280話
僕はアデレードのチームの友情出演を終えて、午後の部である後列の自分の席に戻った。
クラスメイトたちからは暖かく迎えられ、エミリアからミューズを受け取るも、解せない事がある。
「凄いな幸太!」
「笑わせてもらったわ!!」
「鋼の心臓だな!」
「どんなクソ度胸だよ!?」
おかしいな?
僕は緊張に弱くて、ミューズやエミリアのおかげで、やっと動ける程度だってのに、この言われよう・・・。
「ミューズ、僕緊張してたよね?」
『幸太の緊張は、他の人には分かり難いのですよ。むしろ、真に迫り過ぎてて、笑い転げるところだったのです!』
「そうなの?」
『見るのです!普段からご主人様に鍛えられてるエミリアが、筋肉痛気味になるくらいには笑えたのです!!』
何を鍛えられてるのか、議論の余地がある気がした。だけど、行事の最中だ、他のチームのダンスを見学する事にした。
ミューズを、いつもと違って肩に乗せたのは、後ろの人たちへの配慮だ。
クラス全体で登録してるチームは7クラスあって、そのうち、人数の少ないクラスが先にやれる。
うちのクラスは、後ろから6番目だ。
2年生のあのクラスは、夏休みの間に人数が減ってしまったのだろう。
ダンジョンが近くにある高校だ、怪我で単位が足りなくなったのか、あるいは死んだのか。儲け過ぎて、高校を辞めてしまったのだったしたら、まだいいけど・・・。
ちなみに僕は、大使がしてくれた契約の関係上。あれだけ九州に行って倒れてたのに、無遅刻無欠席って事になってる。
ありがたく思えばいいのか、それで良いのか?と疑問に思えばいいのか、悩ましいところだ。
「あの程度なら、勝てるな。なあ、遥。」
「どうかな?でも、自信はあるね。」
近くの席では、みんなが他のチームの批評をしてる。
らしからぬ競争心を見せているのは、我がクラスの頭脳こと武藤くんだ。
その事実に、僕はビックリだ・・・。
だけど、彼だけじゃない。
なんか、みんなギラギラしてるんだ。
クラス性みたいなものがあるのは、小学生の時から、時々感じていた。だけど、こんな闘争心溢れるクラスになったのは、初めてだ・・・。
自信があるのは良い事だけど、若干怖い。
「へぇ、やるじゃない。難易度を落として、完成度を高めて来たわね。」
「ああ、面白い戦略だ。一考の価値がある。」
あの・・・、武藤くん。学校行事に、戦略ってなに?
「だけど、私たちの敵じゃない。」
藤堂さんまで・・・。
平和的なダンス大会なのに・・・、敵なんて呼び方は、どうかと思うのですが。
『うんうん!みんな分かってるのです!やるからには勝つのですよ!!』
ミューズ!?お前もか!!
『優勝した暁には、ミューズがお寿司の食べ放題をおごるのです!!もちろん!回転も時間制限もないお店なのですよ!!』
むしろ、お前の差し金か!!?
僕が少し離れた隙に、なにやってんの!?
僕たちは、10分を超える時間を申請した、唯一のチームだ。
アラジ○を元にしたショートストーリー、みんなの聞いた事のある音楽で観客を惹きつける。
僕の扮する悪の親玉が、姫を追いかける。
それを、エミリアの扮する主人公がやっつける。とっても分かりやすいストーリーだ。
姫を遥がやってる所は、突っ込んじゃいけない。
男性陣の兵士に女性陣の民衆。
探索者のステータスの高さを活かして、最初から兵士がコサックダンスして姫を追っかけてるし・・・。主人公が兵士をやっつけるシーンでは、兵士がタンブリングして圧巻の身体能力を見せていた。
勝ったエミリアの後ろから、女性陣のラインダンスがあったりと、やりたい放題だ。
その後に、悪の親玉である僕が1度は勝ち、遥が『エアープランツ』を使って、観客の上空を跳んで逃げ、これを僕が余裕を持って追い回す。一応僕の見せ場だ。
空中を踊りながら追い立てられるのは、僕だけだからね。『浮遊』と『エアープランツ』の合わせ技だ、風には流されないように、注意が必要だ。
ミューズは舞台の最前列で、歌って踊っている。
バックにいるメンバーも、それに合わせて踊り続けている事が、先生方には分かってもらえるはずだ。
藤堂さん率いる女性陣が、チアリーディングよろしく遥を上空に打ち上げて、応援してますアピール。
それに応えて、主人公が再び立ち上がり、僕をやっつけて大円団。
もう、高校生が挑むお題ではないと思う・・・。
そして、今後規制がかかる事、間違いなしのやり過ぎダンスショーだった。
「ミューズ。」
『みゅ?』
(「遥のスキルが発動してた・・・。みんなに気づかれたかな?」)
みんながやりきって、盛り上がるなか。
僕は、コソッとミューズに相談する。
(『ミューズですら気づかないのですよ?本当にかかっていたのです?』)
(「間違いないよ。明らかにみんなが、練習の時よりも揃っていた、些細なミスもない。上がったのは多分、器用値だ・・・。遥は、わざとスキルを使ったと思う?」)
(『・・・それはないのです。無意識に、スキルを発動したとしか思えないのですよ。』)
(「そうだよねぇ・・・。」)
想定していなかった事態に、僕は再び頭を抱える。
完全に忘れていた・・・。




