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閑話、自衛官三橋さん6

 先輩の乗り替える車を用意させ、俺が預かった『魔法力』付き武器を他の車に託し、俺たちは戦線を離脱した。


 俺は、握力の尽き震える自分の両手を見下ろし、安堵とも、恐怖とも、そして失望とも言えるため息を吐き出した・・・。


 もう、本当に、色々とごちゃ混ぜだ。


 もはや、そんな自分を叱咤しったする気力も湧いて来ない・・・。

 放心するなか、俺の心に浮かんだのは、あのヘリは何処に行ったのだろう?という取り止めもないものだった・・・。




 離脱した先には、先輩の乗り替える車が何処だか分からないほど、同僚たちが集まっていた。

 怒るよりも、諦めが先にたった。


 ここまでだと・・・。


 だが、皆の雰囲気には希望があった。訝しんで、その視線の先を追ってみると、皆の視線の先には、一台のヘリが止まっていた。



 開かれた扉の向こうから降り立つのは、見紛う事なき少年の姿。



 顔の半分を覆う様な巨大な眼帯に、緑色したポンチョ、黒い長ズボンに黒い靴。特徴的な幼女をその頭上に乗せ、颯爽さっそうと皆の間を返礼して抜けて行く。


 俺は、ただ放心して、その姿を目で追っていた。




「これより!我々『ダンジョン・フィル・ハーモニー』は、九州ダンジョンの氾濫鎮圧に向かいます!!皆さんは、ダンジョンから這い出たモンスターの掃討にあたってください!」




 ピンっと背が伸び、堂々とした立ち振る舞い、確かな矜持を感じさせる言葉。言葉が脳に染み渡るとともに、溢れる期待に、俺は握力の尽きたはずの両手を再び握り締める・・・。



「皆さんにご武運を!!」


「「「「ご武運を!!」」」」



 自然と、返事を返していた。


 最も危険な所に立ち向かう、彼らに頼まれたのだ、任されたのだ!これで動けなければ、漢が廃るってやつだ!子どもに覚悟を決めさせて、休んでる場合じゃない!!


「おい、三橋。予備の武器、取って来たぞ。」


「あっ!先輩、ありがとうございます!!」


「だけど、無理するんじゃねえぞ?武運ってのは、死ぬ事じゃなくて、生きる事だろ?」


「え?どうなんでしょうね?勲功・・・、かな?」


「それじゃあ、一等は彼らで間違いないなぁ。俺らは、ここまで十分働いたし、ゆるっとやろうや。」


 緩くやろうって事だろう。

 先輩の話方は独特で、少し分かり難い。これも、相手に考えさせるテクニックだろうか?


「彼らがやってくれるなら、ここからは殲滅戦です。お祭りに乗り遅れない程度に、ついて行きましょうか。」


「それが良い。十文字さんはどうします?」


 先輩が、座って煙草をふかす十文字さんに問いかける。

 あの人、完全に休憩モードだ・・・。


「給油が終わったら、怪我人の回収でもしてるよ。それまでは、休憩だ。」


「じゃあ、俺たちはちょっと行ってきますんで、後をよろしく!」


「五輪も、面倒見が良いねぇ。悪いが、連中に無茶をさせないようによろしくな。」


 ・・・ああ、それで先輩も行くっすね・・・。

 申し訳ありません、お手数おかけします。




 双葉も回収して、いざ彼らの後を追うと、そこには道が出来ていた・・・。


「先駆者の背後には、道が出来る。なんて言うけど・・・、これはまた、すごいねぇ。」


 彼らの通った後は、モンスターが蹂躙され、殲滅された、モンスターの空白地帯と化していた・・・。

 モンスターのいない、ドロップアイテムが散乱するこの先が、彼ら通った道だ。


 圧倒され、驚愕しながらも、なんとか彼らの開けた隙間を広げようと皆で奮闘した。


「先輩、ゴーストがいやに減ってないですか?」


「気づいたか双葉。彼らが、意図的に減らしていってくれたんだろうな。この大群の中を・・・、冷静な事だよ。おまえさん方も、見習いなよ?頭に血が登っちゃあ、勝てるものも勝てない。」


「っす!」「はい!」


 またヘリ?今度は2機も?

 どこかから増援?

 いや、双葉の事といい、自衛隊は各地から対ゴースト要員をすでに絞り出している・・・。この事態に対応出来る人員は、何処にも居ないはずだ。



 しばらくすると十文字さんが、ドイツ、オランダ、両軍の対ゴースト要員を連れてやって来た。


 減ったとはいえ、まだまだゴーストは山ほどいる。

 何よりも望んだ増援に、俺は緊張の糸が切れ、へたり込んでしまった。隣で、双葉もへたり込んで泣いていた、それほど嬉しかったんだ・・・。


 世界は、俺たちを見捨ててはいなかった。


 鳥野郎に時々苦戦させられるものの、後は概ね順調だった。

 ドイツ、オランダ、両軍の参戦もあり、ゴーストの排除がスムーズ行くようになったおかげだ。やっぱり、あのモンスターが特殊過ぎる。




『ダンジョン・フィル・ハーモニー』が、減らして行ってくれたおかげもあり、一時5万体を超えたと言われるモンスターの群れも、その数を減らし、ついには見当たらなくなった。


 ダンジョンの入り口を警戒している部隊からは、時々通信が入っていた。


『後続のモンスターがダンジョンから這い出す様子はない!同じく、彼らがダンジョンから出て来る様子もない!継続して警戒を続ける!』


 心ある同僚からは、時折ダンジョンへの増援や、様子を見に行くべきだという声も上がっていたが、俺たちは、あくまでも周囲に溢れ出たモンスターの討伐に尽力した。




 各エリアから敵影なしの通信を聞きながら、ダンジョンの入り口に急いだ。

 ダンジョン前の広場に入ると、同僚たちが続々と集まって来ているところだった。


「先輩、見て下さいよ!!」


「・・・すごいな。」


 双葉と先輩が、足元の砕けた地面を見入っている。

 どうしたんだろう?

 地面が、蛇行する様にめくれている。あまりに規則正しく、まるで幾何学模様でも描いたかの様だ。


「こう、左右に交互に撃っていき・・・、彼らは、この中央を走り抜けて行ったんだろうな・・・。」


「中央が、ダンジョンに向かって、完全に真っすぐになってますよ!?」


「魔法というスキルの運用も、もう少し・・・考えなきゃならないな・・・。」


「恐ろしい技術ですよ。」


「こうして、自分たちが未熟だと思い知らされるのは、たまらんなぁ・・・。」


「本当ですよ。これまでモンスターに向かって撃つ事しか、考えてなかったですからね。」


 2人が議論している間にも、同僚たちは集まって来ていて、本部とも連絡がつき、偵察隊を出す手はずとなった。

 先輩は真っ先に外され、俺たちはそのあおりを受けてお預けだ。


 夕陽に真っ赤に染まるなか、偵察隊を送り出そうとしていた時に、彼らは出て来た。

 全員が笑顔で健在をアピールしていた。


 思わず皆、声の限りに叫んでいた。

 俺たちの長い長い1日の終わりを告げる、英雄たちの帰還だった。

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― 新着の感想 ―
自衛隊員の疲労と絶望、そこに凛とした希望が降り立ち背中を任せたと振り返りもしない…涙が出てきたよ いつの間にか自衛隊員の気持ちになってたや
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