30話
「和田君だっけ?」
「和田 孝政だ、タカって呼ばれてた、良かったらそう呼んでくれ。」
「それは覚えやすくて助かる、僕も好きに呼んでよ。その装備ってさ、タクティカルベルトだよねぇ!」
ダンジョンに出発するまで、少しだけ時間があったから、スポーツマン風の和田君に話しかけてみた、まあ、興味のある装備を彼がしてたっていうのも、話しかけた理由でもあるけどね。
『タクティカルベルト』の事だ。
タクティカルファッションとか、軍用のアイテムも最近では充実して来ている。
「良いな〜、これって結構便利なんでしょう?使い心地はどうなの?」
「まだ近所を走ってみただけだから、何とも言えないけど、そんなに邪魔にはならないかな。」
「俺も使ってるけど、この系統は自由なカスタマイズが魅力なんだろ?これからダンジョンに潜りながら、必要なカスタマイズをしていく予定だよ。」
武藤君が乗ってきた。
そう言われて、2人のタクティカルベルトを見せてもらう。
「和田君のはオランダ製?」
「そうなのか?幸太は詳しいな。」
「いや、詳しくはないけどね、僕も欲しくて調べたし。確か、ドイツ製より蒸れ難いって書いてあったよ。ベルトなんだから、そう違いはないんだろうけどね。」
武藤君のドイツ製だというのは、一目見て分かったから。片方だけ装備の良い所を上げてしまわないように注意する。
初対面は気を使うなぁ、疲れる。
「俺のはそのドイツ製だな、カスタマイズのアイテムが、こっちの方が充実してるって店員さんに言われて、こっちにした。でも、実際どうなんだ?」
「間違いないと思うよ、本当に沢山あるらしいからね。元は軍用のはずだったのに、今は完全に探索者向けに製造してるらしいね。でも、必要なカスタマイズアイテムは必ず後々販売されて来ると思うけどね。」
2人とも納得してくれたようで、結構な事だ。
「それにしたって、『ゴブリン・ナイフ』をしっかりと用意してる辺りはさすがだね。タクティカルベルトで、揺れないようにピッタリと固定されてるのは羨ましいな。僕なんか、これ、だもんね。」
僕はいまだに、ジーンズのベルトに押し込んでいたナイフを見せる。
お互いに、予算の問題について話し合ったり、参考にした動画やサイトの話で盛り上がった。
こっちは純粋に楽しかった。
「よし、じゃあみんな!時間になったから行動を開始しようか、遅れてる奴は放置の方向で。実は俺は早くダンジョンに入りたくてソワソワしてるんだ、みんなもそうだろ?」
遥君のまさかの判断に、驚いた僕たちだったけど、その理由を聞いて、みんなで笑って彼の判断を支持した。
だけど、彼は遅れてる奴を待って、待たされるみんなの雰囲気が悪くなるのを嫌ったように思えた。
凡人な僕なら、きっと待つ事しか選べない。
彼は悪くないけど、僕はコンプレックスをチリチリと刺激されるのを感じた。
ここ最近はダンジョンに没頭していて、感じる事のなかった感覚だ。
大丈夫、表情に出るほどじゃない・・・。
登録済みと未登録組に分かれて、僕らは行動を開始した。
「最初に、なるべく奥に移動しよう。ここの広場を見れば分かると思うけど、1階層の特に入り口付近は、人口密度が高くてきっとゴブリンに触れないよ。」
「コウタが言うならそうなんだろうな、ああ、さっきこっちから歩いて来てたのには、そんな意味があったのか!準備が良いなコウタ!」
女性陣も一緒に移動してるから、エミリアが賛成してくれる。
ダンジョン内では、女子は別行動の予定だけど、こういう時にはありがたい。
「いや、時間があったから、ゴブリンを狩ってただけで・・・。」
「謙遜するなコウタ!そういう所は日本人の悪い所だぞ。」
いえ、本当の事を言ってるだけなんですけど・・・。
エミリアの信頼が痛いんですが、申し訳なくて否定もし難い。
「じゃあ、最初は散歩だね、方向とか案内は幸太君に任せても良いかな?」
「ああ、大丈夫。それでも、ゴブリンに会えなかったらゴメンね。」
変な所で、僕は予防線を張ってしまう。
なかなか、簡単には変われないな・・・。
10代の悩みですね!
大人になると、気にならなくなったりしますけどね〜。
それが、良い事なのか、それとも悪い事なのか。
それは誰にも分かりませんよね〜♪




