210話
僕は、フィッシャー大使と握手をして、やっとの思いで席を勧めた。
何故か同席しているルカ情報官、それに今紹介された日本の情報官とオランダの情報官、はっきり言って名前すら頭に入って来ない。
「彼らも情報が欲しくてね。沢山あるようなら、折半して支払う事も念頭に入れてるよ。何しろ、支払われるのは国の税金なのでね、お互いに安く済ませたいのさ!」
情報は共有とはいっても、完全に共有出来るはずもなかった訳だ。
それを、情報料を節約する為とはいえ、協力体制を敷いてみせるとは、お友達大国ドイツの面目躍如ですね。
「映像を垂れ流してしまったので、どこまで売れる情報があるか分かりませんが、それでよろしければお話ししましょう。」
「君は、どこまでも奥ゆかしいね!」
いや、本当に!
スキルやステータスの話は論外だし、そうすると、アイテムの情報くらいしか思いつかないんだけど。
大使がキリッと表情を引き締めた。
「これは・・・、ここに居る皆が、いや、きっと全ての人が気にしてる事だと思うんだが。『眷属召喚』とは、何かな?答えてもらえるだろうか?」
思わずミューズと目を合わせたけど、特に隠す理由も思いつかなかった。
「『眷属召喚』は、見たまんまですよ?一部のモンスターが使ってくる技で、いや、魔法かな?どっちでも一緒か・・・。取り巻きを創り出す、スキルの事ですね。」
「・・・取り巻きを創り出す・・・スキル。」
何だか、みんなザワザワとし出した。
考え込む人や、近くの人と囁き合う人、多くの人は困惑している様な感じだ。
変な気分だ。
ゲーマーには常識なのに・・・、こんな事を真面目に説明する日が来るなんて。
・・・迷うところだけど、正直に言おう。
「この、眷属なのですが、あまりにもアイテムのドロップ率が高過ぎます。何か依代となる物が必要なのではないか、と推測されます。」
まあ、推測じゃなくて事実だけどね!僕が使えるから!
そんなことは、絶対に話さないけどね!
ザワザワと騒めきが大きくなってる。
だけど、気にせずに続けます。だって、僕ら疲れてるんだよ。
「今回の探索で言えば、『金棒』と『小烏丸』がそれにあたるのではないかと、僕は考えています。まあ、ただの憶測ですけどね。」
こっちは本当に憶測だ。戦鬼が落とした『金棒』はほぼ決まりだけど、カラスの大量虐殺現場から出て来た『小烏丸』は、八咫烏なんて見た事のない個体の近くに落ちていたという、現場証拠だけが根拠となっている曖昧なものだ。
あの場で、カラスの種類を見分ける事なんて出来なかったからね!
八咫烏の存在に気づいただけでも、僕は良くやったと思うんだ。
「取り巻きが落とす!『羅シャツ』の原理が働いてる訳だね!?そうか!だから他のホブゴブリンは落とさないんだ!!また1つ、謎が明らかになったね!」
「ルカ情報官・・・、まだ推測の域を出ませんよ。・・・それより、その話はここでしてしまって良かったのですか?もう伝えたというのなら、僕もそのつもりで話しますけど。」
「ああぁぁぁ!!?」
「ルカ・・・。」
ルカ情報官が悲鳴をあげ、大使に窘められてる。
どうやら、未だ共有してない情報を漏らしたみたいだ・・・。この人が情報官で、ドイツは大丈夫なのかな?
「・・・続けますね。この原理が確かならば、宝箱が消える理由も分かりますよね。」
『宝箱の中身が依代なのですか!?』
「ミューズ・・・。まあ、うん、そういう事だね。」
まさか、ミューズが1番に反応するとは思わなかった。
憶測とはいえ、最近頭脳ではめっきり敵わなくなったミューズを驚かす事が出来て、僕は嬉しい。
パーティーのみんなも驚いていて、部屋中が騒がしくなってしまった。
まだ、もう1個続けたいんだけど・・・。これじゃあ、叫ばないときこえないよ。
ミラに助けを求めようにも、ミューズと激しい議論の真っ最中だ。
手でも叩こうか?
そんな事をボーッと考えていたら、周りが急に静まり返ったので、訝しくは思ったけど、僕は気にせずに続ける事にした。
「そうすると、ダンジョンにとって宝箱とは、罠攻撃をするモンスターだって扱いになると思うんだ。」
幾つか、不思議そうな顔が浮かんでる。
どうやら、話の繋がりが見えていない様だ。
「宝箱はモンスターだから、当然スキルを使用する。これが宝箱の発見に、著しく偏りが出る事の原因だと思うんです。」
『みゅ?』
「そうか!?宝箱は己の存在を隠しているんだな幸太!!?」
「正解だよミラ。といっても、何か証明する手段がないと、仮説止まりだけどね。」
これもまず間違いない、僕が使えるからね。
『認識阻害』って言うんだ、武技なのか魔法なのかはサッパリ分からない。ただ身動きを止めている間だけ、発動出来るんだ。
ミューズには効かないけどね。そのせいで、効果の確認には時間がかかった。
そして当然、これも教えるつもりはない!
『これが、幸太が宝箱を見つけまくってる理由なのです?』
「それは違うよミューズ。思い出してみて?確かに僕は、宝箱に近づいているのかもしれない。だけど、宝箱自体を見つけてるのは、圧倒的にミューズの方が多かったでしょう?」
『みゅ?そうだったのです?』
「うん。きっと、宝箱の『認識阻害』はミューズには通用しないんだ。だから、僕が稼げてるのは、ミューズのおかげだよ。」
『みゅ〜〜〜〜〜〜〜っ!!そんな事言われると照れるのです!照れるのですよ!!』
ちっちゃな身体をクネクネさせて、ミューズが照れてる。
メッチャ可愛い!!うちの子、超可愛い!




