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219話

少し時間を戻して、2学期の頭から始めます。

これは、その少し前辺りの時間軸になります。

 先日フィッシャー大使から、初仕事はやはり九州のダンジョンで決まりそうだと連絡があった。今、すでに最後の調整に入ってるところだそうだ。

 大枠の内容が決まった時点で1度連絡があったので、特に困惑する事もなく話を進めてもらっている。


 日本から、装備を1つくらいは吐き出させようと、粘ってるところらしい。

 ありがたい事なんだけどね。あまりガメツイと、今後に影響して来ますから程々にお願いします。


 それじゃなくても、配信に、広告に、スキル発現指導と、日本政府からはけっこう毟り取ってますからね。

 そうなんだ、実は記者会見以降、日本、ドイツ、オランダから要請があって、スキル発現のためのカリキュラムみたいな物を実施してる。

 僕がやった事のメモは、大使に渡したはずなのに、出来上がったカリキュラムの確認と実施が、なぜか僕のところにやって来たんだ。


「射出系で、攻撃魔法スキル付きの装備を前報酬にくれたらやりますよ。」と僕が軽口を叩いたら、本当に持って来たんだ・・・。

 攻撃魔法の杖なんかの装備は、分かりやすく『ゴースト系』に効く、そのせいでフランスと日本が欲していて、普通のスキル付き装備よりもかなり割高なんだ。ぶっちゃけ、同レベル帯の装備の3倍高い。

 だから、さすがにくれませんよねっていう意味で言ったのに、次の日には用意されていて、断れなくなってしまった。


 こっちが初仕事なんじゃないかとも言えるけど、これは僕だけ居ればやれるので、『ダンジョン・フィル・ハーモニー』の初仕事は、九州のダンジョンでモンスターの間引きだ。



「大使、お誘いしておいてなんですが、視察は前回ので十分ではないのでしょうか?」


「はっははは!その通りだな!だがなに、私もLvを上げたくってね。視察を名目について来たのさ!」


「それって職権乱用では?」


「大使なんてやってると、自由裁量権が大きくてね。税金の無駄遣いや使い込みさえなければ、どうにでもなるもんさ!ましてや、君と懇意にしておいて損はない。むしろ賄賂の1つでも渡して、取り入って来いって言われるのがオチさ。」


『さすがのご主人様でも、2つも3つもスキルを覚えさせるのは無理なのですよ?』


「いやいや!そこまで欲張ってはいないよ!むしろ、スキルを得たおかげでMPが足りないんだ。だから純粋に言葉通り、Lvを上げたいのさ!」


「ミラから聞いて、レベル1以上の条件は満たしていましたしね。おめでとうございます。それならば、ゴブリンを狩って来たら如何です?」


「うん、そうなんだが、少し話をしておきたい事があってね。」


 やれやれ、外交官なんてやってるせいか、フィッシャー大使は前置きが長くていけない。

 早く本題に入ってよ。


「今度の仕事だけど、日本側と少し認識のズレがあってね。日本側は、とにかくダンジョンの外にモンスターを出したくない様だ。

 そこで、ダンジョン探索をしながら間引きを行うつもりなら、一定の成果を上げる事が条件だと言って来たんだ。」


『これまでは、防衛ラインでも引いていたのですか?』


「その通りだ、ミューズくんの言う通りらしい。」


『「効率悪そう。」なのです。』


「ああ、だが戦力も限られていてね。民間の探索者に力を借りても、それが精一杯だったそうだよ?」


「攻撃魔法が使える人材には限りがありますからね。『魔法力』が付いた武器は、集められなかったのですか?」


「そっちも、費用と数に限りがあったんだよ。ここだけの話にしておいて欲しいのだけど、すでに小規模な氾濫が幾度かみられたらしい。」


『大事なのです!』「それは、ヤバイですね・・・。」


 本当に洒落にならない・・・。

 氾濫があったという事は、すでに階層をまたいで、モンスターが出口付近まで来てるって事だ。豊田みたいに、1階層だから大丈夫って訳にはいかない。


「日本も苦悩しただろうな。今のところは抑え込めてもいるし、かと言って安心安全だとは言い難い。下手に情報を流して、民衆がパニックに陥っても対処に困るだけだ。」


「それで僕たちなんですか?」


「そういう事だよ。実績もあるし、君たちに押し止めてもらって、一息つきたいそうだ。」


『なんか、複雑な様で簡単な仕事なのですよ?』


「だね。」


 要するに、ダンジョンの外にモンスターが出ない様に、沢山倒せばいい、ただそれだけって事だね。


「ただ、ラインでの防衛でないなら、1月という期間中に5000匹のモンスターを倒して欲しいと言われてね、困ったものだよ・・・。ただ、実績のある手法で防衛したいと言う、相手の言い分も分かるだけに、どうしたものかと、君に相談しに来たんだよ。」


「いくら何でも、それは・・・。」


「そうだよねぇ。」


『ご主人様はともかく、アデレードやソフィアに5千匹は無茶なのですよ!?』


 うん、僕もそう思う。

 ある程度は僕がカバーしたとしても、とても達成するメドが立たない数字だ。

 もしかして、日本はどうしてもその防衛ラインを使用したいのだろうか?だとすると・・・、何かの実験か、戦術の研究・・・、あるいは・・・。


『ミラだって厳しいのです!こんな仕事受ける必要ないのです!!』


 ミューズが珍しく怒っている。

 レアだね!可愛いね!!


「いや・・・、待ってくれ。幸太くんなら・・・可能なのかい?」


「相手次第ですけど、おそらく。」

『ご主人様なら余裕なのです!!』


 どうしたんだろう?

 大使が、頭を抱えている。


『はっ!?ミューズとしたことが!ご主人様に毒されてるのです!!』


 あれ?ミューズがひどいよ?

 大使と一緒になって、頭抱えてるし。お手ては、頭まで届いてないけどね!


『ご主人様、これはパーティーで5千匹倒せって依頼なのです。』


「ああっ!?なるほど!」


 変なところで、ゲーム脳が出てしまう。

 そりゃあ、個人クエストじゃないんだから、普通はそうだよね!

 でもそれ・・・。


「ちょっと、簡単過ぎるね。1月で5千匹ですよね?」


「あ、ああ・・・。」


「1万匹倒すので、何か装備を下さいって交渉してみて下さい。」


「・・・分かった。ふう、君は相変わらずだな!ああ、それと、『回復魔法』の習得についてなんだが、何か良い知恵はないだろうか?」


「スキルの発現、習得には本人の意思が必要です。この間、ご説明しましたよね?」


「まあ、そうなんだが。本国の連中が煩くてね。まあ、現場でも必要なスキルでもある事だし、何か良い手はないかね?」


 分からなくはないけど、正直、僕はため息を隠せなかった。

 後方の政治家どものために、僕らが働かなければならないなんて・・・。


「・・・なくはないですけどね。」


「そうか、悪いが頼むよ・・・。」


 教える事自体は構わない。『回復魔法』みたいな狙われやすいスキルの所有者が、増えれば増えるほど、今後は他の人たちも安全になって行くはずだ。何しろ、珍しいスキルではなくなるのだから。


「条件に合う、怪我した軍人さんに、『回復魔法』をかければ良いと思います。ただ、それだけです。」


「なるほど・・・。確かに、怪我をしている彼らが、今1番必要としている物だな・・・。」



「・・・日本は、各国にポーションを売っていたはずなんですけどね・・・。」


「残念ながら、本当に必要としている最前線には届かなかったよ・・・。」


『どこの国も、強欲な権力者には勝てないのです!』


 僕と大使は顔を見合わせて、どちらからともなくため息を吐いた。

善人ばかり出すと嘘くさいので、世の中ってこんなもん、みたいな感じで締めてみました。

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