248話
僕らは1日休憩を挟み、『スケリトル・ドレイク』の討伐に向かった。
人によっては、契約内容は達成したんだから、止めておけばいいのにと言うかもしれない。もちろん、その選択肢も考えた。
だけど、僕らは決行する事を選んだ。
これは、投資なんだ。
僕らの住んでいる、日本の安全。
今回の依頼主である、日本という国からの心象。
サポートしてくれる人たちの、今後の交渉のしやすさ。
大使の立場。
そして、今後の依頼主からの期待。
今回の仕事は、今後の指針となり、依頼主の指標ともなる。
まして、今後はボス討伐が望まれるだろう。なのにそれらしきモンスターを回避していたら、依頼主を不安にさせるだけだからね。
契約にないところまでやって、ブランドとしての価値を高めておきたいところなんだ。
まあ、僕が勝手にそう考えてるだけなんだけどね!
ミラに言ったら、笑われるかもしれないし、もっと良い手を提示してくれるかもしれない。
馬脚を現して早く楽になりたいけど、失望されるのは避けたい。
最近、僕に芽生えたちっぽけなプライドと、絶賛協議中です・・・。まあ、どっちも事なかれの、保守派なんですけどね。
だけど、ブランド品がやたら高いのには、信頼があるからなんだ。
食品のブランド化には、守るべき品質があり、それが守られる信用が価値を生み出すんだ。
出来れば僕は、『ダンジョン・フィル・ハーモニー』が、そんなパーティーになれればいいと思ってるんだよね。
探索者としての、価値と品質を守るパーティーだ。
とはいえ、前回の、8階層の時のような失敗はしたくない。
みんなの命を危険に晒す事態にはならないと、予測した上での決定だ。
そのための条件は、風下をとる事と、逃げるための速度を失わない事だけだ。
実に分かりやすく、単純な条件だ。
だからこそ決行する事に迷いはなかった。
ここまでの経験上、ドロップに期待してるっていうのも否定出来ないけどね!
ああいう特殊な奴は、良い物を出すんだよ!!
5階層についた、やはり前回と同じく微風だ。
木々の配置次第では、ほとんど感じる事の出来なくなる程度だろう。
それ故に、方向感覚と風の向きには細心の注意が必要だ。
「風向きが良くないな・・・。」
「・・・そうだね。背後から、僅かな風を感じる。」
僕の呟きに、遥が答えてくれる。
「前回遭遇したのは、ここからほとんど真東だったのよね?」
「ああ、そうだった。」
「なら、北か南を迂回して探してみるのはどうかしら?」
「そうだな、アデレードの意見が妥当だと思う。幸太どうする?」
うん、極めて穏当な意見だ。
同じ認識をしてくれている事に、心底安心する。
「今回は奴との戦闘が目的だから、探索は二の次だ。前回と同じルートで、北から辿って行こう。」
効率的なマッピングや、宝箱との遭遇率を後回しにした探索だ。
思わぬ地形があったりして、そんな所で奴と遭遇する、そんな可能性を危惧しての選択でもある。
異論は出なかった。
なので計画通り、エミリアから預かった香水をソフィアが振りかけ、探索を開始した。
今のところ、モンスターとの遭遇率に違和感はない。
例の、木々をなぎ倒す音も聞こえて来ない。
ただ、前回と違って、すでにみんなが集中している。いつ戦闘になっても、問題のない状態だ。
・・・
・・・いない・・・。
前回遭遇した場所まで、たどり着いてしまった。
ここまで、奴が破壊した所為か、木々の配置に僅かなズレが感じられる程度で、異常らしき異常は見受けられなかった。
遭遇した地点自体は、未だ酷い有り様で、地形が変形した上から草が生えている。
「いませんね?」
「仕方ない、別の場所を探してみようか。」
「そうだな。だが、その前に休憩だな。」
『賛成なのです!!』
直ぐに出発しようとした僕に、ミラが待ったをかけた。
いけないいけない。九州に来た初日にもやったのに、また疲労の事が頭から抜けていた。実感が薄いせいか、時々抜け落ちてしまう。
集中力も切れかけていた。
ちょうど良い頃合いだろう。
「先に、ミラ、遥、エミリアが休憩をとってくれ。残りは警戒を続けて、後半組だ。」
みんなから返事が返ってきて、ミューズが元気にキョロキョロと辺りを見回している。
それにしても、ダンジョンの地形をこんなに変えてしまうだなんて、どんなパワーなんだ?それとも重量かな?
「エミリアどうかしたの?座らないの?」
「・・・いる・・・。奴は近くに居るぞ!!」
エミリアの声に、咄嗟に臨戦態勢をとるも。
地面を突き破って、奴が飛びかかって来る方が、一瞬だけ早かった。
僕は近くにいたアデレードを庇って、奴から距離をとるも、完全にパーティーが分断されてしまった。




