表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
241/455

231話、閑話、某所

某所と警備会社。

 その日、この部屋は大荒れだった。


「何の冗談だ!?」


「侵入した奴の身元は分かったのか!?」


「メキシコ国籍の男性で、ホセ・クレメンテ・ホロスコ34歳だそうです!」


「聞かないコードネームだな・・・。諜報に身を置く人間ではないのか?」


「そんな馬鹿な!?『ダンジョン・フィル・ハーモニー』の藤川 幸太の家に、たまたまコソ泥が侵入したとでも言うのか!?そんな偶然があるものか!」


 バンッと、机を叩く音が大きく鳴る。そんな音ですら、騒々しい部屋の喧騒に、あっさりと搔き消されていく。


「メキシコの大使館でも、今大慌てで入国の経路などを調べているとの事です。メディアに、そう発表してます。」


「あんな記者会見、表向きだろう!?内部の音声は!聞き耳はたてられんのか!?」


「そちらも同じです!大使館内は、寝耳に水の大慌てですよ。」


「・・・他国の関与を、疑うべきだな。」


 少し、喧騒が静まる。


「というと、合衆国アメリカ、カナダ、それかドイツによる自作自演の線でしょうか?」


「藤川がドイツに警備を委託してるのは、少し調べれば分かる事だが・・・。裏をかいて、という事もありえるのか?」


「今回の件に、全く関係の見えない国の関与を疑うよりは、あり得る事だと思います。」


「そうすると・・・、オランダと日本にも探りを入れてみるべきだな。」


「はい!」


「皆くれぐれも慎重にな?久々に遺体らしい遺体の残った事件だが、相手はあの『アンタッチャブル』だ、その事を決っして忘れるな!」


 ゴクリッと、喉の鳴る音が聞こえるかの様な静寂が、いつの間にか辺りを支配していた。


 幾つかの国の、諜報機関の支部ともいうべきものが、丸ごと消された事実が、全員の脳裏に思い起こされていた。

 はるか遠方の九州の地から、この名古屋、いや、豊田の地まで奴の手が届いている、その可能性を考慮しての事だ。


 日本の中でも特に湿度が高くて蒸し暑い、そんな不快な気候に負けない寒気を、この部屋にいる全員が共有していた。


『東洋の悪魔』は、飛び切り性能の良い耳を持っている、と言うのは、諜報の世界に生きる者たちにとって、もはや常識だ。

 この部屋に入ったら、メンバーの名前コードネームよりも先に教えられる、それほどの重要事項だ。


「少しでも情報を得たら、複数の手段でもって情報を残せ。僅かでも身の危険を感じたら、無理をせずに手を引け。いいな?皆の能力を疑う訳ではないが、相手は未知の能力を持った化け物だ。これまでの常識が通用するとは思うなよ、その事を念頭に置いて、各自慎重に行動してくれ。」


 手が2つ叩かれた。


「では、仕事にとりかかってくれ!!」


 この中の何人と、再び会う事が叶うのだろうか?

 そんな不安を胸に、全員が仕事に取り掛かる。


 取り残されたテレビの音が、メキシコの主張を繰り返し響かせていた・・・。



 ◇



 アラートに反応し監視カメラの映像に目をやると、警備対象のアパートに、普段は見かけない色黒な人物が近づいて行くではないか。


 服装におかしなところは見受けれらない、気候に合わせた薄着で男性の様だ。小さめのバックを担いでいるところにも、異常は見られない。

 普通に見れば、完全なホワイトカラーだ。怪しい人物ではない。


「おい、念の為に準備しとけよ。」


 それでも、仕事は仕事だ。


「珍しいな!あのボロアパートに近づく奴がいるなんてな!」


「ポスティングってやつか?それとも素人かな?」


 奴に近づく諜報員は生き残れない。これが言われるようになってから、数ヶ月もの月日が経っている。

 まともは神経を持った人間ならば、奴に近づく事はない。

 だけど、国家となると、稀に頭のおかしい国が、未だに存在する。


「賭けるか!?」


「俺がポスティングに賭けていいならいいぜ?」


「それじゃあ賭けにならねえだろうが!」


「お前がそれ以外に賭ければいいじゃないか。」


「やめやめ!賭けにならねえよ。」


 仕事を請け負ったはいいが、ここ数日は、ボロアパートの無人の部屋を監視するだけの退屈な日々だ、皆気が緩んでいる。おまけに家主が男ともなれば、皆が興味を失うのも無理のない事だ。


「2人とも準備は?」


「問題ありません。」


「普段から着けてるよ。」


 この辺は、軍人上がりを雇用しているこの会社の良さだろう。

 最低限の準備は、当たり前の事として行えている。


「では、そのまま待機・・・。いや、警察に連絡を入れ現場に急行する、いそげ!」


 なんと、この日に限って、不審者は白昼堂々と依頼人の部屋に押し入ったではないか!

 我が目を疑う事態だ・・・。


 同僚の反応の鈍さも、致し方のない事だろう。


「下に行って、車を回せ!!」


「マジかよ!?賭けとけば良かったぜ!」


「危ない、危ない。」


 警備会社といっても、逮捕権がある訳ではないし、被疑者へ尋問する事も拷問する事も、法律的には出来ない。だから、こうした処置は欠かせない。

 本国ならば、会社のコネでもう少し融通が利くところだろうに。他国で活動するときには、特に欠かせない処置なのだ。


 移動しながら、警備会社である事と、依頼人の住居に不審者が押し入った事を伝え、現場へ急ぐ。僅かな時間で、被疑者に逃げられ、依頼人の信頼を失っては目も当てられない。


 せめて、自分たちの手で捕らえて警察に突き出せば、最低限の仕事はした事に出来る。いや、むしろ昇給があっても不思議じゃないお手柄だろう。

 ここまでの映像は残っている。しかし、人相体格は偽装出来るものだ。討伐ないし捕縛が望ましい。


 殺すと、日本の警察はうるさいからな。

 それに、背後関係も追えない、それではイタチごっこだ。依頼人の心象も悪かろう。



 現場に到着して配置につく。事前に想定しておいたポジションだ、戸惑う事はない。

 扉の前に1人、アパートの階段下に1人、そして依頼人の部屋の窓の下に1人だ。後は被疑者が出て来るのが先か、警察が到着するのが先かってところだ。


 数分もすると、警察が到着したので、通報した身として説明をする。

 翻訳機があるので、意思疎通に支障はない。


 だが、依然として被疑者が現場から出てこないではないか。

 あれほど大きな音を立てて警察が到着したのに、何の反応もないというのはどういう訳だ?

 俺たちが不審に思ってる間に、警察官が依頼人の部屋をノックした。


「藤川さーん!藤川さんおられますか?」


 返事があるはずがない。


「藤川さん、開けますよー?開いてる?皆さんは、中には入られましたか?」


「いや、依頼人が留守なのは聞いている。我々は、被疑者が出て来るのを待ち受けていた。」


 事実を端的に伝えた。


「一応、中を確認してみますね。何かあったら言ってください。」


「了解です。映像にも残しているので、何かあればお伝えします。」


 言葉は濁しているが、お互いの仕事に支障が出ない様に配慮出来るのは良い事だ。

 とりあえず、この国での仕事が順調にいきそうで安心出来る。


「先に入りますね。藤川さーん、ふじっ・・・!!?」


「どうした?っ!?退がって!部屋に入らないで!!すぐに増援を要請する!お前は生死の確認をしてくれ!!」


 どうしたのだろう?

 1人の警察官が室内に残り、もう1人が私たちを押し下げて来る。


「何があった?」


「・・・人が、人が倒れています。今、生死の確認をとっています。現場を保存したいので、どうか立ち入らない様に。」


 ・・・いったい、何が起きているんだ・・・?

この部屋に入ったら=この支部に配属されたら。

支部に配属、と書いた方が直接的で分かりやすいのですが、部屋に入ったら、と書いた方が諜報部らしくてカッコいいかな?と思ってこちらにしました。


ご理解いただけると、嬉しく思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 いつの日にか、このメキシコ人の死因は判明するのでしょうか? 解答の無いミステリーはダメです。 そして、閑話として「幸太の家族の護衛(ドイツに警備を委託している?)の人達の様子も書いて欲しいです。幸太…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ