閑話、自衛官三橋さん2
春先です。
もちろん三橋さん。
「先輩逃げて!!」
双葉の奴が、転がる様に逃げてきた。
その後ろからは、大量のモンスターたち・・・。見慣れた、ゴーストにスケルトン、それに見慣れない色違いのゴーストまでいるっす!
「また氾濫の兆しか!?双葉、おまえはそのまま報告に向かえ!全員足を止めるな!!『魔法力』持ちが来るまで逃げ切れば、俺たちの勝ちだ!這い寄る連中には、鉛玉をくれてやれ!!無理して近接武器にこだわるな!命が第一だ!」
先輩に指揮権はないっすけど、みんなが指示に従うっす。先輩が、みんなに信頼されてる証っす。双葉への指示も、敵前逃亡を指摘されないための処置っすね!いや〜、出来る男は違うっすね!
先輩の糞尿を馬鹿な上司に飲ませてやりたいっす!爪の垢なんて勿体なくて、出来ないっす!あんな奴、糞尿で十分っすよ!
ライン防衛を、功績と勘違いしてる毒島なんてね!!
「銃弾はゴーストには効かないぞ!スケルトン共を狙え!撃つ時は嫌いな上官を思い浮かべろ、驚くほど命中するからな?」
ぶふぅ!?
先輩・・・、さすがっす!
辺りからは、緊急事態とは思えない笑い声が聞こえていた。
マニュアルでは引く場面だ・・・、だけど、イタリアの研究結果を知ってる先輩は、ダンジョン内部でモンスターを倒す事を進言している。
それを知ってる、俺たちがやる事は決まっている。
「春日の馬鹿が、武器を持ったまま逃げやがった!!」
思わず、絶望する情報だった。
それでも、五輪先輩は止まらない!
「『魔法力』付きの武器は何本ある!?攻撃魔法持ちは、ギリギリまでMPを温存しろ!」
「2本です!」
「無理をせずに、腕が重くなって来たらすぐに次の奴に回せ!!撃ち終わった銃器は捨てても構わない!銃器には替えがきく!身軽になって、モンスターを誘導してくれ!!」
銃弾が尽き、MPが尽き、モンスターの接近を許すのは時間の問題だった。
何処をすり抜けたのか、先輩にレイスの接近を許してしまった。
「先輩!先輩!先輩!!」
倒れた先輩に取り付いて、俺は声をかけた・・・。
目が動いた!
「・・・だ、・・・じょう・・・。」
生きてる!
ゴースト系のスキルの影響だろう、まともに動く事が出来ない様だ!
だけど、俺が動く前に、先任の上官が動いてくれた。
「撤退だ!!双葉!三橋と一緒に五輪を引っ張ってけ!!」
「「了解!!」」
2人で、先輩の腕を持って引きずって行く。
「・・・、・・・も『魔法力』付きを持って・・・!・・・・・・!!」
「・・・!?」
背後から聞こえる指示に、俺は涙を堪えて、足を動かし続けた・・・。
先任の五十嵐さんの奮闘で、今回の氾濫は事なきを得た。
だけど・・・、ダンジョンに残った彼らの半数は、鬼籍に入ってしまった・・・。
九州のダンジョンに、破滅の足音が刻一刻と迫っている事を、肌で感じる事態だった。




