それともレディーファーストで、あたしたちに譲ってくれる?」
「2匹ずつでお願い、エミリアさんはいいかもしれないけど、他の子は・・・ね?」
「ん?あー・・・、紳士的な配慮に感謝。」
この2人はすごいな!特に遥君なんて初陣のはずなのに、この落ち着きと配慮!
エミリアさん以外の女性陣は、とても戦えそうに見えないよ。
さっきまでも、他人の戦闘を目の当たりにしてたはずなんだけどね。
初めてゴブリンの殺意を向けられて、震えている子までいる。
それにしても、あの翻訳機たまにへんな翻訳をしてくるよなぁ。
「悪いんだけど、幸太君・・・。」
「ああ、2匹ずつに別けるよ。」
「え?・・・お、お願い、していい?」
遥君の言葉を最後まで聞かずに、僕は無造作にゴブリンたちに近づいて、強引に二手に別けさせる。
これで、どっちのチームも戦いやすいだろう。
女子チーム側には、もう少しだけアシストだ。
片方のゴブリンの足を払って、1匹ずつ仕留められるようにした。
僕なりに、さっきの遥君の真似をした訳だ。
ゴブリン共が連携を取れないように、僕は中央のやや奥に位置取り、ゴブリンの逃走ルートも心なしカバーしておく。
紳士的な配慮、こんな日本語、日常では絶対に使いませんよね〜。




