22話
美しい女性たちに囲まれてダンジョン探索。
うん、夢だよね。
僕も、ダンジョンに行こうと決めて以来、幾度となく夢見たシチュエーションだ。
だけど、現実は厳しい事も知っている。
国によって政策が違うから、一概には言えないけど。自由意志でダンジョンに潜って『探索者』と呼ばれる人たちは、おおよそ8割が男性だって話だ。
そこには、男性の方が夢見がちで、女性の方が堅実な思考をする、脳の働きが作用していると言われている。
だから、探索者は男性の方が多い。
以前から探検家、開拓者、政治家とか男性の方が多い、これらも、その分類なんだとか。
ただ、このデータはちょっと古い。
去年あたりから、職業の自由を標榜としている各国が連携して、ダンジョンに行こうキャンペーンを行なっていて。歳若い年齢層の女性たちから、少しずつ浸透していっている。
内容としてはこうだ。
・ステータスによって肌が頑丈になり、日焼けや肌荒れに強いお肌が手に入る!
これは、あり得るかもしれない。
・ダンジョンの中をいっぱい歩いてダイエット!
街中を歩いたって一緒だよ?
・Lvが上がると、身体が最適化され、自分の持つポテンシャルを最大限に発揮する事が出来る、その結果としてあなたも美しくなれる!
ちょっと眉唾ものだけど、ダンジョン自体が不思議の塊なんだし、あり得てもおかしくないよね。
・ダンジョンのモンスターをぶっ殺して、ストレス発散しよう!
メッチャ分かりやすいです。でも、少しだけ倫理観に配慮した方が良いかもしれない。
・広大なダンジョン内を探索して、心と身体をリフレッシュ!
うん、ゴブリンが徘徊してるダンジョンでリフレッシュとか、頭がおかしいんじゃないだろうか?
だいたいどこの国でもこんな感じだ。
正直、僕としては効果が期待出来ないと思っていたけど。ダンジョンが1個しかないアメリカでは、美しさに飢えた女性たちが、ダンジョンに殺到したらしい。
その余波で、東京ダンジョンや大阪ダンジョンにも、人が流れて来ている。
この辺、欧米人の感覚って僕には全く理解出来ない。
でも、こうして1度流れが出来てしまえば、右へ倣えな日本人は、そんなものかと受け入れてしまう。
去年の高校の新入生が、クラスメイトと交流を深めに一緒にダンジョンに行ったって、トピックスにも上がっていた。今年もあるかもしれないし、今後トレンドになるかもって言う人もいる。
まあ、何が言いたいかというと。
今の僕がまさに、美しい女性たちに囲まれてダンジョンの探索をしている、探索者だ。
「うっわ!?・・・本当にブスッと刺さった・・・。」
「手が止まってるよ、逃げられちゃうよ!」
僕が貸してあげた『ゴブリン・ナイフ』の切れ味に、エミリアさんが驚愕して手を止めてしまっているので、僕は慌てて声をかけた。
ラーメン屋から戻った僕たちは、その足でダンジョンに潜った訳だけど。
僕が説明したナイフの違いに、3人がいつまでも懐疑的なので、業を煮やした僕が貸してあげたんだ。
僕だって、ナイフじゃなくて僕がすごいと思ってもらえる方が嬉しい。だけど、そんな事で彼女たちが怪我をしたら、まして死んでしまったりしたら、僕はきっと罪悪感に圧し潰されてしまうだろう。
だから僕は、大事な武器を他人に貸したくなんてないけど、1度だけ貸してあげる事にした。
「こら、逃げるな!」
「私が止める、エミリアはトドメを。」
「分かった!」
小柄なミラさんが上手くゴブリンの逃走ルートを潰し、エミリアさんが背後からナイフを逆手に持ってブスッとやった。
ゴブリンはあえなく黒い霧になって消えた。
「お疲れ様、ナイスファイトでした。」
「おお、コウタありがとう!」
「途中、エミリアさんが戸惑ったところ以外は、完璧でしたね。」
「うるさい、それを言うな!まさか、これ程違うとは思わなかったんだよ。」
そうだろう、僕も彼女たちの戦いを見て、ナイフの性能の違いが大きい事に気づけたんだから。僕の『ゴブリン・ナイフ』はスパッと切れる感じがするのに対して、彼女たちが外から持ち込んだ市販のナイフは、刃がないかのようで叩いているように見えたものだ。
「いや、幸太申し訳ない、幸太が実はギルドのまわし者ではないかと、疑ってしまっていた。」
「僕は悪徳業者か何かですか?」
「ナイフなんてピンキリだし、1万5千円もするナイフを薦められれば、さすがにねぇ。」
ミラさんも遠慮がなくなってきて、ぶっちゃけてきた。
僕でもさすがに冗談だと分かるので、笑いながら流す事にした。
これで一通り、みんなが『ゴブリン・ナイフ』を試したので、お開きにする事にした。
僕は、ダンジョンの入り口まで3人を見送り、自分の為の後半戦を開始した。




